願い続けて、限りなく














 それはきっと、本当に何気なく紡がれた言葉。
『なあ左近、今度生まれ変わるなら、俺はお前より年上か同年になりたい。』
『はあ?なんです、いきなり。』
呆れたように聞き返すその声はひどく懐かしい。
『そうすれば同じ目線で歩いていけるではないか。』
『あはは、まあ確かに今よりは世話がかからなくなって良いかもしれませんね。』
『・・・何か言ったか?』
『いえ何も。』
『だが生まれ変わった時は、お互いのことはわかるものなのだろうか?』
ふとそんな考えが脳裏をよぎった。
『さあ、前世の記憶なんてないんじゃないですかい?けどまあ、再び出会えるような気はしますよ。』
その時はどうぞよろしくと笑う相手。
その言葉に小さく笑みをこぼし、その時はそこで会話は終わった。

 平穏などとはあまりにかけ離れた時代。
それでも、いつかは手に入れることができればと願ってやまなかったそれ。



 徳川との戦に破れ、自分は散った。
自分より先に散ったと聞いていた左近が存命だとこの目で確認できた時、心の底から安堵のため息を漏らした。
手を伸ばしても決して届くことのないそれ。
彼が自分と共に散ることを自分が許さないのを彼は知っていたのだろう。
最後に自分が目にした彼は、ひどく寂しげで今にも泣き出しそうな顔だった。
たくさんの群集に紛れ、それでも確かに自分だけを彼は見ていた。
視線がぶつかった時、彼の瞳が確かに自分にこう言っていた。

 『何故、貴方が俺より先に散り行くのですか?』と。
その問いかけに答えてやることもできず、この身は散ったけれど。



 今度再び出会うことができたその時は、その時こそは。
今よりは平穏で、そして穏やかな時間を共にすごせたら。
そんな思いが心をよぎる。
今度再び生まれ、出会えた時にお前のことがわかるように、今の記憶をすべてもって生まれたい。
そうすれば、たとえお前がわからなくても、自分が必ず見つけることができるから。








 

 少なくともあの頃は手を伸ばせばあの存在へと確かにこの手は届いたのに。
すっと空へと手を伸ばし、ぽつりと呟く。
 「いつになったら再び出会えるのだ。」
なんどこの言葉を口にしただろうか。
いや、何度口にすればいいのだろうか。
時は容赦なく流れ続ける。
もしかしたら再び出会うことができるのは来世なのだろうか。
そんな考えが脳裏をよぎり、益々気分が沈んだその時。

 「三成〜、ちゃんと朝ご飯は食べたのかい!?」
周囲に響き渡る聞きなれたかわいらしい声。
ちなみにここは公園の中のベンチで、朝もまだ早いのでそこまで人が多くないのが唯一の救いだ。
「・・・・・・・・・・またきた。」
はあっと大きなため息をつき、頭を抱える三成。
まさか転生してまで彼女と深く関わることになるとは思いもしなかった。
「またきたとはなんだい!?年下の従兄弟を心配する優しいお姉さんに向かって!」
「俺をいくつだと思ってるんですか。」
三十路を越えた大人に言う台詞かと心の中で毒づく。
何故かこの世界ではねねとは従兄弟と言う関係になっている。
ちなみにねねは秀吉とはこちらでも夫婦だ。
秀吉は今急成長中の会社の社長で日々多忙だ。
そのせいなのか、そこまで近所に住んでいるわけではないが、ねねは三成のことを心配して数週間に1度くらい世話を焼きに来るのだ。
三成は画家なのだが、あまり社交的とは言えない性格で、人とあまり関わりをもとうとしない。
かといって家事が得意なわけでもなく、ねねはいつまでたっても三成が心配で仕方がないらしい。
個展を開く時や、なにか大きな仕事が入った時などは、ほとんどねねが表に立ってサポートして来たのだ。



