やわらかく、ここちよく。
こわごわと、そろそろと。
あたまをなでてくれるてのうごきに、いつもうっとりとめをとじる。
「三笠さん」
四十路近くになっての連日完徹は、正直なところ辛い。
辛いが、それでも仕事ならばやらねばならない。
やらねばならないが…それでも辛いものは辛い。
「三笠さん?」
和の声が聞こえているが、聞こえていてもそれが自分を呼ぶ声だと頭が理解出来なくて。
元々の愛想のなさに、寝不足が拍車をかけて眉間の皺は深くなる一方で。
「三笠さんっ?」
恐々とした声が驚愕に変わって、そして悲痛とも取れる悲鳴に変わって。
どうしたとも、何があったとも、そういつものように声を掛けてやる余裕すらない自分の状況を自覚するも。
「三笠さん!!」
ソファと。
和の姿と。
どうにもならないほど疲労困憊した身体と、限界を突破した寝不足と。
それらが揃っていれば、三笠と言う名の尊大な猫が取る行動は一つだけ。
「………!!??」
ぎしりと重い音がしたのは、ソファに倒れこんだ時のもの。
倒れこんだ際に、しっかりと和の腕を引いて先にソファに座らせて。
驚いて硬直している和の膝に何も言わずに頭を預けるように身体を倒せば、あっという間に睡魔に思考を閉ざされる。
「………」
柔らかく、心地よく。
恐々と、そろそろと。
頭を撫でてくれる手の動きに、いつもならばうっとりと目を閉じてその心地よさを堪能するのに、三笠と言う名の大きな猫はすでに夢の中。
「…お疲れ様でした」
勝手に膝枕を奪っても、寛大すぎる和は一切怒ることをしなくて。
それどころかわざわざ請わなくとも、何も言わずにごく自然に頭を撫でる。
そんな、午睡と呼ぶには少々早すぎるひととき。
【猫の午睡・完】