形にせずとも伝わるから

 それはある晴れた昼下がりのこと。
季節は春になり、つい先頃に蕾をつけ始めたと思った桜も、今は早散り始めている。
はらはらと桜の花びらが舞い散る中、三成は兼続と幸村と共に花見の宴を催したのだが。

 「・・・・おい、兼続。」
「なんだ、三成。」
「小少将殿は何故攻撃をする時に、布をあのような形にするのだ?」
前々から不思議に思っていたのだがと呟く三成。
なぜ急にそのようなことを尋ねるのか。
それはおそらく、やや離れた場所で勝手に宴に参加している元親と小少将の姿を見つけたからだろう。
「私も詳しくはわからない。だが、あの形は相手へ愛をぶつけるためのものらしいぞ。」
「・・・そうなのか?」
「ああ。私も不思議に思ったので以前聞いたのだ。」
やはり疑問に思うことは皆同じらしい。
兼続に質問攻めにあった小少将は、途中で面倒になり、かなり適当に説明をした。
そのため、伝わった内容もかなり間違った方向に行っていることを兼続は知る由もない。

 「・・・だがまあ、あんなことをできるのは小少将殿だけだろう。」
少なくとも自分たちは無理だと三成が呟いたその時。
「・・ふふふふ。三成、この私に不可能なことがあると思うか?」
突如不気味な笑いを漏らす兼続。
「いや、いくら摩訶不思議な貴様でも無理だろう。」
「おい、友の前で堂々と言いすぎだぞ。」
(あながち否定しきれないのが辛いところですが。)
三成と兼続のやり取りを隣で聞いていた幸村が心の中でそっと呟く。

 「大体、兼続の武器は布ではないだろうが。」
「確かにな。だが、私にはこれがある!」
一体どこから取り出したのか、凄まじい量の札を取り出す兼続に、幸村は嫌な予感しかしなかった。
「・・・ま、まさか!!」
三成が最後まで言葉を紡ぐよりも早く、兼続は札を空に放り・・・。
「景勝様ぁああーーー!!私の愛を受け取ってください!!」
それは、小少将のそれよりもかなり・・いや、倍近い大きさ。
むしろ、小少将のは攻撃のためのそれなのだが、兼続のは完全に景勝への愛の表現だ。

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・はあ・・・。」
それをやや離れた所で見てしまった景勝は、大きなため息をつく。
「・・・なにやら・・・大変ですね、景勝さん。」
景勝の傍でのんびりしていた左近が気の毒そうに言葉をかける。
この後、無言でその場から去っていく景勝と、愛と義を叫びながら景勝を追いかけていく兼続が見られたという。
その様子を間近で見ていた人々は思った。
景勝の眉間の皺の原因の一つは間違いなくあの人だ・・と。


 凄まじい勢いで去って行った景勝達を見送った後、左近はふと三成の方へと視線を移した。
そして運悪く見てしまったのだ、絶対に何かよからぬことを考えているであろう主の姿を。
顔は無表情だが、絶対になにかを色々と考えている、そう確信をした。
実際、三成の脳内では、どうやって兼続以上に左近への愛を形にするかで一杯になっていた。
その様子を間近で見てしまった幸村は、半笑いでくのいちの方を見る。
(くのいち、私はどうしたら・・・。)
幸村の疲れ切った顔を見たくのいちは、同じく半笑いで首を横に振ることしかできなかった。
(幸村様、我々にはどうにもできませんぜ☆)

 このままでは三成の暴走は目に見えている。
そんな三成の元に駆け寄ってきたのは、他でもない左近で。
「殿!」
「な、なんだ?」
「言っておきますけど、兼続さんと競おうとかやめてくださいね?」
「!!(な、何故わかったのだ!?)」
「殿、よく聞いてください?」
三成の肩に手を置き、その顔を覗き込むように言葉を紡ぐ。

 「左近には殿の愛は形にせずとも(充分すぎるほど)、よく伝わっています。だから・・。」
「だからなんだ?」
「形にしてしまったら、周囲の目にもとまるでしょ?」
「それはそうだろうな。」
そのために形にするのだろうと言いかける三成に、左近は静かに笑って耳元でささやいた。
「左近だけに分かれば十分です。形にすることで周囲に見られたら、その愛は左近だけのものではないでしょう?」
「・・・・・・・・・・・・・・わかった。」
「わかってくれましたか!さすがは殿!」
ではそういうことでと爽やかな笑顔で立ち去っていく左近。
(さすがは左近殿。三成殿を納得させるとは!)
感心しきりの幸村の横では、何故か鼻をおさえている三成がいた(理由は言うまでもないが)。



