藤花さまより頂きました♪





【------6月の白いバラ】



6月のとある日曜日。
磯前と和は、特に目的もないまま、ぶらぶらと散歩など楽しんでいた。
梅雨入り晴れの真っ青な空が、二人を見下ろしている。
濃い青色が、もうすぐ夏が来ることを教えていた。


空を見上げて、和が笑う。


「暑いですけど、気持ちいいですね」
「そうだな」
「そうだ! 今度、海とか行きませんか、皆誘って! あ、でも皆忙しいかな……」
「心配すんな。お前が誘えば全員揃う」
「え、何で……」

ですか、と続けようとした和は、前方を見て驚いたような表情を浮かべて足を止めた。
磯前もつられて足を止める。

「何だ、どうした」
「いえ、あれ……」

和の指差す先には小さな花屋があった。
花屋の前には白いバラばかりが飾りつけられている。
和は磯前に視線を戻すと、首を捻って呟いた。

「何で白いバラばっかりなのかな、って思って。いえ、綺麗ですけど」
「何でってお前……今日は父の日だからだろうが」
「え、父の日!?」

磯前は苦笑を浮かべて「ああ」と頷いた。

「……その様子だと忘れてたな、お前」
「う……うっかりしてました」

うなだれる和の頭をよしよしと撫でてやり、磯前は花屋へと目をやった。
父の日当日ということもあり、白いバラはまだ充分に残っているようだ。
磯前は小さく笑うと、和の頭をぽんぽん、と叩いて顔を上げさせた。

「俺のことはいいから、今日はそこで白いバラでも買って、親父さん祝ってやれ。
父親ってのは子供が思ってる以上に、子供に構ってもらえるのが嬉しいもんなんだよ」
「磯前さん……」
「俺は『恋人』だからな。父の日までお前を独占するつもりはねえよ」

だから早く帰ってやれ、と続ける磯前に、和はしばらく考え込み――やがて、小さく頷いた。

「あの、じゃあ、また連絡しますから!」
「おう。気にすんなよ」

ひらひらと手を振って、何度も頭を下げる和を見送る。
花屋に入ったのを確認して、磯前はきびすを返した。
自分がいつまでもここにいては、和も家に帰りにくいだろう。
そう思い、足早に歩き出した磯前の背に、慌てたような声がかけられた。
磯前が振り向くと、和が慌てて走って来る。


目をしばたたかせながら、磯前は立ち止まって和を待った。


「――ま、待って下さい、磯前さん」
「どうした」
「あ、足速いですね、磯前さん……。じゃなくて、あの、これ!」



目の前にすっと差し出されたのは、一本の白いバラだった。



「……なんだ? 俺はお前の親父じゃないぞ」
「分かってますよ! そうじゃなくて……えっと、さっき花屋の店員さんに聞いたんです」
「何を」
「白いバラの花言葉です」
「花言葉?」


訝しげに眉をしかめる磯前に、和はこくりと頷いた。


「白いバラの花言葉は【貴方を尊敬します】」



誇らしげに呟いて、和はふわりと微笑んだ。


「……貰ってくれませんか?」



――そんな笑顔で言われて、断れるわけがない。
胸中で呟いて、磯前は和の手から白いバラをそっと受け取った。

「あの、これ父さんにもプレゼントしますけど、でも磯前さんに渡したのは父さんとは別の意味ですからね」
「ああ、分かってる」
「――それじゃ、僕帰ります!」
「ああ、気を付けてな」
「はい!」

嬉しそうに笑って、和は大きく手を振りながら駆け出した。
それを笑顔で見送って――磯前は手の中の白いバラに視線を落とした。




「尊敬、ね」




父の日に、父の日とは関係なく白いバラを貰ったのは、多分己が世界で初めてだろうな、と磯前は小さく笑った。




――白いバラは、太陽の光に照らされて輝いている。

 




○暗和/父の日お祝いSS









こちらは07/06/14〜17までの 突発父の日企画より移動再録です。
【雨に泣く鳥】の藤花さまより頂きました、素敵すぎる磯前×和です!
いやもうどうしようなくらい悶えました。見習うべき磯前さんがここに!
藤花さま、本当にどうもありがとうございました〜!!(愛)
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