02〜あふれる感情を唇にのせて(磯前×和)


磯前忠彦という人間は、余計な言葉を極力口にしようとはしない。



それは無口と例えられるように口数が少ないというわけではないのだが、発せられる言葉の数がどちらかと言えば少ないだけに、何かと周囲に誤解を与えてしまう時がなくもない。



だが、だからこそ、彼の言葉一つ一つはとても重く意味があって。
実際彼を取り囲む人間達には、正しく伝わっていたから。



「…十分、事足りてたんだがなぁ」

今までは、それで何ら不自由はしなかった。
伝えなければならない事に対して言葉が少なくとも、意味が伝われば十分だと、磯前は本当にそう思っていたのに。

「え…何がですか?」

しかし彼が現在組み敷いている、自分の娘ほどに歳の離れた人物に出会ってからというもの、磯前は己の言葉の少なさをもどかしく感じるようになっていた。

「用意された台詞なら、どんなモンでも言えるんだが」
「…?」

組み敷いているとはいえ、それは決して無理にというものではなく。
自分の気持がうまく言葉に出来ないもどかしさの代わりに、磯前は可能な限りの優しさでもって、相手の顔中へ静かな口付けを何度も繰り返す。

「…忠彦さん」

もし猫であったなら、きっと喉を鳴らして甘えていただろうといった具合に、つい先程まで心地よさげにおとなしく受け入れていたのに。
自嘲的な磯前の呟きに気を取られてしまったらしく、彼は珍しくも自分から磯前にきゅっと抱きつくと、重なる身体をより一層密着させてしまう。

「ん?」
「ただひこ、さん」




しかしこれだけで、磯前には相手が何を言いたいのか手に取るように知れて。




「そんなにしがみつかなくても、俺は今更お前を離しゃしねえよ」
「ん…っ」




磯前は内からとめどなく溢れる感情を、うまく綴れぬ言葉で探すことを止め。
無意識に薄く開かれて自分を誘うその唇を覆い隠すように、想いのたけの分深く激しく重ね合わせた。







磯前の少ない言葉には、一つ一つがとても重く意味があって。
自分でそれを判ってはいても、相手を想うが故に綴りきれない言葉を探しているのだけれど。
しかしこの口付けこそが、溢れる感情を雄弁に語るものだと気付かない。







愛に溺れた男がその事実に気付くのは、まだまだ先の話。







【あふれる感情を唇にのせて・完】




…またしても妙ちきりんなエセ暗石さんが…(悩)
表の暗石さんは、やたらとヘタレなおっさんになるのは何故。
(それはどう考えても書き手の力がないからです)。
今は悶々と考える暗石さんですが、覚悟を決めたら
とことん和を捕まえて離さなければいいなと思ってみたり。
って、暗石さん相手だと和は自分から捕まりに行ってるよ…。
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