背後から聞こえてくる三成と慶次と伏犠のやたら嬉しげな声。
王元姫と共に逃げながらも、左近は既に諦めの境地になっていた。
「あ・・あはは。誰に捕まっても俺は・・・。」
「まだ諦めては駄目!誰か頼りになりそうな人にあえるかもしれない。」
そう励ます王元姫に、左近が小さく頷いたその時。
「あ?お前ら何してるんだ?」
左近と王元姫の前に現れた人物、それは福島正則だった。
「・・・助けてくださぁああーーーい!!!」
日頃の冷静さはどこにもなく、そう叫びながら正則にしがみつく左近。
「え?敵に追われてるのかよ?」
「ある意味敵以上に厄介な相手に追われているの。」
とても的確な答えを返す王元姫。
なんのことだと正則が前を見れば。
「・・・あー・・・。確かに厄介なのが3人もいるな。」
遠めながらも、それが誰なのか即座に理解したのか、乾いた笑いをもらす正則。
「1人だけでも良いですから何とかしてくださいよ!!」
左近の形相があまりに必死で、正則は可哀想になった。
「まあ左近には日頃から色々助けてもらっているしな(特に清正関連で)。」
俺にまかせろと一歩前に出る正則。
その雄姿に、左近は感動の涙を流す。
「ですが、1人であの厄介3人衆の相手をされるんで?」
「いや。さすがに俺1人じゃあ無理だ。ここは奥の手を使う。」
そう言ったが早いか、正則は大きな声で叫んだ。
「清正ーー!!頼れるのはお前だけだー!!」
「今の台詞をもう1回言ってくれぇええーーー!!」
正則の台詞とかぶるように言葉を放ちながら走ってきたのは清正で。
一体どこで聞いていたのだろうと不思議に思う王元姫だったが、それはきっと永遠の謎だ。
「正則、今の台詞は本当だな!?」
鼻息荒く正則に尋ねる清正に、正則は視線を合わせずに頷く。
「おう!だから向こうから走ってくるあいつらを足止めするのを手伝ってくれ。」
「あいつら?・・・って・・・また厄介なやつらだな。しかも心なし興奮してないか?」
「ああ、口に出したくない理由で興奮してるぜ。」
ちらっと左近に視線をやれば、清正はすべてを理解したようだ。
「しかし、なにも俺達がやらなくても・・。」
明らかに面倒な展開だと呟く清正だったが、正則は最強の言葉を口にした。
「俺の清正なら不可能はないよな?」
「・・・・・・・・・・・。」
俺の清正?正則の俺?俺は正則のもの?
「・・・う・・・うぉおおーーーーー!!!!ここは俺が守ってみせるぅうーーー!!!」
その時の清正の顔は、今まで見たどれよりも輝いていた・・と後に左近は語る。
「よし、ここは俺達にまかせて左近は早く行け!もう少し行けば、おねね様がいる陣につくから、あることないこと言いつければ助かるぜ?」
「正則さん・・この恩は必ず数倍にして返しますから。」
正則に手を合わせながら左近は走りだす。
背後では早くも激しい戦いが始まったようだ。
だが、正則の魔法の言葉でいつもの数倍の力を発揮する清正によって見事に時間稼ぎは成功した。
「おねね様ぁあーーーー!!!」
ねねの姿を見つけた瞬間、左近は自分の身が安全になったことを確信した。
思わずねねに抱きつき、ぶるぶる震える左近。
あまりの安堵感に、言葉が出ない左近の代わりに王元姫がことの詳細を説明する。
ちょうどその時一緒にいた秀吉だったが、理由が理由だけに、半笑いで眺めていることしかできなかった。
(三成のやつ・・・暴走しとるなあ。左近も気の毒になあ。)
「んもう!三成ったら左近をいじめるなってあれほど言ったのに!」
なんて悪い子なんだろうと早速現場へ向かおうとするねねの肩を誰かがたたく。
「ねねさん。うちの悪ガキを叱りに俺も行くわ。」
近くで聞いていたのだろう、額に青筋を立て、にっこりと笑いながら言葉を紡ぐ利家。
かくして、清正と正則の猛攻撃でかなりの体力を消耗していた三成達だったが、
それに追い討ちをかけるかのごとく最強の2人が姿を現すことになったのだった。
この後、利家とねねによって三成と慶次が猛烈にお説教をされたのは言うまでもない。
ちなみに劣勢を感じた伏犠は、早々に退散したものの、しばらく左近に口をきいてもらえず結構落ち込んだらしい。
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正則は清正の強さを数倍にできる魔法の言葉を知っています(笑)。
暴走する三成と慶次を止められるのは、おねね様と利家だけだと思っております・・。
正則の魔法の言葉はリスクが高いけど効果は覿面(笑)
三馬鹿の中で一番まともなのは正則だと思ってます。
そんな正則と左近は気が合えばいいとも思ってます。
素敵なお話ありがとうございました!!(笑顔)