皆に愛されてるのは仕様です(断言)




※何時もの如く時代考証はまるっと無視でお送りしております。






「ね、知ってる?」


いつものようにいきなり天井裏から現れた天下人の愛妻は、その男の前に降り立つと何の前振りもなくこう切り出して。
これまた何時ものことで慣れているとは言え、内心では相当な勢いで驚いている男に気付かず、ぞれどころかびしっと人差し指を突きたてこう叫ぶ。

「ちょっと小耳に挟んだんだけど、南蛮では、もうすぐ大好きな人に甘いお菓子を贈って気持ちを伝える日があるんだって!」

いつもそっけない反応しか示さない養い子と違い、彼の腹心の部下であるその男は「ほほう?なんですそれは」と人の好い笑みで反応を示すものだから。
それで気を良くしたのか、更に笑顔になる天下人の妻は女童のようにずいっと身を乗り出して、男を見上げながら上機嫌で詳細を語り出す。

けれど問題はそこから。

「つまりは、親愛も敬愛も義理も情けも、色々な意味の愛情でもって菓子を配って気持ちを伝える、と。そういう祭ですかな?」
「そうそう、流石左近は物分りがいいねえ!」
「ははは…」
「だから左近、あたしと一緒にお菓子を作ろ?」
「……は?」
「三成も清正も正則も、『昔のように食事の支度ならともかく、そういうことは侍女か女の武将に言ってください』って全然相手にしてくれないんだよ。だから左近、あたしと一緒に作ろ?」
「はあ…」

ぷく、と頬を膨らませてそう言われてしまうと、そりゃそうだろうと内心突っ込むも、まさか己の上司にとっては親同然の、しかも天下人の妻相手にそんな言葉を口にするわけにもいかず。
まあ、素直に自分が付き合うことで己の上司が機嫌を損ねることが減るなら安いものかと腹を括り、幸い今日は急ぎの仕事も終わっていますと告げれば、目の前には本当に幸せそうな満面の笑み。

…だがこれが後の騒ぎの元となるとは、石田三成に過ぎたるものと詠われたこの島左近清興、全く予想だにしていなかった。




「左近!貴様、皆に媚を売って歩いているとは真か!?」
「………」

一体何言ってんだアンタ。
ねねと一緒に作った菓子を城勤めの皆に配って歩き、最後の最後で漸く三成の元に向かおうとしていた左近は、その相手に強襲をかけられ思い切り白い目を向けて出迎えてしまった。

「左近!答えぬか!!」
「答えぬか、と仰られましても。さて、この左近にはとんと覚えがないのですが?」

突如押しかけてきた三成が何を言いたいのか(分かりたくないが)分かっている左近だったが、あまりにも見事に誤解している主に呆れてしまい、少し頭を冷やしやがれという意味を込めて思い切りすっとぼけてやった。

「貴様…!」
「とーの。何をそんなに誤解してるのかあえて聞きませんけどね、左近はおねね様の余興に付き合っただけです。文句がおありならおねね様に仰って下さい」

大体おねね様の相手を嫌がったのはアンタでしょう。
暗にそう意味を含ませて問い返してやれば、三成は一瞬ぐっと言葉に詰まって左近を睨みつけてきた。

「殿はおねね様とご一緒に菓子を作りたかったんですか?」
「そんなわけがあるか」
「ほら御覧なさい。おねね様は殿は勿論、今回ばかりは清正殿も正則殿も断ったとお怒りで俺のところにいらしたんです。
言っときますが、左近が付き合わなかったら今頃どうなっていたとお思いで?」
「…………」

怒りに任せて押しかけてきたものの、その相手に冷静に状況を説明されてしまえば、三成にとって分が悪いどころではない。
それでもやはり左近が皆に菓子を配って歩いているという事実は許しがたいらしく、手にしている鉄扇を潰さんばかりの勢いで握り締めている。
しかしそれすら承知の上で切り返している左近にしてみれば、色々と誤解を受けやすい己の上司の、実は大変分かりやすい性格に(内心)苦笑いを浮かべるだけだった。

「ま、それはさておき。…はいこれ、殿の分です」
「……何?」
「殿は甘い物がお好きではないこと、この左近、ちゃんと判ってますから。殿の分は皆とは別に極力甘さを控えてあるんで、これなら口に合うと思いますよ」

鉄扇を持っていない空いている手を取り、そこに三成のためだけに作った菓子である淡い桃色の煉り切りを乗せてやってから、後から面倒なことになる前にと左近はあっさりと種明かしをすることにした。

「流石にこんな細かな菓子をちまちま作って、しかも城仕えの者全員に配ってたんじゃキリがありませんからねえ。名のある者達にはそれなりのモノを作りましたが、下人や女中達には簡単にまとめて作れるものを拵えました。
大体作ったのは殆どがおねね様で、俺はそれを手伝いついでに配って歩いただけって方が正しいんですよ」
「……だが、俺の分だけは別か」
「ええ。殿の分だけ別です。だって自分の主の分を他と同じになんて出来ないでしょう?」

左近にしてみれば全く他意はない、文字通りの主君へ対しての敬愛の意味で拵えたのだが、果たしてそれは(この左近に異様な執着を見せている)三成にきちんと伝わっているのだろうか。

「そうか。…(色んな意味で)すまん」
「いえいえ、喜んでいただけたんなら何よりですな。さ、これを食べたらもう一頑張りして下さい。もしかしなくても、仕事を放り出して来たんじゃないんですか?」
「わかっている!…だが何やらもったいなくて食べるのが惜しいのだが」
「あのねえ、これくらいでいいなら何時でも作って差し上げますよ。なのですぐ食べてもらった方がありがたいんですがね」
「本当か?!よし、確かに聞いたぞ。これからその約束を違えるなよ、左近!」
「ははは、これくらいのこと、この左近違えやしませんて」

こうして上手く三成の機嫌を戻し、しかもやる気を出させることに成功した左近だったが。




「いーい、アンタたち。今日お菓子を貰った人は、一ヵ月後に三倍にして相手に自分の気持ちを伝えるんだって。
今回あたしに付き合ってくれたのは左近だけなんだから、皆日頃の感謝を込めてしっかりと左近にお返しをするんだよ。忘れた悪い子はおしおきだからね!?」



と、まとめてではなく個別に菓子を貰った『名のある者達』に、ねねが(微妙に間違っている)要らぬ知識を吹き込み、それぞれが「なるほど」と納得した上で揃って色々計画を練っているだなんて。



…本当にこの時の左近は、ある意味ねねのせいでわが身に降りかかることになる、後の大騒動を全く予想だにしていなかったが、それはまた別の話である。




【美味しい愛は誤解から・完】


2010年VD期間拍手に置いていたフリーSS再録。配布期間終了。
何かうっかり続きが出来る形になってしまった戦ムソ編。
どうなるかはちょっと不明ですが、幸村、慶次、正則、清正あたりで
どうにかしたいと目論み中でございます(どれか出来たら万々歳)
世の中の需要からはマルッと道を逸れてる気がしなくもないですが、
うちの左近さんは絶対右側ですよ、これだけは譲れません(断言)
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