 「ねねさん、俺のことは放っておいてくれて構わないのですが。」
「何を言っているの!放っておくときちんと食事もしないんだから。早く良い人を見つけなさいっていつも言ってるだろう?
もしくは三成をサポートしてくれる人を探しなさいってば。」
「また同じことを言い出す・・・。」
げんなりした顔でそう言えば、またもや誰かの声がして。
「あははは!三成さんまたねねさんに叱られてるぜ、清正!」
「ち、なんて羨ましい・・じゃなかった、ああいう大人にはなりたくないものだな。」
ひどく聞きなれた2人の声。
「・・・・また煩いのがきた。今日は休日だからねねさんについてきたのか。」
益々深くなる眉間の皺。
どうしてこうなったのかはわからないが、正則と清正まで三成の従兄弟という関係だ。
しかも彼らの方が10歳以上若い。

 かつて縁のあった人々と、以前とは違う形でも再び結ばれている縁。
ねね達以外にも自分の見知った人々と幾度も出会った。
だが共通して言えることは、そのほとんどの人々には前世の記憶はない。
だから彼らにとって、自分との出会いは再会ではないのだ。
彼らは自分を知らないのに、自分は彼らを知っている。
それは何とも言えない違和感。
けれど、きっとそれは前世の自分が強く望んだことなのだ。

 「相変わらずダメダメだな、三成さんは。」
げらげらと楽しげに笑う正則に、三成はボソッと一言。
「この前、大学の英語の宿題をほとんどやってやったのは誰だったか。」
「わー!!それは言うなって!!」
「こら正則!自分で宿題をやらなくちゃ駄目じゃないか!!」
早速ねねの説教対象が正則になる。
「わー、すんません!」
その様子を若干羨ましげに眺めている清正をよそに、三成はそっとその場をあとにしようとしたのだが。
そんな三成の腕をねねががしっと掴む。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「三成〜、あんた確か今はこれと言った作品作りはしていなかったよね?」
「・・・・だったらなんです?」
ねねのひどく可愛らしい声に、嫌な予感を覚える。
案の定、彼女が次に口にした言葉に自分の口元が引きつるのを感じたのだった。



 「なんで俺が・・・。」
普段は家の近所の公園か、スーパーくらいにしかいかない自分が通勤に片道1時間はかかる高校にいる。
ねねが持ってきた話は、ねねの友人が勤める高校の美術の臨時の教師の話だった。
確かに教師の資格はもっているが、実際に使うことになるとは夢にも思わなかった。
なんでもここの美術教師が足を骨折してしまい、半月ほど臨時の教師を欲しいとのことらしい。
苦虫をつぶした顔ですたすたと学校の廊下を歩けば、女生徒達の黄色い悲鳴が聞こえる。
はっきりいって三成はめったにお目にかかれないほどの美形だ。
「・・・・?なんだ?」
だがその対象が自分だとは露ほども気がつかない三成。

 小首を傾げていると、どこからともなく三味線の音色が聞こえてきた。
「上等!臨時の美術教師と言うのは貴様か!俺はねねの友人兼、音楽教師の長曾我部だ。」
ばっと音楽室から飛び出してきたその人物の姿を見て、思わず三成は固まった。
「・・・長曾我部元親。」
その人物はかつて何度も目にしたことのある人物だった。
まあ相手にとってははじめての出会いなのだろうがと心の中で呟いたその時。
「ほう、まさか俺以外に前世の記憶を持った奴がいるとはな。上等!久しぶりだな石田三成。」 
小さく笑い、そう言葉を紡ぐ相手に、いつもは滅多に驚かない三成もさすがに驚きの表情を隠すことができなかった。



 「俺の場合は、光秀に出会いたいわけだが、いまだに出会えていない。」
音楽室の椅子に腰掛け、三味線の弦ををつま弾きながら元親が呟く。
「明智・・光秀か?」
「ああ。結局最後まで共にいてやることは叶わなかったが・・・あの時の状況から言って光秀も・・・。」
瞼を閉じれば、その時の光景が昨日のことの様に思い浮かぶ。
織田に反旗を翻し、天下を掴んだが、それも一瞬のことだった。
願わくば、最後の最後まで共にいてやりたかったけれど。

 「・・・・・・それであんたも願ったのか。再び生まれ変わったその時は・・。」
「ああ。だが確実に見つけるには記憶があった方が良い。だから記憶を忘れることなく転生することを願った。」
「そうか。」
かつてなら自分達は敵同士だ。
だが今はそれはまったく関係がない。
こんな風に向かいあって話す日が来るとは思いもしなかった。

