甘いアマイ(ゴドナル)


いつものようにゴドーがコーヒーをいれてくれて、そして成歩堂はそれにミルクと砂糖を加えて。

それを手に持ち、自宅のソファに互いにより掛かるように並んで座って。



「おいしー」
「…そうかい」



そんな、何気無い休日の一コマだったのだけれど。





「ねぇゴドー検事」
「なんだまるほどう」
「何度も言いますが僕はなるほどうです!って、いやいやいやそうでなく!!」

せっかく良い気持ちでいただいているのに、相変わらずの呼ばれ方をされて、成歩堂は思いきり不機嫌そうにむぅ…っとふくれてみせる。

「あのですね『ゴドー検事』」
「なんだ『バンビちゃん』?」
「……あのですね『ゴドーさん』」
「だからなんだ?『成歩堂』」

ゴーグルで隠れていて判らないけれど。
きっと今のゴドーは、物凄く意地の悪い瞳で笑いながらこちらを見ているはず。

「言いたいことがあるなら、はっきり言うのが俺のルールだぜ」

しかもゴドーは「でないと襲っちゃうぜ?」などと付け加えて。

「……ドコ触って言ってるんですか!」
「何だ、言って欲しいのかい?俺の右手はお前さんの…」
「わーわーわーッ!」

そこをさわさわと撫でながら平然と言葉にしようとするゴドーを、成歩堂はあわあわと慌てふためき、カップを持たない空いている方の彼の口を手で塞ぐ。

「つれないじゃないかバンビちゃん。俺を誘ってるんだろう?」
「ちっがーう!」
「違うのかい?つまらんな…」
「そうじゃなくて!」
「なんなら俺が誘っちゃうぜ?」
「人の話を聞いて下さいよ!!」

相変わらず話を聞かない人だ…と成歩堂が泣きそうになると、何を思ったのかゴドーはついっ…と身体をずらして成歩堂の顔を覗き込んだ。

「ゴドーさん…?」
「ちゃんと聞いてやるから言ってみな、バンビちゃん」

同じゴドーなのに、先ほどとは違い成歩堂にだけ見せる優しい口調で促され。

「あのね、ゴドーさん…」

成歩堂は少しだけ顔を赤くしながら改めて口を開く。

「たまにはブラック以外のコーヒー、飲みませんか?」
「…そいつは聞けないおねだりだぜ、バンビちゃん」

ようやく本題に入ったのも束の間、あっさりと(いつもの人を食ったような)くくっ!という笑いと共に却下されて、成歩堂はまたむぅっ…とふくれてしまう。

「もう!ゴドーさんがブラック至上主義なのは、(法廷で)嫌ってくらい僕は知ってますけどッ」
「…ならいいじゃないか」
「良くないッ」

ずぃっ…とゴドーの方に身を乗り出し、成歩堂は真剣な面持ちで続きを口にする。

「だって僕はあなたにもう少し、自分の身体を大事にして欲しいと思うから。
…珈琲を飲むな、なんて言いませんが。でもいくら良い豆で美味しいからって、そんなブラックで17杯も飲んだら、やっぱり身体に良くないと思うんです」
「……」

暗に健康とは言い難いゴドー体調のことを込め、それを伝え終えると。

「余計な事を言って、ごめんなさい…」

成歩堂は俯きながら、はぐらかされるか怒られるか、どちらかを覚悟していたのだが…。

「なんでお前が謝る必要があるんだ、『龍一』?」
「え…」

意外なことに、ゴドーはそのどちらもせずにただ成歩堂の名前を呼んだ。

「俺はアンタの愛が確かめられて、コーヒーの新しいブレンドに成功したくらいに嬉しいんだぜ?」
「……またコーヒーですか」
「おっと、人の話はきちんと聞くものだぜ、バンビちゃん」
「……」

何だかものすごーく、言われたくない事を言われたような気がするが、成歩堂は黙って続きを聞くことにする。

「恋人の心配をするのに、卑屈になる必要はないってことさ。
それに俺も、可愛いお前さんのおねだりを聞いてやらない訳でもないんだぜ」
「だって…却下したくせに…」
「くくッ!俺のコーヒーにヤキモチかい?嬉しいじゃねぇか」
「……」



