知らぬが仏(最遊記 38+5)





『極端なハナシなんですけどね』



そう切り出して、俺の目の前にいる『一見優男』はほやっと笑う。




『僕は、彼にだけは本当の姿を晒すまいと自分に誓いを立ててますけど。
でも。
もしも。
もしもの話ですが。
晒したことで彼の命を救えるのなら、僕は迷わず誓いそっちのけでこの三つの戒めを外す気満々だったりするんです』



あんまりにも極端な例え話に唖然として言葉を失う俺に、目の前の男は「今日はいい天気ですねぇ」なんて言うのと同じ口調でそう言ってのける。





『その為なら、僕は。晒した事で例え彼に侮蔑や軽蔑、嫌悪の表情を向けられてしまうとしても、迷わずこの身の全ての力を解放しますよ。
…ええ、彼を助ける、その為だけに』





にっこりと笑うその顔は昔の自虐的で後退的な作りもののそれではなくて、言葉通り純粋に守りたいが故の自信が伺えるそれ。




『あ、でも誤解しないで下さいね?
貴方やあの子の為にだって、結局僕は自分からコレを外しちゃいますし』




自他共に認める器用貧乏で、冷静で、容赦がなくて、頭が良くて、それでも直情型なコイツはそう言って花が綻ぶみたいに笑う。
それがあんまりにも幸せそうな笑い方だったんで、俺も釣られてへらりと笑い返してみたけど。




それでも一つだけ。




たった一つだけ、コイツは決して口にしない事があった。
だからそれをあえて聞いてみたくなって、わざと聞いて困らせて、そして…本人だけが気付かずにいる事を自覚させてやりたい。
そう思ったから、俺は率直に聞いたんだ。



『でも、やっぱり……にだけは見られたくないんだろ?』



そしたらさ。
えーと…なんてぇの、花が綻ぶみたいなふんわりした笑みから一気に薄い硝子の薔薇みたいなそれにかわっちまって、これに俺はお節介な自分を死ぬほど呪うはめになった。




『判ってるなら、そんなことがないように貴方がちゃきちゃき敵さん倒して下さいよ。
そうしたら…、僕の一大決心は杞憂に終わるんですから…』





そして嫌味ったらしく返されて、気まずさに己の口のうかつさをも呪った。





『へいへい、猿と一緒にせいぜい頑張らせていただきますよっと。
俺様達の勇姿、その綺麗なお目目でよーく見ていて頂戴な』






わざと軽くそう言って、誤魔化しついでに男のこいつに投げキッスなんぞくれてやって、あとは触らぬ神になんとやらで俺はそそくさとこいつに背を向けた。







大丈夫だ。そんな心配しなくて大丈夫。
あいつはどんなお前を見ても絶対大丈夫なんだから。







その場を去りながらそう心の中で呟く俺の視線の端に、あいつが焦がれて止まない黄金色が映る。
暗紫の瞳は残されたあいつを気遣って、そばに居た俺を射殺しそうなくらいで睨みつけて。
普段の仏頂面からは想像もできないくらい判り易いその視線は、部外者の俺でさえその黄金色が何を想いそして見ているのか気づかされずにいられない。





「オクサンが一人黄昏ちゃってんですけどぉ、なんとかして頂けません生臭坊主のダンナサマ?」
『黙れ殺すぞこのクソエロ河童』





それがなーんか癪にさわったから、去り際にわざと大声でそう言ってやれば、天下の最高僧サマは言うよりも早く鉛玉をぶっ放して威嚇してきた。






…お前らちったぁ素直になれよと言ったら、このもどかしいくらい絡まない視線は互いを見るんだろうか。







                       

【知らぬが仏・完】




はいとうとうやっちゃいました〜。今更ながらに最遊記です。
コミック一気買いの上でのSSなんで、なにか間違いがあっても
さらっと受け流していただけると有難いなと(素晴らしく小心者)。
8に嵌まるのは読む前から目に見えていたんですが、でもまさか
58ではなく38に行き着くとは予想もせず…ってかなんか凄く
私らしいといえなくもなくもなく(←一体どっちなんだ自分)。
とりあえず一番はジープと戯れる八戎なんですけどねえ(苦笑)。
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