生きている以上、成長してゆくのは当たり前で。
それに成長が緩やかなラグズに比べれば、ベオクであるのだから年単位で会っていなければ外見に変化が見られるのはなんらおかしな話ではなくとも。
久しぶりに会う者のほとんどからそのことを言われ続けしかも大層驚かれ、そんなに自分は変わってしまったのだろうかと、流石のアイクも何と無く気になっていた。

「そういえば鷹王。あんたは言わなかったな」
「何をだ？」
「俺がデカくなったって」

しかし思い返してみれば鷹王ことティバーンからはそれがなかったなと、そう気付いた時にアイクはなんの臆面もなく問掛けていた。

「確かに言われてみればそうかも知れんが…驚くようなモンじゃねえな」
「そうなのか？」
「ああ。何をそんなに驚いてるのかこっちが聞きてえくらいだ」

そして問われたティバーンもさして気にした様子もなく、むしろそんなに驚くようなことかと逆に問い返してきた。

「確かに成長はしたと思うが、十分とは言えねえだろう」
「……それは……まあ。俺としても親父が目標だから、自分がデカくなった自覚は殆どない」
「大体目線は低いし腕もまだまだ細い」
「そうだな」

だがそれを少し離れた所で聞いていたティバーンの側近二名が「それは王を基準にした場合でしょうが！」と、内心盛大に突っ込みを入れていたことを記載しておく。
…そう、ティバーンと言えば鳥翼族の中でも大柄な鷹の、その頂点に立つ王…つまりは【彼自身規格外にデカイ】のである。
そもそもラグズとベオクで比べること自体が間違っているのだが、生憎とこの場に居合わせたのはティバーンの側近二名だけで、鷹王の存在を無視してアイクに進言出来る存在が居なかった。

「だが…」
「鷹王？」

側近二名の心配（というか最早突っ込み）など知らず、ティバーンの腕と自分の腕を見比べそして亡き父を思い出し、確かにまだまだだと一人納得していたアイクは。

「三年前に比べたら、いい体つきになってきた」

ティバーンが悪戯を思いついた子供のように黄金色の瞳を輝かせ、見比べていた腕を取り引き寄せたことで（ほんの僅かだが）驚愕にネルソン・ブルーの瞳を見開いた。

「ちょっと王！何やってるんですか！」
「…そんなことをなさっては、将軍の所の参謀殿が風魔法片手に飛んできます。お止めになった方が…」

しかしそれに慌てたのは側近二名だけで、当のアイクは驚きはしても引き寄せられたまま抵抗もせず素直にその腕に収まっていて。

「何をそんなに慌てているんだお前ら。体つきを確かめてるだけで変なことをしているわけじゃねえんだ、別に構わないだろうが」
「俺は別に気にしていない。まあ、いきなりで驚きはしたがな」
「大将〜…」
「中身はそのままのようだ…」

言葉とは裏腹に絶対何か良からぬ事を企んでいる自分達の主より、本当にまるで気にしていない様子のアイクに毒気を抜かれ、最早自分達では打つ手がないと早々に白旗を揚げることにした。

「俺なりに成長しているか？」
「ああ、随分と鍛錬を重ねているのは判るぞ。体格は抜きにしても、筋肉はいい付き方をしてやがる」
「そうか」

恨みがましげな側近の目を軽く受け流し、引き寄せたアイクの身体を思う様撫で摩っては筋肉のつき具合を確かめて。

「ここらあたりも、な」
「うわ…っ」

嫌がるどころかティバーンが確かめ易いようにと、手の動きにあわせて軽く身体を捩るのをいい事に、むき出しになっている二の腕から今度はマントと襟で微妙に隠れている鎖骨へと手を伸ばした。

「た、鷹王？」

側近二人（特に千里眼）にはティバーンが何を考えているのか手に取るように判るのに、アイクは引っ掛かりを感じても結局何がおかしいのか見当が付かないらしい。

「ん？くすぐったかったか」
「いや…くすぐったいというより、その、少しむず痒い、ような」
「そうか、すまんな。だがうちの兵を預ける以上お前がどれだけ成長したのか確かめたい。悪いが少し我慢してくれ」

鎖骨を指でなぞり胸元まで手が入ってきても、アイクがさした抵抗もせずに声をかければ、ティバーンは別に深い意味はないのだとあくまでまっとうな理由を述べ。

「わかった」

加えてアイクの性格を逆手に取ってしまえば、案の定「それもそうか」とあっさりと納得してしまい、ティバーンの好きなようにしていいと身体の力を抜いてしまう。

「……触っただけじゃ判りにくいな……脱がせてもいいか？」
「？別に構わんが、ここでそんな事をしたらミストにライブの杖で思い切り殴られそうだ。
杖っていうのは便利な反面あれでなかなかどうして立派な凶器でな、目一杯殴られると意外と痛いんだ」
「くッ、そいつは俺も勘弁して欲しいところだな！じゃあお前が妹に瘤だらけにされないように、適当に空いてる天幕にでも入るとするか。…なあ？」
「そうしてもらえるとありがたい」

ティバーンのとんでもない提案にあっさりと了承してしまうアイクとは正反対で、本当に手近にある空いている天幕へと向かう様子に、側近二名は去り際向けられた意味深げな王の鋭い目つきにさっと顔色を変えて硬直するも。





「大将ンとこの参謀殿と白の王子にバレたら、どう取り繕ってもうちの王の命がヤバいよな」
「…ああ。それと白の王女と将軍の妹殿にも知れたら事だぞ」





そう確認して頷きあうと、気持ちは判らなくもないと心の隅で思いつつ、場所も時間も考えずに行動を起す王に頭を抱えながら。







「とんでもないことになる前に、オスカー呼んでくる」
「では俺はキルロイを探すとしよう」







二人きりで天幕に入って、そこで本当に体つきを確かめるだけで済むのかどうか信じ切れなかったため、それぞれが思い当たる、上手くアイクを救い出してくれそうな人物の元へと阿吽の呼吸でもって飛び立った。






「…………」
「…………」




…が、向かった先に要注意として挙げていた者達が居た事は、二人にとって更なる不幸だったかどうかは…誰も知らない。