 「・・で、貴様が会いたいのは誰だ?俺が知っている人物か?名前を言ってみろ。」
元親の言葉に、三成は一瞬迷う。
その三成の様子に気がついたのか、元親は三味線を引きながら早く言えと目で催促をする。
「会ったことはないかも知れないが・・島左近だ。」
「島左近?・・ああ、それなら前世で何度か見かけたことがある。頬に傷のある、武田信玄に師事していた男だろう?」
「ああ。」
たとえ見つけることはできなくても、こうして過去の話をすることができるだけでも少しは気が楽になるような気がすると思ったその時。

 「それならおそらく俺の教え子にその男がいる。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・あ?」
一瞬元親の言葉の意味が理解できず、聞きかえすのに時間を要する。
「だから、俺の教え子にその男がいる。だが面白いものだな、前世では確か貴様より随分年長だったではないか。」
今の元親はねねの同級生で、三成より5つくらい上だ。
「・・・ということは、まさか左近は俺より年下なのか?」
「ああ、おそらく2つ3つ下だろうな。」
「左近が年下・・?」
信じられんと言う顔で呟く三成をよそに、元親は携帯を取り出して誰かに電話をしている。
「・・・ああ、今高校の音楽室だ。実はだな・・ああ、そうだ。・・ほう、15分でこられる?上等!」
ぴっと携帯を切り、いまだに呆然としている三成をよそに再び三味線を弾きはじめるのだった。


 「・・・・は!俺としたことが少し意識が飛んでいたようだな。」
数分後に我に戻った三成。
「少しどころか、かなりおかしかったが?」
からかうように笑う元親に、三成が何かを言おうとしたその時。

 「長曾我部先生!!本当に画家の石田三成さんがここにいるんですかい!?」
がらっと豪快に開く教室の扉。
その姿を見た瞬間、三成は完全に固まった。
「な、ななななな・・・・。」
言葉が出ない三成の横では、元親が平然と三味線を弾いている。
「ちなみに島は俺が顧問をつとめる三味線部に3年間入っていたのだ。」
だからいまだに連絡を取り合っていると言う元親の言葉も、今の三成にはほとんど聞こえておらず。
驚いたまま目をかっぴらいている三成の元にすたすたと左近はやってくる。
「はじめまして、島左近と言います。以前からあなたの絵のファンだったんですよ。」
にこっと笑うその姿は紛れもなく昔と同じものだったけれど。
「・・・あ・・ああ。はじめ・・まして。」


 差し出された手を握れば、ひどく懐かしい感覚。

 こうして再び出会うことを限りなく願い続けた。

 願っても願っても、果たしてそれが叶う日が来るのか想像も出来なかった。

 
 「石田さん?」
無言のまま俯く三成を不審に思ったのか、左近が三成の顔を覗きこむ。
「・・・・・・(本当に・・・再び出会えたのだ。)」
左近の顔を見つめたまま心の中で呟く。
そんな2人をじっと見ていた元親だったが。
「おい島。今は確か職探し中だったな?」
「・・・・・でなけりゃこんな時間にここにこれないでしょ。」
「なんでも仕事をやめた理由が、傍若無人な上司に真っ向からつっかかって見事にくびにされたと言う凄絶な理由だからならしいな。」
「ちょ、いちいちそんなこと言わないで良いですってば!」
こんな所で言うのはやめてくださいよと呟く左近に、元親は三成の肩をぽんとたたく。
「という訳だ、こいつを貴様の助手権世話係で雇ってやってくれ。」
「・・・・・・・・・・・・・あ?」
あまりに突然のことに、三成はおろか、傍にいた左近まで固まる。

 「ねねの情報によれば、貴様は放っておくと飯はろくに食さず、部屋も散らかったままらしいではないか。」
「・・・・・・・・・(ねねさんめ)。」
図星なので言いかえすこともできない。
「その点、島は家事もできるし、面倒見も良いからダメダメな貴様にはぴったりだぞ。」
「いや、しかしだな・・。って誰がダメダメだ?!」
「よし、では決まりだ。」
「「ええ?!」」
勝手に話をまとめる元親に、2人が同時に声を出す。
「なんだ、いやなのか?」
「あ、いや・・俺は助かりますけど・・いきなりそんなこと言われても石田さんが困ると思うんですけどね。」
ちらっと三成を見ながら左近がそう言えば。
「ちなみにねねから届いた三成の部屋の様子だ。」
かちゃっと携帯を開き、写真を見せる元親。
「・・・・・・・・・・・石田さん、とりあえず掃除させてもらって良いですかね?」
眉間に皺をよせてそう言葉を紡ぐ左近に、三成は半笑いで頷くことしかできなかった。

