始まりと、交わりと
「よーく考えな、バンビちゃん。
考えて、覚悟ができたなら…その時は遠慮ナシだ」
成歩堂には、ゴドーが何を考えているのか判らなかった。
覚悟。…一体何の。
遠慮。…一体何に。
「じゃあな」
「……」
放心状態でその場に座り込む成歩堂を残し、己の用件を伝え終えたゴドー検事は、彼の身体を解放して身を翻し背中を向ける。
裁かれるのは、どちらなのだろう?
「二つに一つだぜ、まるほどう。
俺の腕の中に捕らわれる事を望むか、それともそれを拒んで一切の係わりを断ち切るか」
ゴドー検事は自分の気持ちに気付いている。
…だが、成歩堂は。
「俺のルールでは、こういうことほど白黒はっきりさせるべきなのさ」
自覚すらしていなかった「それ」と、突きつけられた現実に、茫然としたまま身動きできない。
「よく、考えろ。この先を望むのなら、傷付く覚悟があるのかどうか。
資料はコーヒー味のキス一つだぜ」
強く強く抱き締められて、抵抗する間も無く強引に唇を奪われた。
思いやりも何もない、それはただ、ただ乱暴に奪うだけ。
それなのに。
歯列をこじあけて成歩堂の口内に入り込み、混乱のせいで逃げて縮こまる舌を、絡め吸い上げるゴドーのそれはとても熱くて、そして…優しかった。
「考えろ。続きを望むか否か。よく考えるんだ、まるほどう。だが、もし…」
「!」
「逃げたりしたら…俺は容赦しないぜ、まるほどう…」
腕に抱き締められたまま耳を噛まれ、飛びっきり低い声で囁かれて、成歩堂の身体が小さく跳ねた。
「じゃあな」
そんな成歩堂の様子にゴドーはくく…っ!と喉で笑って、抱き締め唇を奪った時と同様、壁に叩きつけるように彼の身体を解放したのだ。
自分の身に起こったことを理解できなくて。
成歩堂は力なく床に座り込んだまま、茫然とゴドーを見送った。
「考えろなんて…」
何を、考えて。
何を、覚悟しろというのか。
「僕は…」
未だに震える手の甲でゆっくりと唇を拭い、成歩堂はそこでようやく何をされたのか自覚した。
「ぼく、は…」
瞬時に耳まで湯気を立てそうなくらいに朱に染めて、もつれる足を気にしながら、逃げるようにその場を後にする。
『アンタの視線は正直なのにな』
いつも、いつも。
出合った時から、視線は彼を追いかけていたのに。
成歩堂はそれに気付かない。
これは、先に気付いたゴドーが、先に行動しただけのこと。
話が交わる、その以前の話。
《始まりと、交わりと・完》
初めて書いたゴドナルがこれ。
半端ですが続きません(多分)。
とにかくなにかゴドナルで書きたいー!と
思いつくまま細切れで打った記憶が。
なおウチのゴドさんナルホド君を
コネコちゃんとは呼びません。
ウチでの呼び名は《バンビちゃん》です。