受ける方も、与える方も、愛の形は千差万別。
でも、やっぱり隣の芝生は青く見えるもので。
『すぎただは、いいなあ』
「んあ?」
博覧亭の主が不在の彼の部屋にて。
杉忠が何時ものように博覧亭にやってくれば、出迎えた面子は主が不在であるにも関わらず一も二もなく招きいれ。
招かれた方も勝手知ったるなんとやらで主の部屋へと上がりこみ、わらわらと出迎える付喪神たちを好きに纏わり付かせ撫で返していた時。
『本当に、いいなあ』
すっかり馴染みとなっている古参の付喪神の一体である五徳猫が、大きなため息と共に杉忠の足元にやってきた。
「なんだ、俺がどうしって?」
先日事故とはいえ主の眼鏡を割るという事があっただけに、また何かやらかしたのかと杉忠が苦笑と共に抱き上げてやると、五徳猫は素直に抱き上げられて再度大きなため息を吐いた。
『すぎただは、大きいねえ』
「は?」
『僕達は、ちっちゃいから』
「ん?」
『だから、いいなあ』
「???」
五徳猫の呟きにただ首を傾げるしかない杉忠だったが、ふと足元に視線を落とせば、他の付喪神たちも皆それぞれ五徳猫に同調するように大きなため息を吐いていて。
ただそれが一体何に起因しているのかだけは判ったから、苦笑を微笑に変えてからどっかりと腰を下ろし、そのまま手元に集まる付喪神たちを励ますように順に撫でてやる。
「俺は確かにお前さんたちより大きくて腕っぷしも自信があるし、それにちょっとばかりお前さんたちよりはあいつとの付き合いが長いけどな」
『……』
「俺からしたら、お前さんたちの方が羨ましいがね。あいつは俺に関して嫉妬なんて覚えたことがないし?」
『……すぎただ』
あいつの嫉妬はお前ら限定だからと、そう笑っている杉忠の内心を知らぬはここの主のみ。
『…でも、やっぱりすぎただはおっきいから。護ってあげられていいなあ』
「それでも俺は、あいつから無条件の愛情を注がれてるお前さんたちが羨ましいね。相思相愛、何とも羨ましい限りだ」
『んー、すぎただの場合、吉原にいくのがいけないんじゃない?』
「はははは、俺から吉原取ったら此処しか出向くとこなくなるぞ。その分あいつにべったりくっついてていいのか?」
『それは駄目!』
長い付き合いだからこそ通じていない本心を自分で軽く流しながら、五徳猫の肉球パンチと鳴釜が膝をよじ登る感覚にくすぐったさを覚えて、杉忠は付喪神をまとめて抱きかかえてやるのだが…。
「……………」
「さ、榊っ」
『さかき!』
いつの間に帰宅していたのか、部屋の入口のところで声なく立ち尽くす榊の姿に一同そろって青褪めた。
「な…鳴釜だけでなく、五徳猫まで…っ」
『ち、ちが…っ!』
『僕らが大好きなのは、さかきだけー!』
『さかき、誤解なのー!』
「うぉあっ!」
驚き身体を竦めた鳴釜の頭部が顎に当たり、思わず呻く杉忠には目もくれず。
杉忠の腕に抱きかかえられていた付喪神たちは、ショックによよよと崩れ落ちる榊めがけて誤解だ何だと一斉に駆け寄ってゆく。
「……やっぱりお前さんたちの方が羨ましいねえ」
赤くなった顎を摩りながら杉忠は煙管入れに手を伸ばし、盛大に愛を確かめ合う(?)幼馴染と付喪神たちにいつものように苦笑するだけ。
「あー、平和だ」
ぷかりと空中に吐き出された煙と共に、杉忠の口から零れたのは今の状況を的確に表している言葉。
いくら隣の芝生が青く見えても、その青さが羨ましくも妬ましく思わないのは、この状況に満足しているからこそ。
【ないもの強請り・完】
突っ込みどころ満載ですが、自己満足の為に書き上げたので
私としては(出来はともあれ)これでヨシ。←榊が愛されてればいい。
閑古鳥が鳴くどころか住み着いた上に家族同然になっちゃってるけど、
それでもあの中に入りたいと思うのは、私だけじゃないはずだ。