一年も残りが少なくなり寒さが厳しくなって、布団の中から出るのが億劫になるような、そんなとある冬の日。
「なんか凄く贅沢な時間を過ごしてる気がする…」
「何処がだ」
ベッドの上で磯前から抱え込まれ、何をするでなくただごろ寝しているだけの状態に、和は幸せに浸りながらも少しだけ後ろめたい気分になっていた。
「暫く忙しくて構ってやれなかったからな。たまにはいいだろうが」
「じゃあまたこうして逢えるようになりますか?」
「それがな、生憎とまた仕事が立て込んでてそうもいかねえんだよ」
「……そうですか」
都合の合う限り休みの時は極力和へ会いに来ている磯前だったが、ここ暫くそれが叶わなかった上にこれからまたそれが続く事へ申し訳なく思っているらしい。
逢えない、と聞かされただけで目に見えて意気消沈してしまった和を宥めるように、軽く笑みを浮かべたまま伏せがちになった和の瞼へそっと口付けて。
「だが幸いクリスマス当日は何も仕事が入ってないからな。こんなおっさんで良ければ一緒に過ごさせてくれ」
あやすように和をまた抱き込み直してそう言う磯前は、流石に照れくさいことを言っている自覚はあるのか柄にもなく赤くなっていた。
「一緒に、過ごしてくれるんですか?」
「お前さえ良ければな」
「勿論です、よろしくお願いします!」
「……何をよろしくするってんだ?」
だが和からしてみれば願ったり叶ったりな申し出であるため、先ほどとは正反対に歓喜に自分から磯前へ抱きつく始末。
「クリスマスついでにな、何か願いごとがあるなら聞いてやるぞ。欲しいものとかないか?」
「え、ええ?そんな急に言われても…」
しかし予想もしなかったことを言われ、和は驚いて上体を起き上がらせてまじまじと磯前の顔を覗きこんだ。
「先に言っとくが、一緒に過ごしたいとかそういうのはナシだぞ。そもそも一緒に居ることを前提に聞いてるんだ、それじゃ意味がねえだろ」
「それはそうですけどー」
どうやら和にとって磯前と一緒に過ごすということ以外では何も思いつかないらしく、暫く思い悩んだ挙句磯前の胸上にぱたりと倒れこんでしまう。
「…お前は本当に物欲がねえな。若ぇんだ、もうちっとわがままになっても良さそうなモンなのに」
「でも、本当に思いつかないんですよ」
ふにゃりと情けない声でそう訴える頭を撫でてやれば、少しだけ拗ねたように「忠彦さんからもらえるなら何でも嬉しいし」と洩らされて。
「それじゃ俺が選びにくいんだよ。お前に酒とか煙草贈っていいってか?」
「それはダメです!」
思いつくものが和にとって役立ちそうにない物しかないだけに多少厳しい声でそう言えば、どちらも苦手な和は絶対勿体無いから止めてくれと懇願する。
「うう、ちゃんと考えますから…もうちょっと考える時間下さい」
「しょうがねえな」
「ふう…。僕だって忠彦さんに何か贈り物がしたくて悩んでたのに、まさかこうなるなんて思ってなかった…」
「ああ?」
「そうだ。…ね、忠彦さんは何か欲しいモノはありますか?」
「…………俺か?」
磯前もまさかこう返されるとは思っていなかったらしく、再度もそりと起き上がって小首を傾げてくる和に言葉を濁し視線を泳がせた。
「……あー…と、そうだな……」
特別なお酒でも、ツテで色々手を回してもらえるから期待していいですよ?と和が元々大きめの瞳を子供のように輝かせるものだから、磯前としては何もないとは余計言いにくく。
「………」
「………」
子供が気を遣うなと言い出そうにも、押しに弱いはずの和がこういう時に限って変に押しが強いということを知っているだけに、さてどうしたモノかと考えて。
「そうだな…お前の時間が欲しいな」
「ええ?」
と、和がむくれることを承知でそう切り出した。
「駄目ですよ、一緒に居たいとかいうのはナシです。忠彦さんだって僕にそう言ったじゃないですか」
「ああ、確かに言ったな」
「だったら…」
「待て待て、ちゃんと聞け。俺が言ってるのは【俺が知らないお前の時間】だ」
「……?」
予想通りの抗議を苦笑いで封じ、さりげない仕草で和の眼鏡を外して邪魔にならないところに移動させて。
「お前さんのな、昔話を聞かせてくれや」
「…………そんなのプレゼントにならな……ッ!?」
それでも何かを言いかけたその唇に自分のそれを重ね、滑り込ませた舌でズルイだの何だのと抗議の声を上げようとするその声ごと掬い上げて。
「それが嫌なら、いつも以上の【言葉遊び】でもいいんだがな?」
「ッ〜〜〜〜!!」
抗議も抵抗もなくなるまで散々口内を思う様貪りつくし、息が上がってなみだ目で訴える和に別の意味で了承し難い提案をする。
「どっちがいいか、お前さんに任せる。好きな方を選べ」
そういわれた以上どっちも嫌だという選択をしない和の性格を知っているからこその、そんな願いごとに。
「忠彦さんの、意地悪」
結局そのどちらかを選ぶ事になる和は、とてつもなく人の悪い笑みで自分を見ている磯前に、悔し紛れに懇親の力で抱きついた。
和と磯前の、一年も残りが少なくなり寒さが厳しくなって、布団の中から出るのが億劫になるような、そんなとある平和な冬の日の出来事。
【恋人もサンタクロース・完】