 それから半月ほどかけて徹底的に掃除をしてもらった三成の家は、見違えるほど綺麗になった。
「・・・これが俺の家か?」
床までぴかぴかに磨かれ、自分の家ではない気がする。
「どうですか、これでいいですかね?あ、石田さんの作業場だけは触ってませんよ。勝手に入ったら悪いですから。」
頭にまいた手ぬぐいをとり、左近が問いかける。
「ああ、すまなかったな。給料は近い内に振り込む。」
「それは助かります。それでですね、ひとつお願いがあるんですが。」
「ん?」
なんだと顔をあげれば、左近は言いにくそうに、けれど意を決したように言葉を紡いだ。

 「今までの石田さんの描いた絵を見せてもらうことってできませんか・・ね?」
「俺の?」
「ええ。特に俺が見たいのは、以前に雑誌に1度だけ載っていた絵なんですが。野原の中に1人の武士の後ろ姿が描かれてる・・。」
「・・・ああ、あれか。」
「1度で良いから本物を見て見たいと思ってたんですが、個展は何度か開かれてますけどあの絵は1度も展示されてなかったですし。」
「ああ、あれは俺の特別な絵だからな。」
というか、今の話では左近は自分の個展に何度もきていたらしい。
(もっと積極的に個展に顔を出すんだった。)
そんなことを心の中で思いながら、三成は無言で立ち上がる。
そしてちょいちょいと左近に手招きをし、1つの部屋に入っていく。
左近がそれについて行けば。
「これだろう?」
ばさっと絵にかけてある布を外せば、三成自身も久しぶりに見た絵が姿を現す。
「そう、これです!うわー、本物だ!」
ひどく感動したように絵に魅入る左近に、三成は不思議そうに尋ねる。
「そんなにその絵が好きなのか?」
「ええ、1度見た瞬間に、ものすごくこう・・見覚えがあると言うか・・懐かしいと言うか・・変ですね、懐かしいなんて。」
照れたように笑う相手に、三成も静かに笑い返す。

 (まあ見覚えがあって当然だ、その後ろ姿の武士は左近だからな。)
あれはいつのことだったか、2人で遠乗りに行ったことがあった。
これはその時に三成が見た光景だ。

 「まさかこうして再びお前の後ろ姿を眺めることができるとはな。」
小さな小さなその呟きが左近の耳に届くことはなく。
暫く絵を眺めていた左近だったが、ふとあることに気がついて三成の方に振り返った。
「そう言えば石田さんは最近個展とか開かないんですかい?」
自分が最後に行った個展は大分昔だ。
「ん?ああ色々手配したり準備するのが億劫でな。以前は従兄弟のねねさんがやってくれたんだが、さすがに結婚されたのに面倒なことを任せるのもなんだし。」
人と接するのが得意じゃないと呟く三成に、一瞬きょとんとする左近。
「そうなんですか?でも俺とはこんなに普通に接してくれてるのに。」
(それは相手がお前だからだ。)
心の中で呟くも、実際に言葉にできるはずもなく。

 「まあ・・実は今日1つ大きな仕事が来たんだが、それを引き受けようかも迷っている。ちょうど臨時の教師も今日で終わったしな。」
だがまあ、引き受ければ、また確実にねねに面倒をかけそうだと呟けば。
「でも迷っているってことは、面倒なことさえなければ引き受けても良いってことですよね?」
左近の言葉に、三成はまあそうだなと頷けば。
「じゃあ俺が食事と健康管理と、その他雑用をしますから引き受けませんか?最近貴方の新しい作品見れてないので是非見たいんですよ!」
それはキラキラとした瞳で見つめてくる相手。

