2011クリスマスSS


「と、言うわけで旦那の担当はコレです」


師走も半ばのとある休日。
いつものように懐に潜り込んでくる愛猫の和を抱え込み、湯のみ片手に新聞を捲っていた磯前は、何の前振りもなしに連れの日織から差し出されたものを見て思い切り渋面になっていた。

「…なんだこれは」
「何だって、旦那も聞いてたでしょうに」
「待て、何の話だ」
「何のって、お父さんの担当の事ですよ?」
「だから誰がお父さん…ってのは置いておいて、端折るな企むな暴走するな」
「えー…」

大層人の好い笑顔で【それ】を差し出す日織に対し、差し出された磯前ははいはいと素直に受け取るにはかなり抵抗があって。
しかもそれを承知で差し出している日織がまた良からぬ事を計画している危険を察知したため、とりあえずの処置として釘をさすという形で先制を取ってみた。

「もうすぐクリスマスでしょう?」
「それがどうした」

残り一枚になってしまった月めくりカレンダーを見やり、ね?と同意を求めてくる日織に頷きはしても、それがどう関係してくるのか判らない。
そもそも日織は役者との二足わらじで(今ではどちらが本業か判らなくなりつつある)喫茶店勤めもあってイベントとして色々あるかも知れないが、磯前自身は仕事(とそこからなし崩しの忘年会)が入るくらいで騒ぐ理由にもならない。
クリスマスにかこつけて限定メニューを考えては試作品を食卓に出している日織から、普段卓袱台に並びそうにない料理はまだしも、甘いモノが苦手な身としてはデザートを出すのは勘弁してくれと思っているくらいだったりする。

「クリスマスにはサンタがいなきゃいけないでしょう」
「……まさか」
「そのまさかですぜ。我が家には可愛い可愛い和さんが居るんです、お父さんがサンタになるのはお約束でしょう?」

ねえ和さん?と、それはそれは親ばか全開の笑顔で磯前の懐に居る和へと話を振る日織が手にしているのは、大きさといい毛並みと言い本物と見紛う程の大層良い出来のうさぎのぬいぐるみ。
日織が持っているだけでも(主に視覚的に)ミスマッチであるのに、それを更に似合うはずのない磯前に差し出してくる理由となれば、たった一つしか思い浮かばない。

「旦那や俺が和さんを構えない時用に、これが一緒に添い寝してくれたら寂しくないでしょう?」
「それはわかるが、だからってな」
「最初からこれだけ与えたんじゃ、和さん警戒してくっつこうとしないでしょうし。でもほら、旦那が懐に和さん共々このうさぎを抱いててくれれば、いずれ和さんも慣れるって寸法です。ねー?」
「あ、おい!」

日織がしようとしていることに気付いた磯前が制止の声を上げるよりも早く、ぬくぬくとご満悦でまどろんでいた和の傍らに手にしていたうさぎのぬいぐるみを詰め込めば、当の和は最初はびくりと小さな体を目一杯引き攣らせる。
けれど磯前の懐に居て、かつその磯前が(本人的には大層な渋面になっているが)それをどうこうすることはなく、ただ和を安心させるように服の上から軽く数回叩いてくるだけだから、すぐに体の強張りを解いてぬいぐるみの匂いを嗅ぎ始めた。

「…おい、このぬいぐるみが何やら随分ぬくいんだがな?」
「ああ、そのうさぎは腹の中にカイロ抱けるようにこさえてあるんでそのせいでしょう。湯たんぽもいいんですが、こっちの方が間違いねえかと思いまして」
「普通のカイロ入れでいいじゃあねえか。それでなくとも忙しいこの時期、なんでわざわざこんな人形こさえてんだお前」
「和さんのため以外に何があるんってんですか」
「聞いた俺が馬鹿だった」
「ついでに可愛い和さんが可愛いぬいぐるみと一緒に温くなってる写真が撮りたかったってのもありますが」
「容易に想像できるからわざわざ言うんじゃねえよ」
「あ、旦那が可愛いモンに囲まれてるところを撮りたいってのも一応ありますが」
「だからもう口を閉じろ!」

多分(いや間違いなく)自分よりも磯前に懐き甘えきっていることへのやっかみも含まれていることを感じ取り、これ以上脱力する事実を突き付けられるのも御免だとばかりに余計な抵抗を諦め、和をぬいぐるみに慣れさせるべくまとめて懐に入れておく事を享受した。

「そんなに怒るこたぁねえでしょうに。大体これの提案者は三笠さんですぜ?」
「………」

でも三笠さんは旦那みたいに懐に潜り込まれるほど懐かれてませんしねえ、と何やら(無駄に)勝ち誇った様子で綺麗に微笑む日織に対し、自分の預かり知らぬところで和をめぐってまた三笠とひと悶着起こしていたらしい様子に、磯前はいよいよ本気で脱力する以外道はなかった。


「今夜は菊原さんとこでクリスマスパーティですからね。飲む事が決まっている以上車は俺が出しますから、旦那はそのままぬいぐるみと和さん抱いていってくだせえな。皆さんにうけますよ」


ついでに三笠さんが相当羨ましがると思います、と付け加える日織に、和が絡むと(どこまでも無駄に)努力を惜しまず斜めに狭量になる性格を目の当たりにした磯前は、この後起こるであろうひと波乱に今から大きなため息を零すだけ。



にぃ。



そんな磯前の心労を思いやったかどうかは判らないものの、直ぐにぬいぐるみにも慣れた和が慰めるように一声鳴いては喉を鳴らすのだった。




【ねこ・ねこ・間奏曲 人間、脱力する?・完】



UPがギリギリになってしましましたが、2011クリスマスSSです。
うさぎのぬいぐるみはうさぎ駅長もっちぃがモデルww(超可愛い)
悪人面のおっさんが可愛い愛猫とぬいぐるみと懐に入れている、
その場面が書きたいがために出来たSSです。当然俺得です。
たったこれだけの長さにUPまでどんだけかかってんだ自分…。
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