07突発父の日企画より修正・再録










ちゃっ、ちゃっ、ちゃっ。



そんな可愛らしい音と共に、己の飼い猫がミルクを舐める様を目一杯幸せそうに眺めているのはご存知高遠日織。


「ふふ、本当に可愛いなあアンタ」

和と名付けられた黒に白足袋の子猫は、拾われた当初は衰弱していたもののその後取り立てて大きな病気をするわけでなく、日々日織達から可愛がられて(臆病すぎるのがたまに傷だが)すくすくと成長し。
そんな食事中の和の邪魔をする気はないのだが、親ばか全開で子猫のすること為すこと全て己の目に焼き付けておこうとしているせいか、暇さえあれば惜しみないスキンシップに勤しんでいるこの青年は。

「ありゃ…」

ふと顔を上げた先にあったカレンダーを眺めてある事に気付き、子猫に感けすぎたが故にどうしようもないことを思いついていた。

「さて、どうしましょうかねえ」

空腹を満たすことだけに一杯一杯な愛猫に向かって、言葉を理解する子どもに語りかける親のように、そう尋ねる日織の背後には。
本人は認めようとはしないが、愛猫に気遣い火をつけていない煙草を咥え、面白い記事でもあったのか熱心に新聞を読んでいる磯前の姿。

「んー…だからって今から何かを誂えるってのもなあ…」

つまんねえですよね、と一人呟く日織は、愛猫と恋人を交互に見比べて何やら真剣に考え込んでいるのだが。

「よし、旦那になら仕方ねえと譲りましょう!」

日織はいきなりぱしっと両手を叩き鳴らし、当然だがその音に驚愕したのかまだまだ短い尻尾を極限まで膨らませ、こちらを見た和をすっと抱き上げて。


「旦那!」
「な…………」


んだ。
突然日織に大声で呼ばれ、また何かくだらないことを思いついたのかと渋面になりつつも反射的に顔を上げた磯前は、そのまま凍りつく事となる。


「…………」


凍りついた磯前の目の前には、今までミルクを舐めていたはず和の姿。
そして和も磯前同様日織のせいで凍り付いているのか、目を見開いても鳴き声すら上げず、抱き上げられたまま突然視界一杯に広がった磯前を見つめていて。


「父の日に、可愛いわが子から初ちゅーをプレゼントでさあね」


強制的にキスをさせられ硬直する一人と一匹を他所に、仕掛けた日織はそれはそれは(というか大層)満足げに笑顔でそれを見ていた。




「母の日だったら俺が奪ったんですがねぇ。もう過ぎちまったし?」
「……………」




だから、ここは一つ旦那に譲ってもいいと思いまして。
強制的にキスをさせたまま、そう言ってのける日織に対し。





和に初ちゅーもへったくれもあるか!とか。
大体猫相手に父の日を押し付けるな!とか。
そもそも何で俺が猫の父親なんだ!とか。
それ以前にお前はドサクサに紛れてナニをする気だ!とか。






酷くミルク臭いプレゼントを押し付けられた磯前は、硬直したままでも内心では怒涛の勢いで日織に突っ込みを入れたとか入れないとか。











平和で何より。
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