こんぺきさんへ捧げた初ミツナル






最初は何のことかさっぱり判らなくて。
でも、話を聞いた後もやっぱり判らなくて。







…ただ一つだけ判ることは、やっかい事がまた増えたという頭を抱えたくなる現実。










「今度君の家に泊まりたいのだが」



とある小春日和のお昼過ぎ。



御剣がひょっこり僕の(というか千尋さんの残した)事務所にやってきて、何を思ったのか開口一番こんな事を言い出した。

「…何だよいきなり」

唖然とする自分を自覚しながら、僕は思いきり気の抜けた返事をしてしまう。

「駄目だろうか」
「…そうじゃなくて」

しかも問いかけるというよりは「駄目なのか」と言われているような気がするのは…僕の聞き間違いなんだろうか。
不機嫌さを隠すこともしないてこっちを見ている御剣に、僕は小さく溜め息を吐いてから逆に質問することにした。

「なんでいきなりそんな事を言うんだよ。
だいたい何で僕のウチに泊まりたいわけ?」

はっきり言わなくともこいつの自宅は高級マンション。
あんなところに住まう御剣が、なんでうちみたいな普通のアパートに泊まりに来たがるのが、僕には全然見当がつかない。

「…思い出したのだ」
「は?」

それが一体?と首を傾げてみせれば、御剣はいつもの人を斜めに見下げる視線ではなく、時折見せる真剣な眼差しで僕を見ていた。

「子供の時、君と約束した事を思い出した」
「……」

なんだか嫌な予感がするんだけど、これはいつも僕がテンパっているから、単なる防衛反応なんだろうか。

「じゃあ聞くけど…僕はお前と一体何を《約束》したんだっけ?」
「覚えていないのか」
「生憎とね」

自分だって今まで忘れていたんだから、僕が忘れてることを責めるなよ。
でも御剣は、何だか不機嫌そうに僕の右手を取って小指を伸ばし、自分の右手小指を絡ませて、おもむろに子供の頃よくやった《指きり》をしてきた。

「…何やってんだ?」
「指きりだ。君はそんな事も知らないのか」
「指きりくらい知ってるよ。僕が言いたいのはそういうことじゃなくて」

この指きりが子供の頃の約束と、どう関係してるのかって聞いてるんだけど…。

「あの時君は、こうやって約束したのだ」
「……?」
「…子供の頃の君は、とにかく私のそばに居たがった」
「それは…まぁ、その」

例の件で御剣に助けてもらった僕にとって、無意識のうちに雛鳥のような刷り込み状態だったろうし。

「学校ではいくらでも一緒に居ることができても、当然の事乍ら帰宅してしまえばそばには居られない」
「そりゃそうだね」
「…ここまで言ってもまだ思い出さないのか君は!」
「ごめん、さっぱり」
「く…っ」

そんな法廷に居る時みたいに凄い目でにらまれたって、本当に思い出せないんだから仕方がないじゃないか。

「指きりをしながら君は私に、『お願いだから僕の家に泊まりに来てね』と泣きそうな顔で言ったのだ!」
「ええ!?ほんっ気で覚えてないよ僕っ!」
「……」

間髪置かずにそう答えた僕を、指きりをしたまま御剣は法廷以上の眼光でにらみつけた。

「自分から言い出しておきながら、見事なまでの忘れようだな、成歩堂龍一」
「待った!子供の頃の話を今頃になって持ち出すほうがどうかしてるよ!」
「異議あり。言ったのは間違いなく君だ。それならばその責任は取るべきだろう」
「異議あり!自分だって忘れてたくせに、今頃になって蒸し返されても困る!」
「異議は却下だ、成歩堂。男ならば潔く責任を取りたまえ」
「言ってることが無茶苦茶だよ!!」
「あくまでそう言うのならば、何処が無茶苦茶なのか立証してみせろ」
「立証も何も、いい年をした成人男性が指きりをしたまま至近距離で言い合う事自体、すでに無茶苦茶だッ」

