ヘッドとハンチョウくん ※神南くんズ ネタより







それは、とある日の東京湾臨海署でのお話。


「……」


安普請…ではなくて、いずれ本格的に建て直しが予定(だけは)されているお疲れ気味の建物の、その一階に坐しまするは天下無敵の交通機動隊の皆様方(高速道路交通警察隊と臨海署の交通課だって居ますけど)。
その中でご注目頂きたいのは、階級などという型に填まりきれない尊大…ではなく、実力に裏づけされた自信にあり溢れる臨海署きってのナイスミドル、ヘッドこと我等が速水小隊長殿。
御方は本日も手下…ではなく、忠実な部下達を従え適度に職務に勤しまれたご様子で。
最近の若人は根性が足りないとかなんとか不満を洩らしつつも、その鬱憤を(ご自慢の腕力にものを言わせて)散々発散されてきたのでしょう。
言葉だけは乱暴に聞こえますが、御方は今にも鼻歌を歌いだしそうなほどに大変ご機嫌よろしく署内を闊歩し、そのままご自分の机へと向かわれいつものようにどっかり…ではなく、豪快に腰を下ろそうと椅子の背もたれに手をおかけになりました。


ところが。


「……?」

御自ら椅子をお引きになってお座わりになろうとしたところで、椅子を引き出し本来空洞になっているはずのお机の下から覗く、とある丸いものと目が合いピタリと動きをお止めになりました。

「何やってんだ?」
---しーっ!
「……」

勢い余って長く逞しいおみ足で危うく潰しかけたそれは、御方が神南署からこちらの臨海署へとお移りになられた際に、何故か数体くっついてきてしまった生きたマスコットのうちの一体。
その中でも御方が特にお心を砕かれ接しておられる一体でしたから、断りもなくテリトリーを侵されても声を荒げたりせず、そして周りの目を全くお気になさることなくご自分も机の下へと潜り込みあそばされました。
…当然それを目にしてしまった部下達はぎょっと目を剥きますが、速水軍団ナンバーツーとナンバースリーの側近…ではなくて及川氏と山県氏の二人が全く気にした様子もなく各々の机に座り仕事を始めたものですから、全員何事もないかのように自分達の仕事に取り掛かります。
臨海署における花形部署のさらに主戦力である速水軍団に在籍するにあたって、ヘッドと言う名の不可侵領域というものがあることを判っているからこそです。

…どうにも話がずれました。

とにかく書類作成という地味な作業を黙々とこなしはじめた部下達を余所に、御方は大きな身体で狭い机の下に潜り込みあそばされ、そこに蹲っていた丸い物体と改めて視線を合わされたのです。

『で?こんなところに隠れてどうしたんだハンチョウくん』
---おっきいこえだしちゃダメ。
『だからこうして小声で話してやってるだろう』

丸い物体の名前はハンチョウくん(正式名称はアヅミ・ハンチョウ・神南くん)といい。
御方がそれはそれは(周囲の目も憚らず)ご寵愛召される二階の住民、刑事課強行犯係の安積係長に大変よく似た外見をしているため、御方の可愛がり様は書き記すだけ野暮なので略しますが。

『片割れはどうした?』

いつもであればもう一体、御方に大変よく似た神南くんと一緒に行動するのが常だからこそ、その片割れが見当たらないことに御方は大層不思議に思いハンチョウくんにお尋ねになられました。

---いない。
『いない?何で』
---いないから、いない。
『…………』

ぷく、と丸い頬を膨らませるというよりは、御方がご寵愛召されている安積係長が拗ねた時のように眉間に皺を寄せて俯いているハンチョウくんの姿に、たったそれだけで(万能かつ有能さらに天下の)交機隊の一小隊を率いる御方は閃くのですが。
こういう拗ね方までそっくりで堪らんよなぁ…などと本人が耳にしたら即憤慨ものの感想を抱かれつつ、御方は決して無理強いされず、しかし再度改めて『それだけじゃ判らない』と、ハンチョウくんが一体でここに居る理由をお尋ねになられました。

---……したの。
『うん?』
---ケンカ、したの。

狭い空間の中大きな身体を嵌め込まれるようなお姿になって潜り込まれている御方の足元で、ちょっと言いにくそうにしていたハンチョウくんが、一度言葉にした途端縋るようにうるっとした目で見上げてきます。

---おしごとしてたのに、あそぼっていうから。あとでっていったら、どこかいっちゃった。
『………』
---かえってこないの。ずっとさがしてるのにいないの。

窮屈そうにされている御方のおみ足にしがみ付き、丸っこい身体を震わせてくすんくすんと泣き始めたハンチョウくんに、御方ご自身は「あれ、どこかで聞いた話だな」と苦笑いあそばされて。
けれどそれだけで居なくなってしまった片割れに大層ショックを受けた様子のハンチョウくんに、御方は同情したのかはたまた素直ではない何方かのことを重ねられたのか。
大きな身体同様大きな手でしがみ付くハンチョウくんの頭を愛しそうに撫で、くすんくすんというか細い泣き声が止むまでずっとそのまま側で宥めていらっしゃいます。
御方でなくともそれはどう考えても喧嘩ではないと判るのですが、御方の愛しい何方かと同じように、何事かあるとどうにも自分に原因があると思い込んでしまうハンチョウくんにはそれがわからないようです。