 夜の帳が落ち、左近が自室でのんびりと寛いでいると、誰かが己の部屋の前で止まったのを感じる。
自分の家臣が何かを告げに来たのかと振り返れば。
「・・・・・・・・えーっと・・・その影は・・・もしかして・・・。」
障子越しにうつる影は、見覚えのある体躯の人物だ。
「・・ああ。」
聞こえた声は、やはり想像通りの人物で。
「やっぱり景勝さんでしたか。どうぞ、入ってください。」
何故上杉の当主が自分の部屋の前にいるのか。
理由を聞こうと、部屋に入るように促せば。
「左近、悪いことは言わぬ。今宵はどこかに避難せよ。」
すっと、音もなく障子を開けて部屋に入ってきた景勝が開口一番にそう言葉を紡ぐ。
「・・・・・えーっと、理由はもしかしなくても殿ですかね?」
「ああ。先ほどここを尋ねるにあたり、式神をこちらに飛ばしたのだが。」
左近が屋敷にいるか確かめようとしたらしい。
「飛ばしたら?」
「・・・・・(左近限定に向けた)三成殿からかなり邪な気を感じた。」
「わかりました、すぐに非難します!!」
教えてもらって助かったと立ち上がった左近だったが、ふとあることに気がつく。

 「あれ、そういえば景勝さんは何故左近を訪ねようと?」
「・・・・兼続の様子を見るために式神をそっと飛ばした。」
「・・・ああ、かなり暴走してましたもんね。」
気になって様子を見ようと思っても仕方がないほどに。
式神越しに見た光景、それは。
「うきうきと兼続が枕や寝間着を布に包んでいた。」
「・・・・・・・・・・ああ・・・そりゃあ、景勝さんの所に来る気満々ですね。」
それでこちらに避難しようと思ったのかと左近は納得をした。

 こうなったら共に避難しようとなったのだが。
幸村の所は三成も兼続も想定の範囲内だし、正則の所だと清正が関わってくると面倒だ。
そんなこんなで左近が定めた避難場所、そこは・・・。


 「・・・・・・・・・・何故儂の屋敷に上杉当主と石田の家老がくるのだ?」
そろそろ寝るかと思っていた政宗の元に、思いもよらない客が訪ねてきたのは夜もかなり更けた頃。
だが、相手が相手なだけに、政宗としても会わないわけにもいかず。
「えっと、実はですね。」
左近の話を聞いた政宗は、小さくため息をつく。
「なるほど。それで避難場所をここにしたと。」
「ええ。兼続さんと犬猿の仲の政宗さんの所なら、兼続さんはまず気がつきません。」
「なるほどな。その上、貴様をかくまえば、幸村の儂への印象はぐ〜んと上がるわけだな。」
「ええ、そりゃあもう。俺から幸村にも伝えますしね。」
「・・・・・・・よかろう。儂にとっては良いことずくめじゃ!」
悔しがる兼続の姿を想像したのか、にやっと笑う政宗。
こうして左近と景勝は、ゆったりとした時間を持つことができたのだった。





 おまけ

 「ここにいるのはわかっている!!左近を出せ、幸村!!」
「ですからここにはいませんってば!!」
「隠し立てするとは不義だぞ、幸村!!景勝様もいるはずだ!!」
鼻息荒くまくしたてる三成と兼続に、幸村は疲れ切った顔で応対をする。
1人でも疲れるのに、2人まとめて相手をするのは一苦労だ。
「ですからお2人ともおられません!左近殿がすぐにばれる所に避難されるとは思いませんが?」
「「ならばどこにいると!?」」
「知りませんってば〜・・・。」
いい加減にしてくれと半泣きの幸村。
結局、2人が納得をして帰ってくれるまで半刻を要したという。
翌日にこの話を聞いた左近と景勝が、幸村にお詫びの品を送ったのは言うまでもない。



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いつもお世話になっている紅縞瑪瑙館の葉月屋はづき様へ書かせていただきました。
戦国無双4の小少将の攻撃技を見て、思わず書きたくなりました(笑)。
左近中心の話をと思ったのですが、気がついたら景勝様と左近の話しになっていました・・。
少しでも楽しんでいただけますように!

夕月夜 夕月拝


夕月夜の夕月様より贈り物のお礼に頂きました!
や、お祝いがこんな形で返ってきて逆にすみませんでも嬉しいです!
小少将のあの攻撃は…「消・え・て」なんだから正確に言ったら向けちゃ駄目ですよね(笑)
左近を別格に据えると4はとにかく景勝様ですよねー!!
夕月様、どうもありがとうございました!!(悦)
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