自分の選んだ道を後悔したところで、失った大事なものは何も戻りはしない。
だから、過去の自分が選んだ道を信じて、持てる力を全て出して今守れるものを守り抜く。
それが返しきれぬ恩がある育ての母を悲しませ、自分と兄弟のように育った男を死に追いやる結果になったことも、それ以上に絶対的に守るべきものがあるから後悔はしない。
遣り切れない思いを後悔という名にすりかえれば、それはあの男が尤も嫌う同情と言う名の侮蔑になり、またもう一人、自分を信じて同じものを同じ形で守ろうとしている男を迷わせることになる。
選んだのは、自分自身。
どう思われようが、どう見られようが、絶対唯一守るべきものがあるからこそ自分が選んだ道を後悔はしない。
それでも、ただ、一つだけ。
後悔ではなく、未練でもない想いがあるとすれば。
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豊臣を徹底的に消し去るべく、大阪城に攻め入ろうと数多の猛将と大軍を送り込んできた徳川の猛攻を粗方押さえ込み、いよいよ総大将家康を攻め入るその僅かな間。
「どーも、ご無沙汰してましたねえ」
「なんで、お前が…」
援軍として駆けつけたことが未だに信じられず、珍しくも明らかに狼狽して自分を見つめる清正に、その男はただ静かに笑う。
「よくぞご無事で…!」
「お前さんこそよく頑張ったな、幸村。だがもう一頑張り、頼むぜ?」
「はい、お任せ下さい!」
「お、おまえ、今まで何してたんだよー!全然音沙汰ないから、てっきり、もう…っ」
「援軍に来たってのに、勝手に人の事を殺さないでいただけませんかね、正則さん。
だが感動の再会劇は後にしましょう。…狸狩りという、大仕事の後にね」
「おう、俺様に任しとけ!」
「よし、おニ方はまだまだ大丈夫。頼りにしてますよ。
さあ、狸狩りさえ終わらせれば本当の天下泰平は成される。それを目前にしてるんだ、お前たちも最後まで気合いを入れていけ!」
『応!』
最後に見かけた姿のまま、逞しく精悍な体躯に見合った斬馬刀の猛壬那刀を軽々と肩に担ぎ、思いがけない援軍に高揚を隠せない幸村と正則、そして疲労を滲ませている卒兵たちへの鼓舞も忘れない。
だが、清正がかける言葉を失って立ち尽くしていると、それに気付いてゆったりとこちらに近付いてきた。
「突然の援軍に驚きましたか?それとも…俺が生きてるのが信じられませんか?」
いつも三成の傍らにあり、厭世的で人を食ったような軽口を叩いていた口調すらそのままに、けれど何処か覚悟を決めた眼差しをむけてくる。
「………」
違う、と。
そんなことを聞きたいわけじゃないと。
清正の口からようやく零れた否定の声がかき消されんばかりに、辺りに喧騒と砲弾の轟音、そして怒号が飛び交う中、その男の声だけはやけに耳に飛び込んでくる。
「種明かしをするとね、あんた方の援軍として馳せ参じたのは、俺の軍略なんかじゃあない。全ては殿…石田三成の最後の軍略ですよ」
「なに?」
「あの方は、こうなる事を見越していた。理想家と鼻で笑われようが、あんたがどれだけ尽力を尽くそうと、徳川が豊臣との共存なんぞするわけがないと確信していた。
だから関ヶ原で負けることが判っていても、兵を挙げずにはいられなかった」
「……」
「でもその後が随分酷い話で。自分があんな事になろうと、俺が後を追うことを許しちゃくれなかったんです。
俺の知略と軍略と武が、秀頼殿と大阪城、そして何より豊臣の世が続くためには欠かせないと、何があろうと死ぬなと関ヶ原の前に俺に厳命された。
主従の契りを結んでおきながらこの仕打ちです、こっちはたまったもんじゃない」
「……それは」
「けれど殿のわがままは大抵聞いてきた俺が、今更殿の命を蔑ろに出来るわけがない。何より殿があれだけ渇望していた天下泰平の世、俺が叶えたくないわけがない。
だから。…存分に使ってください、清正さん。あんたがどの道を行こうと、それが結果的に殿と同じものを見ているなら、この島左近清興、全力であんたの力になりましょう」
「やめろ!」
突如片膝をつき、配下の礼をとるべく頭を垂れる男…島左近に、清正は力任せに肩を掴み顔を上げさせて視線を絡ませた。
「お前は、俺の家臣なんかじゃない。お前だってれっきとした俺の家族だ。俺が守ろうとしている豊臣の家族だ!」
「……」
豊臣の世は失われても、豊臣の家が残ればいいと願い徳川に付くことを選んだのは、自分自身。
そのことについてどう思われようが、どう見られようが、絶対唯一守るべきものがあるからこそ自分が選んだ道を後悔はしない。
それでも、ただ、一つだけ。
後悔ではなく、未練でもない想いがあるとすれば、今自分の前で片膝をつく、この男に会いたかった。
伝えたい言葉も、知って欲しい想いもないとは言わない。
でも、それ以上にこの島左近という男に会いたかった。
「……やる」
「え?」
「あの馬鹿の望んだ通り、俺が守ってやる。豊臣の世、豊臣の家、そして…あの馬鹿の想いを抱えたお前も、俺が守ってやる」
「…随分と大きくでましたな」
「あの馬鹿と違って、俺は理想で物事を語ったりしない」
「ええ、わかってます。あんたは理想でなく現実を見ている。そのあんたが言うんだ、信じましょう」
配下として膝をつき、頭を垂れる姿を見たかったわけではない。
傍らでなくとも、隣でなくとも構わないから、自分の力で守りたかった。
ならば。
想いが天に届いた以上、清正がとるべく道は一つ。
「豊臣の世、天下泰平のため、今こそ徳川を討つ!皆、出るぞ!!」
『応!!』
守るべき全てのために、己の願いのために、まずはこの戦を終わらせる。
…それが叶ったあとのことは、今考えることじゃない。
【果てぬ夢・完】
なりっぱなしなのでせめてもの気持ちでお送りしたSS…が、
初のムソ3でしかも清→左って、いくらなんでもお前それは
ないだろう!?といったイタタな出来になった代物でした。
世間とは相当ずれている自覚があっても、当のひよさんが
これでも十分喜んで頂けたようなので本当に良かったです。
ひよさんは貴重な清→左同士で喜ばしい限り(照)
戦ムソ3、ひよさんのプレイをお待ちしておりますー♪