夜中に突然目が覚めた。
夢も見ないほどに深い眠りについていたはずなのに、突然、ぱっと目が覚めた。
目を見開いて、そして暗闇に息を飲み。
自分がどうして目が覚めたのか判らずに、不安ばかりが押し寄せる。
ここは山野ではなく、荒地でもなく。
上質の褥に、間違いなく自分は横になっていたのに。
《…雲長…、翼徳…》
…息が、詰まる。
自分だけの呼吸しか聞こえない、この暗闇に。
義弟達の姿が見えない、その現実の闇に。
……自分だけをおいて、二人がこの世にいないかも知れないその恐怖に。
置いていくな。
私を置いていくな。
私を残して、先にいくな。
暗闇に向かってそう叫びたいのに、私の喉は息を漏らすだけで。
大切な義弟達の名を叫ぶ事を、私自身が躊躇わせて。
………叫ぶ換わりに、私の瞳は涙を零す。
「如何なされた、兄者!」
突然身体を引き起こされて、驚きに目を見開けば。
「う……ちょ……?」
雲長が酷く心配そうに私を覗き込んでいた。
「何やら酷く魘されておりましたぞ」
「魘されて…?」
「はい。魘されていたと思ったら、すぐ我々の名を叫ばれたのです」
「一体どうしたんだよぅ、長兄ぃ…」
雲長の腕の中でしばし呆けていたが、翼徳がらしくない神妙さで私の額に浮かぶ冷や汗を拭ってくれる。
「なんか怖ぇ夢でも見たんか?」
「ゆめ…」
…今までのは、夢?
今、義弟達が私のもとに居る、これが現実…?
「お前たちが…」
「拙者たちが?」
「お前たちが居ないのだ。私のもとに、雲長も、翼徳も、居なくて。
置いていってしまったのかと………置いていくなと……叫びたくて……」
それなのに声が出なくて。
お前たちを呼ぶ為に叫ぼうとしても、私の喉から零れるのは呼吸だけで。
「私を置いていくな…」
「置いてなんかいかねえよ、俺も羽兄者も。
大事な長兄残して、一体何処にいくってんだよぅ…」
「翼徳の言うとおりですぞ、兄者。
我らはあの桃の木の下で誓った仲ではありませぬか」
そうだ。
あの日、満開の桃の園で、私たちは誓った。
「雲長…翼徳…」
確かめるように呟く声に、私を抱く雲長が、そして私の額を拭う翼徳が、
そっと柔らかい淡い光に包まれる。
「さあ兄者。我々と共に参ろうではありませぬか」
「ずっと一緒だぜ、長兄。ずーっとな」
そして私が頷けば、今度は私自身が同じ柔らかい淡い光に包まれて。
「兄者」
「長兄」
義弟達に守られて、そして私は眠りにつく。
(これで私も…お前たちのもとに……)
『殿!!』
それは、私が《逝く》ための眠り。
【誓い・完】
えー、初の無双SSが思いきり死にネタですみません。
でも管理人兄者は護られてナンボかと思うわけで。
蜀好きなんですよねー。そして関羽には物心ついた
時から愛を注いでおります。(←でも別にマニアではない)。
関羽すきーさんお友達になって下さい(笑)。