道連れの始まり



常に気を張って生きてきた。



何が起ころうとも逡巡もせずに覇道を進む男を父を持ち、いずれも甲乙点け難い優れた武将文官に囲まれて、ありとあらゆる期待を持たれ全てにおいて非の打ち所がないように応えるために。
己を殺し、周囲を欺き、甘えを許さず、全てにおいて完璧に応えてきた。
だから、世界が融合しようが敵味方入り乱れようが自分が侵略者の配下と置かれようが、今更どうということはない。



自分が曹子桓である限り、どうということは、ない。


「何故お前が此処に?」

共も付けずに一人城の中庭に佇んでいた曹丕は、ふと背後に人の気配を感じ、振り返らず、ましてや誰だか確かめずに抑揚のない声音で問う。

「何故とはまた愚問だな。俺は妲己からお前の目付けを申し付かっている。ある一定の条件以外で、お前を視界から外すわけにはいかんのだ」
「……………」

曹丕の傍にやってきたのは石田三成。天水の戦いから妲己に命ぜられて、協力という名の下に曹丕を見張ることになった日の本の国の人間。

「勝手にするがいい」
「ああ、勝手にする」

本来ならば、この一人の時間に誰かに側に居られると、それが魏の武将達ですら煩わしくなる時がある。



迷いがあるまま付き従うなと。
不満があるなら義で隠すなと。



曹丕の示す道を計りかねているのならば無理に計る必要はないと、自分を見る視線が全て煩わしく思えてしまう筈なのに。

「受け取れ」
「葡萄…?これをどうした」
「お前への機嫌伺いだと、やたらと人相と顔色の悪い、紫蘇色の服を着た男から渡された」
「………仲達か」

それが、この三成だけは別で。
曹丕は三成が何を以って妲己の命に従っているのか。
そして三成もまた、曹丕が何を以って遠呂智配下に甘んじているのか。
天水、南中、夏口と共に戦いを進めるにあたり、それぞれの意図を掴んだが故に、互いに何も言わず並び立つようになっていた。

「一つ、お前に聞いておく。お前は未だ俺に見張られるだけの器か?」
「言っている意味が判らん」
「妲己が言っていた。お前と俺は似すぎているが故に、到底馬が合いそうにないとな。だからこそ、信を置ききれぬお前を見張らせるため、俺を据えたとも。
…ならば俺は問う。お前は本当に俺に見張られるだけの器なのか」
「俺は俺だ。お前に見張られるに値するかどうか、そのような事で器を測られても甚だ迷惑な話だ」
「そうか」

葡萄を受け取りながらも表情を崩さず、前を見据えたままそう答える曹丕に、三成もまた無表情で気にした素振りもなく頷くけれど。

「ならばお前がお前である限り、お前なりの覇道を進む限り、あの混沌と女狐を謀るは、この日の本の狐が担ってやるとしよう」

やけに通る声で、他愛もない事を思いついたと言わんばかりの言い草で、三成は曹丕が一人何も言わず指し示していた道を後押しして。

父の姿を重ねず、曹丕の立場を気にした素振りもなく、ただ、曹子桓という男の進もうとしている先を、確固たるものとして捉え手を差し伸べてくる姿に、初めて曹丕の視線が三成に向けられた。

「…面白い、出来るものならやってみせろ」
「ふ、俺は出来もしないことを口にするほど愚かではないのだよ」

三成の視線も同じように曹丕に向けば、自然と絡むそれに対し、互いに浮かぶは今の状況に似付かわしくない程のふてぶてしい笑み。


「…あの女狐も、読めぬことはあるのだな」
「違いない」


馬が合いそうにない程似ている者同士だからこそ、余計な気を回す必要がないからこそ。
互いに背中を預けることに躊躇する必要がないのだと、妲己が気付くのはそう猶予があるわけではなくとも。
自分だけの力で道を進む事に、不安を覚えていたわけではなくとも。
差し出された手を取れば、曹丕はそこで初めて安堵を覚えた自分がいることに気が付いた。




「精々役立ってみせろ」
「お前こそ不様な采配だけはするなよ」




曹丕が曹丕である限り。
歩むべき先を見失う事がない限り。
曹丕が己の道を突き進む限り、傍らに並び立つ事を認めた三成もまた、その道を進む事に躊躇することがない、その事実があればいい。


【道連れの始まり・完】



いつもいつもお世話になりまくりのひよさんへ進呈物です。
曹丕は勿論三成の口調に難儀して、書きたいことが微塵も
伝わらないんじゃと悶絶した経緯があります。捧げモノなのに!
しかし無双OROCHI、腱鞘炎もあって敬遠してたのに、
いざPSPを購入した時やってみたら面白くてどうしよう…。
戻る?