チョコレートはなくとも( 成瀬×和 )




成瀬のドラマの撮影と、和の課題がそれぞれ一息ついて。
どちらからともなく連絡を取り合い丁度休みが重なると判れば、まず最初に会う約束になるのはいつものこと。
特別互いに何かを期待するのではなくて、単純に一緒に居られればそれが幸せな二人。





「今日はバレンタインだよな」



その約束により一人暮らしをしている和の部屋を訪れた成瀬は、出された緑茶で喉を潤しながら、何気なく目に止まったカレンダーを見てぽつりと呟いた。

「うん、そうだね」
「それだけかよ」

けれどその呟きに、当の和の返事はいともあっさりしたもので。

「それだけって、何が」
「お前はオレにくれねーの?」

それでも自分達は付き合っているのだからと、成瀬は真顔で和にチョコレートを催促した。

「……え?」
「え、ってなんだよ。ってーかなんだ、そんないかにも意外だって顔は」

しかし和からしてみれば、まさか成瀬からチョコレートをねだられるのは全くの予想外で。
大体、チョコレートが好きな和にいつも成瀬が買って与えるといった事が多かったせいもあり、きょとんと見返すしかできなかった。

「だって、壮くん甘いの苦手だっていってたじゃないか。それにファンの子から貰うのだって、どうせ食べないから妹たちにあげてるっていってたし…」
「そりゃそーだけど。お前からもらえるんだったら、無理して食ってもいいかなって思ってたんだよ悪いか」

バレンタイン自体女の子のイベントといった色が強すぎるのと、そもそも成瀬自身がチョコレートをあまり食べないからこそだと説明してみるも、当の成瀬にしてみれば気持ちだけでも期待していたらしく。

「悪くないけど…ご、ごめん、まさか壮くんがそんなこと言うと思ってなかったから、流石にチョコは用意してない…」

少々大げさに肩を落としてみせれば、どうにも罪悪感に囚われてしまったらしい和の、上目遣いに自分を見上げてくる心底困りきった視線を受けてそれ以上何かを言う気にはなれなかった。

「…別に謝らなくていーよ。大体オレが一人で変に期待してたのが悪いんだし」
「でも、その、あのね。チョコはないけど、ココアなら用意してあるよ」
「は?」

が、話は終わりだとあっさりと引き下がった成瀬に、おずおずとながらも和は全く以って予想外の事を切り出した。

「壮くん最近頑張ってるけど、今日の約束の電話した時なんだかいつも以上に疲れてるみたいだったから。
ちゃんとしたココアなら壮くんが大丈夫な甘さまで調整出来るし、苦手なチョコレートを無理にあげるよりはいいかなって…」

和はそう説明しながら、自分の背後にあるボックスからココアパウダーの入った封の切られていない缶を取り出して見せて。
そして料理はからきしだけれど、緑茶とココアをだったらきちんとしたのを出せるから安心してねと、屈託のない綺麗な笑顔を見せた。

「……………」
「えーと、女の子みたいにチョコの用意はしなかったけど、これじゃだめ…かな?」
「あ、ああいや、そうじゃなくて!」

だが成瀬が和を凝視したまま何も言わないことに不安を覚えたのか、やっぱりチョコレートの方が良かったかと笑顔を崩したところで、漸く成瀬の時間が動き出して。

「…俺にだけ、だよな?」

何気に色々と自分達にちょっかいをかけてくる、和にとっての過剰な程の保護者(と、その他諸々)の存在を気にしつつ、缶を手にしたままの和の右手を思わず掴みながらそう問えば。

「?うん、当たり前だよ。壮くんの為でなきゃ誰に用意するのさ」

手にしている缶は本当に成瀬の為にだけ用意したのだと、和はもう一度笑顔咲かせた。

「…………参った………」
「うわあ!」

これに対して成瀬の方は、和の行動が全く予想外だったせいでいつもの軽口を叩く余裕もなくて。
しかも和の目一杯の笑顔を間近で見せられて、不意打ちを続けて食らったせいで顔が赤くなってゆくのを誤魔化しきれず、そのまま崩れるように和の肩口へ顔を埋めて抱き締めた。

「何、一体どうしたの!?」
「あーもー、嬉し過ぎてどうしたらいいのかわかんねーんだよ、じっとしてろ!」

ぎゅうぎゅうと渾身の力で抱き締められて、痛みに和が軽く抗議の声を上げるも、成瀬は照れる反面とても嬉しくてのだという事だけはきちんと(叫んで)伝えれば。
和は成瀬の理由が理由なだけに下手に抵抗することも出来なくて、そして喜んでもらえたらしい事に自分も嬉しい反面こそばゆくなって、成瀬に負けないくらい真っ赤になってゆく。

「そ、そういやさ、ココアを作るに牛乳を買いに行かないといけないんだけど」
「なら夕飯の用意もあるし、一緒に買い物に行こうぜ」

イベントに合わせて変に気取るわけでなく、無理に流されることもなく、こんなささやかなことですら幸せを感じられる二人だけれど。






「しっかしお前、顔真っ赤だな」
「壮くんだって赤いよ」
「うっせ、お前の方が赤い」
「止めて指摘されるとまた赤くなっちゃうよ!」
「そんなこと言われたら俺もつられて治らなくなるだろうが!」
「うう…買い物は赤くなってる顔、治まってからにしない?」
「………だな」







揃って照れて真っ赤になりつつも、一応現実的なことは忘れてはいなかった。










【チョコレートはなくとも・完】








なんでこの二人を打つとこんな純情路線が出来上がるのか!
…と、文章打ちながら恥ずかしくて何度そう叫んだことか。
ぎりぎり間に合いました雨格子の館でVDネタ。本当にギリギリ。
ネタだけなら他にも磯×和とか日×和とかあったんですが、
打つに限界がありました…時期外れでも読みたい方がいるなら
…と思うのですが、そんな奇特な方居ないんじゃないかなー(涙)
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