皆さんこんにちは。高遠日織です。



只今我が家では一人と一匹による、とある攻防戦が繰り広げられている真っ最中です。
…まあ、俺を除けばその一人は自ずと決まっちまうんですが、とりあえず俺はその攻防戦を傍観してる最中でして。
そうそう、一匹ってえのは、勿論うちで飼ってる可愛い可愛い猫の和さんのことですよ。
もう和さんときたら、拾ったばかりの頃のよちよち歩きが今じゃ一丁前にトコトコ歩けるくらいにまで成長しましてねえ。
目の前でちょこっと指を左右に振ってみせるだけで大きな目を右へ左へと忙しなく動かすんですが、その際いつの間にか顔も動いてて挙句ひっくり返ったりするんでこれがまた可愛くて…って、いや、失礼しました。


ええと、なんでしたっけ。
……ああそうでした、磯前の旦那と和さんの攻防戦の話でしたね。


悔しい事に、和さんが一番懐いてるのが磯前の旦那でして。
俺よりもとにかく旦那の膝や懐に居る時の方が多くて羨まし…のはちょっと置いときましょう。
その旦那が昨日まで仕事で二週間程家を空けていたんですが、その間和さんは寂しかったんでしょうねえ。
ひたすら俺に擦り寄ってきて、しかもごろごろ喉まで鳴らして甘えまくってくるんで、映画の撮影がもうちょっと延びねえかな、と思ってた矢先に旦那が帰って来たんですが。
俺と遊んでいたのに、和さんはあっという間に旦那の懐に潜り込みました。
着替えすらしてなかったんで流石に怒られてましたが、懐に潜り込むのを許されるのを待ってるのか、着替える間旦那の足元でじっと見上げてるんですよ、散々甘えてたくせにもう俺のことなんか見向きもしません。


……いいんです、母親ってのは耐えるのもまた愛の形なんです。


正直なところ俺としてはね、散々和さんから甘えてもらった後だったんで、ここは一つ大きな心で見守ってやろうかと思ったんですよ。
…そりゃ悔しいのは否定しませんけど。
で、お許しもでて何時も通り旦那にべったりの和さんなんですが…問題はここからなんです。


……和さんが旦那から離れねえんです。


寝るときは絶対寝室に入れないってのが俺らの決まりごとですから、それに従って和さんはごねることなく寝るときはちゃんと居間の寝床で丸くなるんですが。
問題はそれ以外の時で、朝旦那が起きてくると、そこから和さんが旦那から離れなくなるんです。
飯を食う時はいつも旦那の膝の上だし、新聞を読む時も結局旦那の膝の上なんで特別何か変なことでもないんですがねえ…その……ああ、またやってますねえ。
旦那、贅沢な悩みなんですから諦めて連れてってあげたらどうです。男同士なんだし、別にいいじゃねえですか。


……あ、人に和さんを預けながら凄ぇ形相で睨んでった。


あははは、流石の旦那も形無しってヤツですが、今回も理性が勝ちましたか。つまんねえなあ。
いえね、和さんと来たら旦那が留守にしていた間を埋め合わせるように旦那にべったりで、風呂どころかトイレにまでついていこうとするんですよ。
で、旦那は流石にトイレは勘弁してくれってことで、俺に和さんを預けていくんです。けど和さんは離れまいとして珍しく爪を立てて抵抗するし、たかがトイレに行くのに大騒ぎってわけです。
はいはい和さん。旦那は和さんを置いていった訳じゃねえんですから、戻ってくるまで俺と一緒にいましょうね。
そんなに悲しそうに鳴かなくていいんですよ、お父さんは直ぐに戻って来ますんで…おや、本当にすぐ戻ってきましたよ。


…ちょいと旦那、我が子可愛さに慌てるせっかちなところも俺は十分惚れてますが、ちゃんと手は洗ってんでしょうね…？いてっ！何も殴ることはないでしょう。
あーあ、何だかんだと言いつつ直ぐ和さんを人から取り上げるし、和さんもいそいそと旦那の懐に潜りこんじまって…全く妬けますねえ。


さて、二人の仲睦まじさに流石に妬けるんで、傍観を止めて俺も雑ぜてもらうとします。
折角のクリスマス、親子三人で仲良く過ごしましょうや。