---おんもにでちゃったら、さがせない…。

神南くんたちにとって、この臨海署の建物(外階段含む)とその駐車場だけが世界の全てですから、いくら御方とそっくりな彼でも流石にそれはないと何度も諭しあそばされるのですが、ハンチョウくんは不安と後悔でそのことが理解できません。
……が、ここは我らが速水小隊長。それに相手は(御方の愛しい安積係長とそっくりな)我が子同様に可愛がっている生きたぬいぐるみでございます。
なまじ御方と同じ思考回路を持つと噂される(ただしこちらは下心がない(多分)せいでただ可愛らしいで済む)彼のこと、どうして姿を現さないのかいとも簡単に見当をお付けになられ、まだ瞳を潤ませているハンチョウくんを手に机の下から這い出されました。

「大丈夫だ、すぐに見つかる」
---どうしてわかるの?
「交機隊は万能だからな。全てお見通しなんだ」
---???

まるで我が子を高い高いする親のようにハンチョウくんをお抱きになられると、御方は二階へと続く階段へと顔だけをお向けになられました。
それにつられてハンチョウくんがそちらを向けば、なんとそこには安積係長に抱えられている(ずっと探していた)ヘッドくんの姿があるではありませんか。

「ほら、居ただろう?」

しかもそう言って居るのはヘッドくんを抱きかかえていた安積係長の方で、ハンチョウくんは一体何がどうなっているのか判らず、また泣いていた恥ずかしさも手伝って、つい反射的に御方への胸へとしがみ付いてしまいました。

「おっと」

それを見たヘッドくんはすぐさま安積係長の腕から飛び降りて、その勢いのまま御方の脛へと突撃をかまして抗議の代わりとしたものですから、これまた驚いたハンチョウくんが慌てて自分も下に飛び降りてヘッドくんを宥めにかかります。

「二人とも。…色々言いたいことがあるだろうがここでは駄目だ。上に行こう。仲直りするのはそれからだ」
「おい待てよハンチョウ。別にここで仲直りさせても構わないぜ」
「駄目だ」

丸っこい2体がきゃわきゃわと聞き取れない声で言い合い始めてしまったものですから、一階の面子の仕事の邪魔をしてはいけないとやんわりと嗜めてから、安積係長がまとめて抱き上げたところ。
当然御方はご不満を隠そうともされずお引止めになられるのですが、そこは対速水最終兵器の名を署内どころか本庁にまで知らしめている安積係長です。


「お前がこの二人にかまけて仕事をしなくなるから、それを防ぐためにも私が二階に連れて行く」
「…………」


普段は言いくるめられてしまうことが多い安積係長ですが、子供…ではなく2体の神南くんたちの教育によろしくないと本気で思っているのか、御方の反撃を許さないどころか完璧に封じ込めると、そのままさっさと二階へと消えてしまいました。
けれどここですごすごと大人しく引き下がらないのが御方たる所以です。そして証です。むしろこれで俄然やる気を引き起こしてしまわれました。


「山県」
「はい」
「全員に今から30分以内に仕上げさせろ」
「判りました」
「平吉」
「はい」
「連中の仕上げた書類にミスがないか確認してから俺に回せ」
「了解」
「俺が全部片付けるまでの時間は一時間。…それを超えるようなことがあったら…楽しいことが待ってるぜ」
『………』


ご自身の席にお戻りになられ、椅子に座り踏ん反りが返りながら尊大にそう厳命する御方に、ご氏名を受けた及川氏と山県氏は一切の抗議もせず慣れた様子で各々指示を飛ばして発破をかけ始めます。
そして目に見えて書類作成のスピードが上がる部下たちと、積み上げられてゆく書類に片っ端から目をお通しになり、必要事項を書き込まれては印を押して仕上げとされる御方と。




やれといったらやる。




速水軍団にいるということは、外で職務を全うすることも含め、御方の無茶っぷりに応えることが出来るということも含まれているからこそ出来る芸当なのです。



…なお優秀な部下たちの努力の甲斐もあって、御方が無事二階の刑事部屋へと向かわれたのは一時間までを5分切ったところだったとか。




今日も臨海署はにぎやかになりそうです。



【ヘッドとハンチョウくん・完】

アンファンテリブル!のシュリンプさま発案「神南くんズ」のあまりの可愛らしさにノックアウト、
その勢いのままに設定をお借りしてSSを仕上げ(半ば強引に)進呈させていただいた代物です。
基の神南くんズも大変可愛らしいのですが、安積班+ヘッドに大変よく似た彼らも
大変を通り越して凶悪なほどに可愛らしい!そして一部あぎとくまた報われなさに涙を誘う!(笑)
パロディらしくメルヘンになるように文体をいつもとは違う形にしてみたのですが、
これがまたどうして難しかった…!(間違いはさらっとスルーの方向でお願いします)
ご本家様、設定を好き勝手させて頂き本当にありがとうございます大好きです!
神南くんズがどれだけ可愛らしいか、シュリンプさまのサイトで要確認ですよ!!
戻る?