「ちょっとしたお守り代わりにと思って用意してたんだがな。
そういう意味で渡しても差し支えはねえだろうよ」
「………ゆびわ?」
元々リングのサイズ云々よりも、好意的でない対見えないお友達(つまりは魔よけ)の為にと石の質で選んだそれは、和くんの指に大きさが合わないことを承知済みだったので首からぶら下げられるように細い鎖がついていました。
「おおっぴらにされたら流石に不味いんだが。お前が俺に変な気を遣って変な我慢をするくらいなら、これでいいんじゃねえか?」
磯前先生はしれっと言い切りますが、冷静に考えなくとも差し支えはありまくりなのにここで生憎それに突っ込んでくれる人がいなくて。
オマケに和くんはとにもかくにも磯前先生が大好きでしたから、その磯前先生から指輪をもらった上にこう言われて喜ばないはずがありません。
「んと…じゃあ、なご、ただひこせんせーに、いっぱいぎゅっとしてもらっても、いいですか?」
「おう、好きなだけぎゅっとしてやるよ」
はにかみながらもにこぉっと花が綻ぶような可愛らしい笑みで磯前先生に手を伸ばす和くんに、磯前先生は躊躇いなく手を伸ばし抱き上げてから、手にしたままの指輪を園児服のポケットに忍ばせます。
「さ、まだ皆の見送りが済んでねえから戻る…」
「ただひこせんせー?どうし…」
「おほほ。仲が良くて何よりねえ」
「ゆりこせんせー」
そして一緒に皆のお見送りを再開しようと背後を振り返ったところで、完璧過ぎる満面の笑みで仁王立ちしている如月先生と鉢合わせました。
「き、如月…」
「おほほほほ。磯前先生が和くん第一なのは今更ですからね、別に何も追求しませんけど。…でも手前ぇの仕事ほっぽり出して、幼児相手に一体何をしやがっていらっしゃるのかしらねえ?」
「お、おま、お前何時から…いや、それになんだその変な言葉遣いは…」
「ゆりこ、せんせ?」
「おほほほほお黙んなさい。とりあえず和くんは私に預けてお仕事再開してらっしゃいなおほほほほ。ええ、ええ、私が一部始終見ていたのに全く気付かないなんて磯前先生らしくありませんわねおほほほほ」
「………………」
和くんの手前口調は丁寧(?)でも妙に威圧感のある如月先生の綺麗な笑顔に射すくめられた磯前先生は、冷や汗を浮かべて言われるがまま和くんを渡し外に戻ろうとしましたが。
「(とりあえず口止め料に一月分の酒代で手を打つわよ)」
「(……………………わかった)」
去り際に和くんにはとっては綺麗な笑顔でも、磯前先生にとっては悪魔の微笑み以外の何物でもないそれと共にとんでもない取引を持ちかけられ、飲むしかない要求に渋面で応じるしかありませんでした。
「…ん…と。ゆりこせんせー、おこってますか?」
「あらそんな事はないわよ?むしろ私は磯前先生の味方ですからね。勿論和くんの味方でもあるけど」
「………?」
うわばみ(というか底なし)の酒量を誇る如月先生から口止め料に酒代を集られ今から恐れ慄いている磯前先生に、和くんは見送りながら磯前先生が怒られているのかと心配になりますが。
……和くんがこの時の磯前先生の苦労を知るのは、まだまだ先の話。
【プロポーズ大作戦 完】