「……」
小さな寝息をたてて眠っている成歩堂の髪を、ゆっくりと、そして静かに優しく鋤くように撫でて。
「………」
本人曰く『いっそ面白いほどクセのある』その感触を、自分の掌に覚え込ませるために、俺は何度も何度もそれを繰り返す。
「………」
憎しみよりも、哀しみが。
哀しみよりも、愛しさが。
愛しさよりも、ただ後悔だけが。
とうの昔に渇れて壊れたはずの心から溢れでて、狂気と隣り合わせの想いと共に成歩堂を渇望する。
「何時までも、なんて望んじゃいねぇ。
だが、まだ、もう少し…お役後免になりなくはねぇんだ」
いつ動かなくなってもおかしくはない自分の体を嘆いたところで、過ぎ去った時が戻るはずもなく。
「ん…ごど、さん?」
「悪いな、起こしちゃったかい」
「…どうか、しましたか」
「どうかって?」
「すごく、泣きそうに、見えたから…」
完全に覚めてはいない状態で、そのくせじっと俺を見つめてくる成歩堂の眼差しは真剣で。
隠せるものなら隠し通したい現実を、例えまた自分が傷付く事でも全て打ち明けろと、そう声なく叫んでいる。
「抱き締めても、いいか」
「いくらでも」
「アンタが困るくらい、触ってもいいか」
「ゴドーさんが望むだけ」
だからこそ愚かな夢を望むくらいなら、俺は今のこの時がほんの少しでも長く続く事を願う。
だがそれを願う俺に、許された時間は少なすぎて。
『きっとこれが最後になる』
いつもその想いと共に触れる掌に、そして成歩堂の心に、俺は自分の為の愛を刻み込む。
『最後』の時は、そう遠くない明日(みらい)。
【きっとこれが最後になる・完】