そう叫んでも、御剣は半ばヤケクソのように僕の手を離してくれなくて。

「…あのさ御剣」

それがなんだかワガママな子供を相手にしてる気分で、僕は溜め息を吐きながら改めて聞き返すことにした。

「何をそんなに怒ってるんだよ?」
「……」

御剣は相変わらず指きりしたままだけど、そっぽを向いて黙り込んでしまった。
どうやら御剣にとってこの質問は、触れて欲しくなかった事のようだ。

「僕は超能力者じゃない。だから話してくれなきゃ判らないよ」
「……」
「お前が怒ってるのは僕には関係ないのか?
…そうだとしたら僕に八つ当りしないで」

いきなり押しかけて来て、子供の頃の約束を持ち出されて。
それでだんまりを決め込まれたら、誰だって快くは思わないぞ。

「ム…す、すまない」

こっちも不機嫌さを隠さないでにらみつけてやると、御剣は一瞬たじろいでから、盛大な溜め息と一緒にやっとその理由を口にした。

「あの男のせいだ」
「『あの男』?」
「…ゴドー検事だ」
「………」
「あやつが君に気安く話しかけることがまず私には不愉快だ。
成歩堂龍一を追い詰めて良いのは、この私だけなのに!」
「いやいやいやいや!いいわけないだろッ」

あ、阿保か!
人が真面目に聞いてやっているのに、そんな寒くなるような事が原因で不機嫌になってるわけ!?

「そこでだ。
子供の頃に約束していたままだった『お泊まり』を実行させてくれ」
「……」


本気だ。


御剣の奴、本気でゴドー検事に意味不明の敵対心を燃やしてるよ、どうしましょうチヒロさんッ!


「うム、これであとは実際に君の家へ泊まりにゆけば、あやつより私の方が深い関係だと証明できる!」

御剣は唖然とする僕に構わず、一人納得して頷いているのは何故なんだ!?

「ちょっと待て御剣…僕たちはもともと幼友達だろ?最近知り合ったゴドー検事なんかより、比べ物にならない仲じゃないか!」

何だかとても嫌な予感がして、どうにかして御剣を正気に戻そうと訴えてみたけど。

「それは違うぞ成歩ど…いや、『龍一』!」

なんでいきなり名前呼びになるかな!?

「これは闘いなのだよ『龍一』」
「だからなんで呼び捨てなんだよ!?」
「何を言う。親しい仲なら、名前で呼んでおかしくはあるまい?」
「うっ…」


さ、逆手に取られた…っ。


「子供の頃に誓った約束を果たし、あのイカサマ検事に私たちの仲を証明するぞ『龍一ッ!』」
「そんなモノしなくていいッ!っていうかゴドー検事に対抗しなくていいから!!」

…壊れ始めた御剣が空恐ろしくなった僕は、法廷でかく冷や汗以上の嫌な汗と共に、なんとかこいつから逃れようと後ずさる。

「何を言う『龍一』!君の貞操を守れるのはこの私だけなのだぞ!
私があやつに対抗しないで誰がするというのだ!!
…いや、私以外の男がすること自体、この私が許さーんッ!!」


完全に御剣が壊れたどうしましょうチヒロさんーッ!!


「お、おま、お前もあの人の同類ッ!?
男の僕にキスとかしたいのかッ?!」
「不本意だがそれは認めざるを得まい。
しかしッ!君と初めて同衾するのはこの私だ!」

しかもさらに恐い事に御剣は、今さらっと本音を漏らしたよ!!

「さぁ、約束を果たし私達の仲を深める日はいつにする?」

ずいっと息が触れ合うくらいにまで顔を近づけて、女性だったらときめかずにはいられないその甘いマスクで、御剣は僕に迫ってきた。





「早く決めなければ、こちらから勝手に夜押しかけるぞ」
「それは夜這いじゃないかああああーッ!」





決める決めない以前に僕は男と同衾する趣味はナイッ!!
ないのに、なんでこうも強烈な輩にばっかり狙われるかなあッ?!





先手ゴドー後手御剣。






…僕の気持ちはお構いなしなこのバトル、一体どうなってしまうんだろう…。










《自分勝手・完》



こんぺきさんに捧げた初ミツナルSS。なんとなく
ゴドナルに繋がりそうですが、全くの別物です。…多分。
(←管理人自分で気付かないうちに続編考えたりするので)。
反応があると調子こいて続きを書く可能性は特大(笑)。
…私じつはみったんは日向同様へタレ属性だと信じて疑いません。
(っていうと怒られるのかなぁ?)
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