「はぁー、よう食ったわ!」
お礼参りを兼ねた(え?)救出劇の後、ろくな手当もせずに波戸は悟を伴い某店にとやってきていた。
「その怪我でよく得盛食べられますね…痛くないんですか?」
怪我を物ともせずに豪快に食べ切った波戸の様子に、悟は感嘆半分驚愕半分の面持ちで食べている。
「味、判ります?」
「あったり前や。それにこんなん怪我のうちに入らんわ」
「(じゃあどんなのから怪我になるんだろう…)」
「んー、やっぱり牛肉やないとこう、寂しいもんやけど…悟と食ってるんやから十分旨い思うで」
「はぁ…へ?」
痛々しい顔で爽やかに予想外なことを言われたせいか、悟は一瞬何を言われたのか判らずに、妙に間抜けな合槌を打ってしまう。
「なんや、そないな顔して。俺何か変なコト言うたか?」
思わず割り箸を落としてしまった事にも気付かずに悟が波戸を凝視すると、逆に波戸の方も悟の反応が予想外で見つめ返してしまった。
「変…だと思わないんですか?」
「何がや」
「俺、男ですよ?」
「そないな事百も承知や。それがどないしたんや」
「いやあの…そういうのって、普通は女性相手に言うんじゃないのかな…」
オウルじゃないからよく判りませんけど…、と言いながら視線を反らせてしまった悟に対し、波戸は微妙に人の悪い(でも端から見れば怪我のせいで判りにくい)笑みを浮かべる。
そして悟が気まずそうに残りの豚丼を口にかき込む姿を、波戸は何も言わずにただじっと眺めていた。
そうして悟の方も完食したところで、波戸ははさも嬉しそうに口を開く。
「なぁ、悟」
「はい?」
「お前、今日は学校休みなんやろ?」
「え、えぇまぁ…休みですけど(…なんで俺のスケジュールが百舌鳥さんだけじゃなく、波戸さんにまでばれてるんだ…?)」
「なら、頼みたいコトがあるんやけど」
「?」
怪我のせいで痛々しい面持ちではあるものの、普段から悟が好ましいと思っている笑顔を見せられると、何故か訳もなく顔が赤くなってしまう。
「おいおい、そないな顔すんな。…食べたくなるやろ」
これに波戸は「お、そろそろ想いが通じてきたか」と内心ほくそ笑んだのだが…。
「え、豚丼まだ食べるんですか?!」
「………」
お約束通り、その意味は(やはり)通じてはいなかったらしい。
「波戸さん、まずその怪我診てもらった方がいいんじゃ…」
「あほぅ…」
(今に始まった事ではない)悟のすっとぼけた反応に、波戸はがっくりと肩を落とす。
「男の純情を弄ぶ気やな、お前…」
「えっ、俺なんか気に触る事言ったの!?」
「言うた」
「(なんだか良く判らんが)うわごめんなさい!」
人当りの良い波戸に責めるような事を言われ、元来腰の低い悟はすぐに平謝りだ。
「ごめんなさい波戸さん!(だから奢るの止めたなんて言わないでぇ!!)」
「悟はひどいヤツやからなー…」
「波戸さぁぁーんっ!(この人実は百舌鳥さん二号ッ?)」
最初は視線を反らせて懇願を聞き流していた波戸だったが。
「冗談や」
自分が悪い訳ではないのに必死で謝るその姿が可愛らしくて、結局苦笑と共に悟の頭を撫でてしまう。
「波戸さん〜(やっぱり良い人だ!)」
「でも、頼みがあるのは本当やで」
いつもの波戸に戻った事に安心したのか、ほっと胸を撫で下ろす悟に、波戸は先ほどの話を再度振る事を忘れない。
「俺に頼みって何ですか?」
「簡単な事や。今日俺を悟のウチに泊めてくれへんか?」
「…え?」
突拍子もない申し出に、悟が頭を撫でられたまま上目遣いに視線を送れば、こちらを見ている波戸のそれはまるで冗談を言っているようなモノではなく。
「な、ええやろ?」
「ぁう…」
さらにとどめと言わんばかりに微笑まれて、悟は自分の顔がまた、今度は先ほど以上に赤くなるのを感じてしまった。
「と、泊めろといわれても…俺の家なんて安アパートですよ?!」
「ああ、知っとるで」
「じゃあどうして…」
ASEの社員用宿泊所に泊まった方が間違いなく快適に過ごせるはずなのに…と首をひねる悟に、波戸は笑顔を崩さずに「悟のウチがええんや」と言った。
「本当に何もありませんよ?」
「ええって」
「飯だってありませんよ??」
「そんなん俺が奢るからええやんか」
追い討ちとばかりの「奢る」という言葉に、それまで困惑していた悟の瞳が、歓喜に満ちたそれになるのを波戸は見逃さなかった。
「ちょこっとな、次の任務まで時間があるさかい久しぶりに日本の生活を味わいたいんや。
悟の迷惑になるような事はせんから、ウチに泊めて。な?」
「はぁ…それなら構いませんけど…」
「よっしゃ!決まりや!!」
承諾を取り付けた瞬間波戸は破顔して、がばっと悟の首を抱え込んで今度は音がしそうな勢いで、自分とは違う色合いで色素の薄い髪を掻き撫で始めた。
「い、痛い痛いやめてぇ!!」
途端に悲鳴を上げる悟に構わず、波戸は素早く会計をすませると、彼を伴い颯爽と店を後にする。
「ほな行こか!!」
「それよりもまず、その怪我を診てもらってからですよーッ」
訳が判らないうちに波戸のペースに巻き込まれながら、そういやうちに布団一組しかないんだよな…ということに悟が気付いたのは、実際に必要になった夜になってから。
そこでまた一騒動あるかどうかは…また別の話。
《それが、始まり・完》
初めてのSSがこんな悟馬鹿な波戸さんでいいんだろうか…(汗)
でも管理人にとって、波戸さんのイメージってこんなカンジなので
これから酷くなることはあっても、軽くなることはないと…思う。
本当はもっと続きがあったんですが、まだ初SSということで
此処までにしました。(←とりあえず、ね(苦笑))
反応があれば、続きとか百舌鳥さん絡みとか書きたいかな…。