第59話「謎に包まれし男」
振り返るとそこには一人の着物を着た男が立っていた。
「な、ギャンビ・・ット?」
思わずそう言ってしまったがよく見るとギャンビットではない。目鼻立ちがとても似ている。
「誰?」
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンは村長ほど驚いてはいない。冷静にその男の真意を探ろうとしている。
「やはりその男はリボルバー・ギャンビットですか・・・」
「質問に答えろよ。一人で納得するな」
「いえ、話を聞いていたらもしかしたらと思いまして・・・あ、申し遅れました。わたしはリボルバーの弟ブローバックです」
「え?ギャンビット・・のお、おとうと?」
言われてみればという感じで二人は納得してしまった。
「というか、なんでここにいるんじゃ?」
「それはもちろんコリン塔の守護職としてです」
「え・・・ああ」
「・・・」
これも普通に納得してしまった。どう考えてもこの塔にいる時点でそのぐらいしか思い浮かばない。
「あの〜リボルバーさんと一緒に旅をされていたんですか?」
ブローバックが恐る恐る聞いてきた。
「ああ、少しの間だったけどな」
「そうなんですか・・・・」
「どうやらわけありのようじゃな。わしらでよかったら話してくれんか?」
「・・はい」
そして、ブローバックは兄リボルバーについて話し始めた。
「我々ギャンビット家はこのコリン塔の守護職として仕えてきました。父もそのまた父も代々受け継がれていたんです。小さなころは守護職として兄を一歩下がって追いかけている立場だったんですが、ある程度まで行ったところで私が兄の位を抜いてしまったんです。そのあたりから我々ギャンビット家は変わってしまった。父は長男のリボルバーの顔を立てるために、そして長男は長男で私に対して数え切れない仕打ちしてきました。」
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンたちは真剣にその話に食い入っている。
「最終的にはほとんど兄弟同士で話すことなどなく確執を生んでしまいました。そして、リボルバーさんは父の跡を継がなければならない身だったんですが、突然身勝手にも旅に出るという言葉一つでここを出て行ってしまったんです。そのため私が守護職をを継ぎ、今もここにいるわけです。まあ、300年も前の話ですが」
「ということはギャンビットって魔法世界出身だったのか」
「そういうことじゃな」
「それで先ほど言った通り話を立ち聞きして・・・・」
「なるほどね。そういえばギャンビットって結構性格というかかなり危ないやつだったからなぁ」
「そうじゃったのぉ。なにせ世界征服をしようとしておったからの」
ブローバックは意外と驚かなかった。
「やはり・・・。今・・兄、リボルバーさんはどこにいるんですか?」
「レイモンド王国まで一緒に来たんだけど突然失踪しちゃってな」
「そ、それは本当ですか?」
ブローバックの顔色が少し変わる。
「ああ」
「もしかしたら・・・」
「なにか心当たりがあるのか?」
「出て行く前からかなり財産分与にこだわっていましたから」
「財産じゃと?」
ここで息を吹き返したように村長が食いついてきた。
「ええ、父は守護職界でもかなりの大御所でしたから細かいものから貴重なものまで多くのものを持っていたので」
「宝石類もあるのか?」
「ええ、まあ」
「うひょひょー」
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンは村長をどついた。
「宝石って聞いては興奮するなよ。みっともない」
「いや〜すまんすまん」
「それにしてもギャンビットの失踪はさっきまで気にしていなかったけど何かありそうな気がするな」
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンは顎に手を当て考えるポーズをする。
「はい、わたしも嫌な予感がします」
「でも頭打って悪いギャンビットじゃなくなったはずなんだけどな」
「・・・」
「そういや根本的な質問するけど守護職って・・・」
「ああ、今ではもうほとんどいませんけどね。下にいる松平ゲンさんも守護職の一人ですよ」
「ああ、そういう人たちのことか」
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンの中で守護職のランクが下がった。
「300年前がピークでしたね・・・」
ブローバックの表情は少し寂しそうだ。
「まあ、今度ギャンビットに会ったらちゃんと監視しとくよ」
「いや、その必要はないです」
「え?」
「実はコリン塔に守護職としていることに疑問を持ち始めてたんです。ただ父を想い、続けていたんですがもうやめることにします。私は私の道を行く」
ブローバックは突然改まってこちらを見てきた。
「まあ、こんなとこにいるよりはましじゃろうな」
「はい、お供させていただけませんか?兄リボルバーは頭はすごく悪いですが昔から悪知恵が働くので、とても嫌な予感がするんです」
「まあ、付いてくるのは別にいいけどギャンビットはそこまで気にするほどじゃないけどなぁ」
「いいじゃないかエリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョン。ずっとここにおったんじゃぞ。それに案内人にもなる」
「そういや、そうだな」
「では、よろしくお願いします」
ブローバックはとても堅苦しいお辞儀をした。
「そんな堅苦しいのよせよ。楽にいこうぜ」
「あ、すいません・・・」
こうしてあの懐かしき元仲間リボルバー・ギャンビットの弟ブローバックが新たな仲間となった。
彼の案内は想像以上に役に立った。何の変哲もない一方通行の塔だと思っていたがいたるところに物質転送魔方陣が隠されており階段を上るよりはるかに楽な方法で上がっていった。
夕方になるころには塔の半分近くの2335階に来ていた。
「いや〜こんなに楽な方法があるとは知らんかった。ふぉふぉふぉ、フゥーーーー」
村長はとてもうれしそうだ。
「こっちは700階も徒歩で来たなんで驚きですよ。アハハハハ」
ブローバックは思ったより早く馴染んでいた。
「あ!!」
ここでエリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンが大きな声を上げた。
「どうしたんじゃ?」
「やばいよ、もう食料がない」
「じゃ、じゃあ夕飯はどうするんじゃ?」
「大丈夫です。私が持ってきてます」
そういいながらブローバックは背負っていた木箱を下ろした。
「なにが入ってるんだ?」
ブローバックが木箱の引き出しを開けるとエリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンと村長はすぐさまブローバックを押しのけて引き出しを覗き込んだ。
引き出しには白い錠剤のようなものが敷き詰めてある。
「こ、これは?」
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンは顔を少し引きつらせながら聞いた。
「フリスクです」
エリザベータ・アンゲルトリューテン・ウォンチョンはとりあえずブローバックを殴った。