これも一つの利の勝利 (戦国無双2エンパ設定 兼vs政×幸+左)
「ええい、義、義と五月蠅いわ馬鹿め!」
「何を言う、私の友を前に無駄に五月蠅いのはそちらだろう!」
「ああもう、お二人共いい加減おやめ下さいって…」



真田幸村はほとほと困惑していた。
さらに言えばいつも通り困惑していた。
己が慕う武田信玄が天下を手中に収め、ようやく天下泰平が実現…する以前となんら変わらず、自分を挟んで喧嘩をし続けているのがこの二人。
顔を見合わせれば常にいがみ合う二人に、半ば空気と化している自分はいっそ居なくても良いんじゃないかと思ったこともあるのだが、生憎文字通り「自分を挟んで」喧嘩をしているので逃れようにも上手くいかない。

「幸村、このような者は相手にせず、私と共に愛と義の素晴らしさを語り合おうぞ!」
「何を言うか、闇雲にやかましいだけのこやつのことなぞ捨てておけ。お主は儂との先約があろう?」

どちらを取っても角が立ちそうなので嫌です。
…と言えないというか言わない辺り、まだ幸村としては二人の喧嘩に巻き込まれている現状に我慢出来ているのだが。
どちらも選ばない代わりに、どちらでもいいからたまには自分から引いてくれないかな…とささやかだが到底叶いそうにない望みが口に出そうになっていた。
しかしいつもの光景と見慣れてしまっている城勤めの皆は、止めるどころか気にした様子もなく「いつもほほえましいですね」と笑みを浮かべて会釈して通り過ぎてゆくばかりであてになどならない。
けれどどちらも己の主張を譲らず歪みあったままでは、いつまで経ってもこのままなのは目に見えている。

(お館さま、私はどうすれば…)

用があって傍を離れるならまだしも、このまま無駄に時間を過ごすくらいならすぐにでも敬愛して止まない主の元へ戻りたい。
二人のことはそれぞれ大事だとは思うものの、かの信玄を基準にしたら尺度の単位そのものが違うほど優先順位がはっきりしているのだから、角が立とうが立つまいがこの場を去っても良いはず。
…と、幸村がそう自己完結して爽やかに二人を見限ろうと口を開きかけたその瞬間。

「幸村を挟んでまた仲良くじゃれあってるんですかい、飽きない方達ですねぇ」
「左近殿!」

幸村達がいる場所に、武もさることながらそれ以上に信玄からは智を買われている島左近が、呆れた声と共にひょっこりと現れた。

「皆さん仲良くじゃれるのは結構ですが、だからと言って廊下を塞ぐのは感心しませんよ?」
「馬鹿め、儂はじゃれてなどおらぬわ!」
「そうだぞ左近、私はじゃれてなどいない!」
「そんな息ピッタリで言われても全く説得力はないんですがねぇ…」
『なんだ(じゃ)と!?』

見事に同じ返事を返してくる二人に左近が呆れに苦笑を混ぜて肩を竦めてみせれば、これまた示し合わせたかのように同じ反応をして詰め寄ってくる。

「ま、義を語ろうが利を追い求めようが、確かにどっちも大事なことだとは左近は思いますが。
しかしここに来る途中謙信公がお呼びだと伺ったんですがね、こんなところで油を売っていいんですかい、兼続殿?」
「謙信様が!?」

しかし詰め寄られた左近はさして驚く様子もなく、それどころか幸村がどうしたものかと困り果てていた一因の片方をあっさりと崩してしまう。

「む…謙信様がお呼びならばすぐに行かねばならぬな。名残惜しいが幸村、語らいはまた後にしよう」
「はい、兼続殿。また後程」
「うむ!…しかしわが友の傍にこやつを残してゆくのは気掛かりだ」
「儂に向かって戯けた事を申すな!」
「ちょ、政宗殿落ち着いて…!」

謙信の名が出た事であっさりと引き下がるかと思われたが、兼続の余計な一言のせいでまた元の木阿弥かと、激昂する政宗を宥める幸村が内心頭を抱えたくなった。

「あー…それなんですがね。実はこの左近、幸村を探してくるようにと頼まれていたところでして」
「何?」
「それは本当か?」

政宗は不満げに声をあげるが、幸村を呼ぶ為に左近を使いに寄越すとなれば、その相手はかの信玄公くらいなものかと思い至ったらしい。
それならば良いと一人すがすがしい笑みを浮かべた兼続が去っていくと同時に、政宗は落胆を隠さず、それでいてそれ以上無理強いすることもなく肩を落とす。

「政宗殿、申し訳ございません」
「…何故お主が謝る。何もしてはおらぬだろう」
「ですが、」
「幸村、政宗殿には悪いがお前さんを呼んでいるのは信玄公だ。早く行ってくれ」
「は、はい」