 普段の自分なら、迷うことなく答えを導き出している。
いや、むしろこのような会話を交わすまでに至ることはまずないだろう。

 「・・・・・・・・・本当にその他雑用なんでもしてくれるのか?」
日頃の自分では考えられないくらい滑らかに言葉が紡がれていく。
「はい、やります!ってことは・・・・。」
もしかしてと言う顔の左近に、三成は背を向けたまま言葉を紡いだ。
「これから早速仕事をする。仕事が終わるまでここに泊まり込んでもらうぞ。」
「はいわかりました。」
「では頼むぞ、左近。」
ごく自然にそう言えば、ひどく不思議そうな顔で見返してくる相手。

 「・・・・なんだ?なんか変なことを言ったか?
「え?いや・・その・・・いきなり名前で呼ばれたんで驚きまして。」
「ああ、その呼ばれ方が嫌なら別の呼びかたにするか?」
「いや、そうじゃなくて・・はじめて名前で呼ばれたはずなのに、妙に懐かしい気がしまして。変ですね。」
あははと照れ笑いをする相手。

 何度も何度も口にしたその名。
こうして再び言の葉にして相手に紡ぐことができるなんて思いもしなかったけれど。
「ではこれからも左近で良いのだな?」
確かめるように尋ねれば、左近は小さく笑う。
「ええ、それで結構ですよ、石田さん。」
「・・・・・・・・・・・でいい。」
「はい?」
小さな声で何かを言う三成に、左近が聞き返す。
「俺のことは三成で良い。」
「・・・はい?いや、それは・・。」
雇い主相手に、しかも年上の相手をそんな風に呼ぶのはと躊躇う相手に、三成はむっとした顔をする。
「なら仕事はやらん。」
ぷいっと拗ねたように左近に背中を向ける三成に、左近は慌てたようにその傍による。
「あー、わかりました!!俺も名前でお呼びしますよ!三成さんでいいですか?」
さすがに呼び捨ては勘弁してくれと頼む相手に、ひどく柔らかな笑みをもらす三成。

 その微笑みを、遠いどこかで見た気がする。
ひどく近いようで、遠い記憶。
そんなことを左近が頭の片隅で考えたその時。
「・・・・・左近。」
「はい?」
はっと我にかえり、慌てて返事をすれば。
「仕事をはじめる前に、腹が減っていることにいま気がついた。」
ぐぅ〜〜っと鳴っているお腹を押さえて呟く三成に、左近は思わず目を見開き・・そして次の瞬間腹を抱えて笑い出した。
「あ、あはは、そんな真面目な顔で言わないでくださいよ〜。じゃあ今すぐ何か作ってきますから。」



 それはひどく優しく、あたたかな追憶の夢。

 幾度手を伸ばし、それを求めたか。

 どんなにそれを求めても、決して届くことはないと思っていたそれ。

 なのに、心は求めることを諦めてはくれなかった。

 願い、願い、幾度も願い、そしてようやく叶った。

 あとはただ、再び同じ道の上を歩きはじめた相手と共に、ゆっくりとその道を進んで行くだけだ。






 おまけ

「いやあ、あたしは嬉しいよ!!三成がこんなに頼りになる子と出会えて!!不束な子だけどこれからもよろしくね、左近!」
酒が入っているせいか、やや頬を赤らめながら左近の頭をなで続けているのはねねだ。
今までだったら三成が仕事を終えた直後は、家の中は凄まじいほどの状況になっていたのに、今は床もぴかぴかで、文句の良いようもないくらいに整頓されている。
その上、いつもならろくに食事もしないで青白い顔でフラフラしている三成が、血色もよく、しっかりと健康管理がされているのだ。
はじめてこの状況を目にした時、思わずねねは感激で泣きそうになった
「はい、俺でお役に立てれば嬉しいですよ。」
柔らかな物腰でねねに応対する左近の横では・・・・。

「・・・くっ・・・!俺は悔しくない、悔しくないし羨ましくもない。そうだ、羨ましくなんか・・・。」
「うわー、隣で清正がぶつぶつ言ってて超きもいんですけどぉ。」
ぶつぶつと呟く清正の横で、正則がげっそりとした顔で清正から距離をとっている。
「・・・・元親、ここに呼んだのは貴様だけだったはずだが?」
眉間に深い皺を刻んだ三成が、三味線の弦ををつまはじく元親にそう言えば。
「俺もそのつもりだったのだが、そう言う時に限ってねねから連絡があってな。話しているうちに・・こう・・・凄絶に・・。」
「口がすべったと。」
「・・・・・・・・・。」
大きな仕事を終え、三成は元親に用があるからと家に呼んだ。
そう、呼んだのは元親だけだったはずなのに、何故か今家の中はこう言う状況だ。

