ハロウィン期間限定で拍手にて公開SS。全5話。
このオチが書きたかったんです(え)。
「良かった。みんな楽しそう」
幼稚園の中に置かれた無数のかぼちゃランプの中、思い思いの仮装をした園児たちの賑やかな歓喜の声を聞きながら。
足を挫いてしまった和先生と、元から万が一の救護係りだった園長先生は、園内の隅に置かれたベンチに並んで座ってそれを眺めていました。
「…痛むか?」
「いいえ、さっきよりは痛まないです」
「そうか。ならいい」
「…………」
動けない以上何もすることがない和先生は、さり気なく様子を見に来た日織さんへ自分が配る分のお菓子を預け、あとはただぼんやりと子供達の様子を眺めているのですが。
二人の視線は園児の方を向いているので交わることはありませんでしたが、何を話すでなく、こうして並んでいられることが嬉しくて。
そして言葉少なでも、時折園長先生が声をかけてくれることに、どれだけ心配してくれているのが知れて。
不謹慎かなと思いつつも、和先生の表情にはほんわりと嬉しさに笑みが零れます。
「そういや今更だが…お前なんて恰好してんだ」
「うっ」
「ふん、どうせ日織にやられたんだろうが。違うか?」
「正確にはあやめちゃんたちに捕まって、日織に着替えされられた、です」
「……………」
言葉に詰まりながらも律儀にコトの次第を話す和先生に、園長先生にはその場面がた容易く想像できてしまったのか、苦笑いと共に宥めるように頭を撫でてくれました。
「…先生」
「んー?」
「なんか、思い出しますね」
「………ああ」
和先生がぽつりと呟いた「思い出す」というのは、園長先生がまだただの磯前先生だった頃の事。
早くに両親を亡くし、頼る親戚もなく(色々あって)磯前先生に引き取られた和先生は、ここへ園児として通い、今日のようにハロウィンに参加して先生たちからお菓子を貰ったことがありました。
「如月が理事になって、俺が柄でもない園長に納まって。その上まさかお前が戻ってくるとはなあ」
「…え、と、迷惑でしたか?」
「ンなわけねえだろ」
感慨深げにそう呟く園長先生に、和先生はちょっとだけ不安そうな視線を向けますが。
園長先生はすぐに笑い飛ばしてそれを否定し、さり気なく頭を撫でていた手をすっと頬へと移して、和先生だけしか知らない特別な指使いでそこをなぞります。
「ただひこせんせい?」
「くくっ、その呼ばれ方も久しぶりだな」
その仕草が何を意味するのか判っている和先生は、側に誰がいる訳でもないのにちょっとだけ赤くなりつつ小声で問いかけて。
焦りもあったのかつい懐かしい呼び方をしてしまい、それを園長先生に指摘されてまた和先生の顔が赤くなります。
「なあ、和」
「は、はい?」
「Trick or treat.」
「へ?」
「Trick or treat.…お菓子くれなきゃ悪戯するぞ?」
「………ぶっ」
でも、園長先生が突然真顔で園児たちと同じことを言うものですから、和先生は顔は赤いままでも思わず噴出してしまいました。
「さっき日織に預けちゃったから、僕、お菓子持ってないんです」
「じゃあ悪戯だな」
しれっととんでもないことを言う園長先生に、和先生は驚いて一瞬目を見開きますが。
「えーと……皆帰ってからならいいですよ。っていうか、して?」
「…………」
すぐににっこり笑ってこう答えれば、今度は園長先生の方が驚く番でした。
「……上手いこと返しやがって。育ったのは成りだけじゃねえな」
「お陰さまで」
園児達に向けられていたはずの視線がいつの間にか絡み合い、今この場で許される範囲で自分達だけに通じる言葉を交わす二人は。
「皆さん、何かあっても向こうに行っちゃいけねえですよ。そんな野暮なことしたら、お馬さんに蹴られちまいまさあね」
「はーい」
「はーい」
誰も邪魔をしないように、さり気なく日織さんが園児達を(飛び切りのお菓子でもって)誘導していることには全く気付きませんでした。
……さてはて高遠幼稚園はなんとも平和です。
色々突っ込みどころがあるでしょうが、私としては書いていて非常に楽しかったです。
パラレルだろうがなんだろうが、結局磯和ですすみません大好きなんです(今更)。
でもこの光谷さんとか流行り神の三人は書き易かったし、愛着があります。
…またネタで出したいなあ…つか出せたらいいな、何かリクあればどうぞですよ。