暑さも幾分和らぐ雨の中。
「やはり日向サン、似合いますネ」
俺の目の前では、たまには外で飲もうと連れ出した金が照れ臭そうにはにかんでいる。
日頃のお礼とやらで小夜ちゃんが仕立てたと言う浴衣を着て、しかも雨だというせいかわざわざ番傘まで用意して。
有無を言わさず俺も着替えさせられたが、その事に何か言うよりもまず、この目の前にいる浴衣姿の金から目が離せない。
「どうかしましたカ?」
「いや…」
これから飲みに行くつもりなのに、見慣れない浴衣姿の金はひどく扇状的で。
雨が傘を鳴らす音で辛うじて理性が踏み留まるものの、それがいつまで持つのか見当がつかない。
「…まいったね、コリャ」
たまには良いかと思いついた事が、まさかこんな事になるなんて思わなくて。
「なあ、金さんや」
「ハイ?」
「帰るぞ」
「………は?」
その上酒まで入ってしまえば、揺らぐ理性をぶち壊しかねないその色香に、俺は辛抱たまらず(返事を待たずに)金の手を引き帰路に着く。
「ア、アノ、日向サンっ?!」
後ろで金が慌てている声が聞こえるが、今の俺の頭にあるのは何よりまず事務所に戻りたいこというだけで。
そもそも説明したくとも、この歳で、まさか浴衣姿に欲情するとは思わなくて。
「日向サン、手など繋ぐしなくても。濡れますカラ…」
柄にもなく赤く染まった顔を知られなくなくて、俺は金の手を引き事務所を目指し我武者羅に歩く。
「私ちゃんと歩くしますカラ!」
事務所に戻れば、否応無しに金を抱くつもりでいるけれど。
「本当に、もう…どうしたデスか〜」
少しで良いから、金も同じ浴衣姿の俺に欲情していてくれないかとか、そんな事も考えながら俺は金の手を引き一目散に事務所を目指す。
…気付かれ抵抗されるのが目に見えているから、される前にいかに抵抗を奪い陥落させるかとか、頭をよぎるのはそんなどうしようもないことばかり。
【どうしようもない・完】