「あー、良い子!!料理の腕も申し分ないし、あたしも安心だよ〜!」
よしよしとまだ左近の頭をなでているねねと、今にも机を真っ二つにしそうな形相でそれを見ている清正。
それに気がついた左近が三成に助けてくれと目で合図を送れば・・・。
「ねねさん!左近が困っているではないですか!良い加減離れてください。」
そう三成が言えば、きょとんとした顔で三成を見つめ、そして・・・。
「あ、あの人のことにはほぼ無関心だった三成が・・・わざわざ左近を助けに来るなんて・・!!あたしは嬉しいよう〜〜!!」
今度は三成に抱きつき、頭をなではじめるねねに、清正がリビングのテーブルを真っ二つに割ってしまい、あとで三成に弁償させられたのはそれからすぐのことだった。

「ある意味1番かしこいのは正則だな。」
そんな大騒ぎをよそに、あらかじめ非難させた夕食を部屋の隅でもぐもぐと食べている正則。
ぼそっと元親が呟いていると、玄関のチャイムが鳴る。
「今こっちは手が離せん。おそらく今来たのは俺の大学の時の先輩だ、元親、出てくれ。」
そう三成が元親に声をかければ、やれやれと立ち上がる元親。
すたすたと玄関へと出て行く元親の姿を見送る三成が、一瞬だけにやっと笑ったのを左近は確かに見た。
「え、どうかしたんですか?」
「まあ、見てろ。かつてない面白い光景を見ることができるぞ。」
「はい?」
それはどういうと言う顔で左近が聞きかえす前に、部屋に誰かが入ってきた。

「あ、あの〜・・・。玄関を開けてくださった方が、私の顔を見て固まったまま動かなくなってしまったんですが、どうしたんでしょうか?」
さらりと漆黒の長い髪を背中まで伸ばした美青年が困ったように声を出す。
「ああ、その内現実に戻るので放っておいて構いません、先輩。」
「そ、そうなのですか?」
「三成さん、この方は?」
「俺の大学の時の先輩で、明智光秀先輩だ。今までは海外勤務をされていたんだが、つい先日帰国されたんでお呼びしたんだ。
元親を驚かしてやろうと思ってな。」
予想通りだったと小さく笑う三成。
「え?最後なんて言ったんですか?」
「いや、気にするな。大したことじゃない。」
左近の手を引き、元いたほうへと戻って行く三成と、ねねと楽しげに会話をする光秀。
リビングのテーブルを壊して反省中(廊下で正座)の清正と、お腹一杯ご飯を食べて現在はテレビを見ている正則。
ようやく我にかえった元親が、再びリビングに戻ってくるまであと10分。


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こちらはサイト7周年企画リクエストで「三左で現世転生でもし左近だけ前世の記憶がなかったらというお話」ご希望で書かせていただきました。
現代転生ネタで書きたいと思ったのは、年齢の逆転でした(笑)。
でも三成が年上になっても左近の方がしっかりしているのが好きです。←え
三成以外の人々は前世の記憶あありませんが、もう1人記憶がある人がいたほうが話がまとまる気がしてこうなりました。
かなり話が長くなってしまいましたが、少しでも楽しんでいただけますように!
素敵なリクエストを本当ににありがとうございました!!

夕月夜 夕月拝


いつもお世話になっております、夕月夜の夕月さまよりリクエスト作品を頂きました!
なんと左近が殿より年下ですよ、リクエスト受理もさることながら大変美味しい
オプションが付いて来て管理人的にそりゃあもうたまらん!を連発です(悦)
そして子飼いが仲良しで、実は一番まともな正則にも意識向いちゃってどうしたら。
頂いてからUPするまで遅くなってしまって本当に申し訳ございません。
素敵過ぎる作品どうもありがとうございました、大事にします〜!
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