たまにはこんなサプライズ。
それは、偶然の出来事。
全くもって、予想だにしていなかったこと。

それでも、理由はどうであれ。
まさかあんなに喜んでくれるとは思わなくて、それが思いがけず自分までもが嬉しかったから。



「……速水」
「お、どうしたハンチョウ。デートのお誘いか?」
「馬鹿かお前は」

いつもの通り、いつものやり取り。
世間では企業の思惑に乗ってこれでもかとチョコレートが消費されるその時期に、臨海署の名物の二人はいつもと変わらぬ生活を送り、これまた何時も通りの言葉を交わしていた。

「月島署からの応援要請が入って、暫くそちらに詰めることになった」
「…そうか。頑張って来い」

少しだけの間があるのは、安積がこの臨海署に顔を出す機会が減るという意味でなのか、それとも自分のマンションへとやってくる日が遠のいたと言う意味なのか。
もしかしたらその両方の意味なのかも知れないが、速水はそれ以上はなにも言うことはないらしく、いつも通り「俺が臨海署の安積だってことを、他の連中に知らしめて来いよ」などと続けるだけ。

「…捜査は皆で協力してやるものだ。俺がどうこうしたところで、何の役にも立たない」

ぎっと睨んでぼそりと呟けば、速水は肩を竦めるだけで聞き流すから。
表情はそのままで、けれど内心「この野郎」と毒づいてから、安積は一層声を小さくして目的の言葉を告げる。

「…お前が、非番か第一当番の時に」
「ん?」
「うちへきて、いい」
「は?」
「俺が居なくても、来ていい。…というか、来い」
「ハンチョウ?」

鍵は渡してあるだろうと言いながら安積の表情が酷く仏頂面になったのは、渡したというよりも「奪われた」という方がしっくりくる過去を思い出したからなのか。
意図が掴めず首を傾げる相手に向かい、安積は速水だけが判別がつく『照れている』表情で、ぼそぼそと言葉を続けるのだが。

「…別に、14日でなくとも、そのあたりだったらで、いいから」

ここまで言わせて判らないなんて、この(常日頃から安積第一を世に知らしめている)速水がそんな無粋な事をするはずもない。

「本当に?」
「……本当だ」

どうにも全部を言葉に乗せることが出来ないでいる安積の、本当に言いたいことを汲み取って、そして思わず念押ししても否定されなかったことに速水は思わず破願する。

「その…今年も、置いてある…から」
「そうか」

此処が互いの職場でなかったら、安積はともかく速水は相手の制止を聞かずに思い切り抱擁をかましていただろう。
一方、主語が抜けてもちゃんと速水に意味が伝わったことに安積はほっと安堵の息を零すが、今ここで部下に遭遇したら変な顔をされただろうなと自覚があるくらい気力を消耗していた。

「伝えたいことは伝えた」
「ああ、お陰でお前がいない間も、お前恋しさに暴れなくて済みそうだ」
「…お前、やっぱり馬鹿だな」

用は済んだし、そろそろ照れが限界で顔に出そうだとそわそわし始めた安積を気遣ったのか、速水がいつもの調子でからかってやれば。
安積は大真面目に呆れたのか、もう何度目になるのか判らない呟きを漏らす。

「じゃあ、いって来る」
「おう、何か手が必要になったら遠慮するなよ」

そのままそそくさと去ってゆく安積にこれまたいつもの声をかけてやる速水は、安積の言葉を反芻しては込み上げる笑みを隠せない。



「あのハンチョウのことだ、まさかチョコレートってことはないだろうな」



昨年、たまたま偶然バレンタインのこの時期に安積が酒なんてくれるから。
思わずバレンタインなのかと聞き返したら、思い切り疑問符を飛ばしている反応に偶然の産物だと知っても、それでも嬉しさを隠すことが出来なくて。
後から思い返せば自分でも呆れるくらい浮かれてしまい、その勢いのまま安積に感謝の言葉を告げれば。
安積はたじろぎながらも微かにはにかんでみせるから、それで余計嬉しくなって力いっぱい抱きしめたら、痛いし大げさだと安積にこっぴどく怒られた。




「…うーん…あいつのことだ、今年も酒か?」




それでも速水のあまりの喜びように何か思うところがあったのか、今年はきちんと意図して(流石に自分のマンションにだが)用意しておいたと言いに来たのだから、これで速水が浮かれないはずがない。
モノではなくその心が嬉しくて、速水にとってこの上ない幸せが舞い降りていた。




…そんな速水の幸せが、実は安積の幸せ。




【愛は唐突・完】

2010年VD期間拍手に置いていたフリーSS再録。配布期間終了。
うちでは常にヘッドが手出ししてくる状況ばかりだったので、たまには
係長に頑張っていただこうとした結果がコレでございます…が、
なんてーか思い切り別人になっちゃったなーと反省しております。
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