…やっぱり、人の話を聞いてない気がする。




「もぅいい…」
「おっと、お前は良くても俺の話は終わっちゃいない」

向かい合っていた身体を直し、手にしていたカップの中身を口に運ぼうとした成歩堂を、ゴドーは自分の方に器用に引き寄せて、背後から包み込むように抱き締めてしまう。

「いいか『龍一』。俺が言いたいのは《自分で飲む》つもりはないってことだぜ?」

成歩堂を抱き抱える為に腰に手を回したまま、自分のカップを目の前のローテーブルに置いて。
その手で成歩堂が持っている、ブラックでないコーヒー入りのカップを掴む。

「つまりは、だ。言い換えたらお前さんが《飲ませてくれる》なら、俺は遠慮しないで何杯でも飲んじゃうぜ?」
「……っ」

肩越しに含み笑いと共に囁かれ、成歩堂はカップごと手を掴まれて瞬時に顔を赤くする。

「で?俺を心配してくれるバンビちゃんは、俺にこれを『飲ませて』くれないのかい?」
「どどどどどうぞ!」

首筋に唇を当てて囁かれ、ざわざわと背筋をかけ上がる感覚にながされまいと、反射的にカップを差し出す成歩堂だったが。

「おいおい…《飲ませてくれる》ってのは、こういう事を言うんだぜ…?」
「!!」

ゴドーはカップの中身を口に含み、成歩堂の顎を素早く掬い上げると唇を重ねてそれを流しこんだ。

「ん…ッ!」

慣らされてしまっているせいか、成歩堂は反射的にそれを受け入れ、喉を鳴らして流し込まれたコーヒーを飲み干した。

「これが《飲ませる》だぜ、バンビちゃん」

その際口の端から一筋コーヒーがこぼれた跡を舐めながら、ゴドーは成歩堂の腰に回していた手で、彼の身体をあやすようにゆっくりと撫でてゆく。

「…ゴドーさん…」
「……」

それに促されるように成歩堂は後ろを振り返り、自分からカップの中身を口に含んでゴドーに口付ける。

「ん、ンっ」

するとゴドーは、口移しで注がれる液体を飲み干しても成歩堂を離さず、逆に顎を固定して更に深く貪るように舌を差し込んだ。

「い…異議…あり…ッ…!」

段々違う目的で口内を貪り始めたゴドーの舌に、成歩堂は息継ぎの合間に異議を申し立てる。

「却下」
「まだ何も…んんッ」
「今更嫌だなんて言う、野暮な異議申し立ては却下だ」
「だから…違う…っ」

速攻で却下され、いよいよ明確な目的をもって蠢き始めたゴドーの手を、成歩堂は軽くつねって止めさせる。

「御転婆なのは嫌いじゃないが…痛いじゃねぇか」
「つねったんだから当然です!じゃなくて!コーヒー!冷めちゃいますよ!」
「……」

そして「勿体無いじゃないですか!」と理由を突きつければ、ゴドーはしばし手の動きを止めて成歩堂を見つめた。

「そうきたか」
「そうきました」

何かいいたげな問いにあっさりと答えると、成歩堂は背中にあたるゴドーの身体に全体重を預け、何事もなかったようにコーヒーを飲み出した。

「…やれやれ。気紛れなバンビちゃんだぜ…」
「あ」

しかしゴドーは諦めず、今度は完全にカップを取り上げてしまった。



「さて二者択一だぜ、バンビちゃん。
このままと、愛の巣でと、どっちが好みだい?」
「異議あり!僕はコーヒーが飲みたい!」
「異議あり。誘っておいてそれは却下だ。
《バンビちゃんから誘われたら遠慮しないで完食する》、それが俺のルールだぜ」
「だから異議ありッ!僕は誘ってないっ!」
「それこそ異議あり、だぜ。バンビちゃん。
…首筋まで赤くしてそんなことを申し立てても、ちっとも説得力がありゃあしねぇよ」
「う〜〜〜!」



もがいてみても、体重を預けたこの状態では圧倒的に有利なのはゴドーの方。



「コーヒーなら後でとびきりのヤツをいれてやるぜ。
だからアンタはおとなしく俺に戴かれてりゃいい」
「………それだけですか?」



何かを含むような視線を背後のゴドーに送れば、少しだけ間の後にその意図に気付く。



「勿論俺の愛の手料理の後に、だぜ」



そして口の端を上げてくっと笑うゴドーの提案に、成歩堂もにかっと笑い返しておどけたように両手を上げた。





「では弁護側に異議はありません」
「そうこなくちゃな」
「おいしいモノ、期待してますから」
「期待してくれていいぜ、バンビちゃん」





そしてどちらからともなくソファに倒れ込んで、後はただ互いに執拗なまでに求め合うばかり。







甘え上手と、甘やかし上手。







…さてはてどちらがどれだけ甘い?










《甘いアマイ?・完》



式神のものと同じテーマで書いてみたゴドナル編。
わんこ探偵と似たような境遇なのに、ゴドさんはあまり
ヘタレになりません…つか、ヘタレにしたくないんですが!
こんなゴドナルでも大丈夫な方だけ他を読んで下さい(汗)。
戻る?