自分を呼んでいる相手が信玄である時点で意識はそちらに向いているものの、それでも先に約束をしていた政宗の事が気になるのか幸村が逡巡していると、その政宗にも促されてようやくその場を離れていった。
…が。

「さ、俺たちも信玄公の所に行きましょうか」
「……何じゃと?」

左近がさも当然と政宗に幸村の後を追うようにと促してくるではないか。
これには政宗も虚を衝かれたらしく、彼らしくない少し間の抜けた反応をしてしまったのは無理もないだろう。
けれど左近は気にした様子もなく「ほらほら、急いだ急いだ」と言って政宗の背中を押すばかり。
身長差に加え体格差もあっては政宗はそのまま押され進むしかなく、けれど事態が飲み込めぬという事で背後の左近を振り返えれば「大声を上げちゃダメですよ」とくぎを刺されてしまう。

「そんな身構えなくてもいいんですよ。兼続さんの手前回りくどい言い方をしましたけど…ちょっとばかり、政宗殿には礼をしようと思ってね」
「礼?儂は貴様に礼なぞされる覚えはないぞ」
「…直接的じゃないんで思い当たらなくても仕方がないかもしれませんが。ほら、いつも幸村と一緒に頑張ってくれるじゃないですか」
「…………」

幸村と一緒に、と言われて政宗が思い当たるのは一つしかない。

「あれは単に儂の利と貴様の害が一致しただけではないか。礼をされるような事は特にしておらぬ」
「いやいや、最近あの連中は幸村の隙をついて押しかけて来る術を身につけ始めてますからねえ。
けれど政宗殿が幸村の隙を埋めてくれるお陰で抜かれることもなく、結果俺は安寧を頂いてますよ」

二人の利害の一致とは、左近目当てに武田に押しかけて来る豊臣の石田三成、織田の前田慶次らを始めとする『自称』恋人を謳っている連中の、左近に対する神出鬼没としか言いようのない襲撃の事である。
普段は幸村が笑顔のまま容赦ない手腕でさわやかに追い払っているものの、相手が相手なだけに(目的も相まって)梃子摺ることがないこともない。
しかしそこに(とりあえず幸村と一緒に居られればいいという理由だけで)政宗が助太刀に入ることにより、結果左近防御壁は確固たるものとして天下に知れ渡っていた…らしい。

「流石に二人きりというわけにはいきませんでしたが、兼続殿に絶対に邪魔されない幸村との時間を差し上げようと思いまして。信玄公にそのつもりで了承を取ってありますんで、皆で取りとめない話でもしましょうよ」
「……だが」
「それに、さっきの幸村の顔を見たでしょう?
あれの事だから相手が信玄公でなければ絶対政宗殿を選んだのにって、凄く申し訳なさそうにして…でもこれであれの心痛も解消されると思いません?」
「……」
「俺としても、信玄公に幸村、そして政宗殿が一緒ならこれほど心強いこともありませんし。ホント、あの人たちのせいでいつも気が休まらなくって…」
「それが本音か、馬鹿め」

変に恩を売られるような形よりはいいでしょう?と悪びれもせず種明かしをする左近に、政宗は大げさな溜息を一つ吐いては不承不承といった様子で頷いた。


「仕方がない、年寄りの話に付き合うとするか」
「そうして頂けると助かりますよ」


政宗にとって、左近の災難に関しては本来自分とは全く関係ないと切り捨てておくようなことだけれど、そうせずに力を貸してやっているのは、全ては自分が少しでも長く幸村と一緒に居たいが為だけの話。
それにこの知略に長けた左近を味方に付けておけば、この先思わぬ利を得ることが出来る…かも知れない。
仏頂面の水面下でそんな事を考えている政宗の様子を現すとすれば、それはまさに『情けは人の為ならず』である。



そんな政宗と左近の思惑など気付かぬ幸村と言えば、自分から少しだけ遅れる形で信玄の元へとやってきた二人に、驚く以上に破顔して見せたとか。



【これも一つの利の勝利・完】




お世話になっております、夕月夜の夕月さまへサイト6周年お祝いとして進展させて
いただいた戦国無双2エンパ設定で兼vs政×幸+左SSです(略しても長いな!)
ベースは夕月さまの作品である幸村の代わりに奮闘する政宗が元になってますが
管理人がまだ2エンパは動画でしか見たことがないので、うちでは武田が天下を
取った設定になってます(先方様では麻呂の方(笑)が天下統一してる設定です)
…準備だけして頃合いを見てお送りしようと思っていたら、管理人まさかの二度目の
巻き込まれ交通事故で相当遅れてから進呈する羽目になった曰くつきの代物ですが、
お祝いと日ごろのお礼の気持ちだけは目いっぱいに詰め込んだつもりです。
サイト6周年本当におめでとうございます(拍手)
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