07〜なぐさめの唇(日織×和)


雨の檻に包まれた洋館で一人死に、二人死に。
また一人、また一人、日を追う毎に無惨な遺体が見付かってゆく。
残された者は全て他の者を疑うだけの、猜疑心や疑心暗鬼だらけのその洋館の中で。



「な…なん、で…こんっ、な…」



ただ一人、彼だけは始めと全く変わらない。
とても大学生とは思えない幼い容貌と、それに輪をかける気の弱さ、そして人の良さ。
日常においては弱さになりうるそれを持つ彼は、こんな状況でさえなんら変わる事はなく。



「もういや、だ…どうして、殺すの。
…皆…怖かった、よね…痛かった、よね…ッ」



同じ恐怖に晒されながらもなお、それ以上の悲しみをもって他人のために涙をこぼす。





はらり、はらり。
はら、はらと。





嗚咽と共に溢れるそれは、酷く儚く哀しくて、でも、それ以上に愛(かな)しくて。
恐怖に飲まれ、今にも気が狂いそうな程張りつめた暗い雨の檻の中、自分には彼の涙が唯一の暖かな光に見えた。


「和さん…」


不安よりも恐怖よりも、わずかな時を共に過ごしただけの者のために泣き続ける細い体をそっと引き寄せて。
今の自分に出来る限りの強さと優しさで腕に抱けば、彼は身じろぎもせず、ただはらはらと涙を溢すだけ。


「うっ…ふ、ぅ…ッ」


すでに心が麻痺しているのか、月並みな慰めの言葉さえ出てこない自分に不甲斐なさを感じながらも、両の腕に抱いた温かな涙へと沸き上がるのは場違いなほどの愛しさ。

「……」

泣かないで下さい、とそれすらも言葉にならないけれど。

「……」

自分に出来たのは、溢れ落ちる涙にそっと唇を寄せて掬い取ることだけだけれども。

「……」


彼はそれを拒まず。
おとなしく、涙を溢しながら。


「っ、こん、な怖いとこ…から、ぜ…たい、いっしょに、生きて帰ろうね…?」


犯人を憎むでも憤るわけでもなく、どこまでも純粋に願うはそのことだけ。
それはこんな状況で彼に愛しさを抱いた自分にとって、これ以上ない強い願い。
恐怖よりも彼への愛しさが、自分を人間であることへ引き留める慰めになっている。




「…ええ。最初に約束した通り、俺はアンタだけは絶対に死なせません。
そして俺は、生きてアンタを親御さんの元へ送り届けます。
だから…ここから生きて一緒に帰りましょうや」







そう、こんな彼のためにだけ、自分は自我を見失わずにいられるのだ。







小噺用ブログからの再録。一部加筆修正しました。
一番弱くても、一番まともで結果皆を救っているのが和。
一番強かそうで、ちょっとした綻びから自滅しそうなのが日織。
そんな日織は、和のしなやかな強さに陶酔しているんじゃないかと思います。

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