三成編(夕月様)
言葉、戯れ













 そもそものこの騒ぎの原因は、普段よりも遥かに肌が露出した衣装を見につけたことに始まった。
何故か興奮し、追いかけてくる人達が3名。
その中に自分の主が混ざっていることに、呆れのため息が漏れる。
だが、ため息をついていたところで、この状況がよくなるわけでもなく。

 自分が逃げる限り、彼らは追ってくるだろう。
ならば自分がとる手だてはたったひとつだ。
「・・・言葉で言いくるめられるとすれば・・あの人しかいない!」
小さな声でそう呟き、一か八かの賭けに出ることにした。
「左近殿?」
共に走っていた王元姫が怪訝な顔で左近を見れば。
「大丈夫です。この窮地から必ず脱してみせますから。」
この状況でそんなことが可能なのだろうか。
そう考えながらも、左近の言葉を信じて王元姫は小さく頷くのだった。


 王元姫から離れ、左近は追いかけてくる人々の方にくるりと振り返った。
そして声を大にして叫んだ。
「今、元姫さんに頼んで、女禍さんを呼びに行ってもらいましたから!!」
その台詞に伏犠の顔が引きつる。
「・・・・く・・、無念じゃがここは去る!!」
自分の身の危険を察したのか、そう叫ぶと風の様に去っていくのだった。


 「は、これで邪魔者が一人減った!」
「おいおい、邪魔者はあんただろ?」
既に三成と慶次の戦いの火蓋が切って落とされると思われたその時。
左近は懐から一枚のお札を取り出し、叫んだ。

「慶次さんを遠くに飛ばしてくれ!!」
左近の言葉が終わるよりも早く、その場にいたはずの慶次の姿はどこにもない。

 「・・・左近、その札はなんだ?」
三成の問いに、左近は笑顔で答える。
「以前、兼続さんにいただいた『遠くに人を移動させる札』ですが?」
「・・・・・・兼続のやつ余計なものを・・・。」
貰ったは良いものの、まさか使う日がこようとはと笑う左近に、三成は自分も同じ目にあうと思ったのだが。
「さて・・・これでようやく殿と2人きりになれましたね?」
「・・・・・・・・・・・・・・え?」
あまりに予想外な言葉に、思わず目を見開いたまま固まる三成。
「俺には札を使わないのか?」
「札は一枚だけなんですよ。」
「そ、そうなのか!」
「ええ。」
「・・・左近?」

 先ほどまで半泣きで逃げ回っていたのが嘘の様に、余裕の笑みすら浮かべて三成に近づく左近。
「殿は先ほど何かおっしゃってましたよね?確か・・左近の胸元に手を差し込むとか・・。」
「い・・言ったが?」
威嚇しても無駄だぞと呟きながらも、やや後ずさる三成に、左近は更に近づく。
「あと・・いくら啼いてもやめないとか?」
顔と顔の距離がほぼないくらいまでに近づく左近に、三成はまけじとその目を見つめた。
「左近、そのように俺を威嚇しても無駄だぞ?」
やるといったらやるのだとそれは美しくも怖い微笑みを浮かべる三成。
普段の左近なら、ここで逃げ出してもおかしくないのだが、それで逃げ出すどころか、
左近は三成の頬を手で触りながら信じられない言葉を紡いだのだ。

 「どうぞ、ご自由に?」
「・・・なに?」
「ですからご自由にどうぞと言ったんですよ。啼かせられるものならどうぞ。ただしですね。」
「ただしなんだ?」
すすっと己の顔を三成の耳元に近づけ、左近はそれは爽やかに優しい声で言葉を紡いだ。

 「すべてが終了したら、もう二度と殿の前では笑いませんし、目線も合わせませんがそれでも良いですか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・。」
一気に血の気が引いた三成に、更に言葉をかける左近。
「俺としましても、殿の一時の欲望におつきあいするわけですし、もちろん殿もそれくらいのことは
覚悟されてのことですよね?衣装がいつもと違うと言うだけでそう言う目にあわされるわけですし。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「言っておきますけど、左近はやると言ったらやりますよ?」
その声があまりに優しく、そして穏やかだったから。


 三成はこれからのことを脳内で考えてみた。
いつもなら、自分が近づけば柔らかな微笑をくれる左近が、冷たい顔でそっぽを向く。
その上、言葉を交わしていても、一切視線を合わせてもくれず、言葉に感情もない。
そんな日々がやってくるというのか?


 「・・・・・・・・・無理だ。」
「はい?」
「そんな切ない日々、俺は嫌だぁあああーーー!!!」
そんなことになるくらいなら、今は我慢すると泣きそうな顔で叫ぶ三成に、思わず噴き出しそうになるのを必死に堪える。
「わかっていただけてなによりです。」
「さっさといつもの格好に着替えて来い!!俺は自分の陣で待っているから、あとで褒美をよこせ!!」
「は?なんの褒美ですか?」
「今この場を我慢した褒美だ!!まさかそれすらもよこさぬ気か左近!!」
かっと目を見開き、そう叫ぶ姿は結構怖い。

 「・・・わ、わかりましたよ。」
「言っておくが、これほどの我慢を強いたのだ!頬に接吻くらいはしてもらうからな!!」
「わかりました。」
先ほどまで三成が自分にしようとしていたことに比べれば、それくらいどうということはないのだが、
あえて左近は仕方がないとため息をつきながら頷いた。
「絶対だぞ!?」
「わかりました。」
では着替えてきますと歩き出そうとする左近だったが・・・。
ぼふんと自分の胸元に何かが押し付けられる。

 「・・え?これ・・殿がかぶっておられるもふもふ?」
何故という顔の左近に、三成は呆れたように怒鳴る。
「馬鹿者ー!!そのような艶かしい格好で歩いていたら危険過ぎるだろうが!!」
「・・いや・・危険なのは殿を入れた若干名だけなんですが。」
「とにかくそれで胸元を隠していけ!!」
「わかりましたよ。」
言うことをきかないと暴れだしそうなので、とりあえずもふもふを抱きしめて走りだす左近に、三成は大きな声で叫んだ。
「いいか、左近!それは洗わずにかえせよ!!」

 「・・・・・・・(絶対洗ってかえそうっと)」
あえて言葉には出さず、無言で左近は自分の陣へと向かったのだった。



 今三成の目の前に、凄まじい冷気を身にまとった友がいる。
おそらく王元姫か司馬昭に話を聞いたのだろう。
「だから俺は何もしていないと言っているだろうが!良い加減に槍を構えて近づくのはよせ、幸村!!」
「私は三成殿を信用しております、左近殿のこと以外は。」
つまり、左近のことに関してだけはまったく信用していないと言いたいらしい。
「だから先ほどから言っているように、我慢をして大人しく退散したと言っているだろうが!!」
「・・・・・・・・本当ですかぁ?」
「自分の所の女忍者の様な言い方はよせ!」
どう説明したら信じてくれるのだとため息をついた三成に誰かが声をかける。

 「殿、先ほどは我慢をしてくださりありがとうございました。」
そう言いながら三成にもふもふを返す。
「ああ・・・って左近、あれほど洗って返すなと言っただろうが!!しかもまだ水が滴っているではないか!」
綺麗さっぱり(2度洗い)洗濯され、ぐっしょりと濡れたもふもふを握って怒る三成。
「嫌ですよ。あのまま返すくらいなら失くしたフリをしてどこかに捨てます。」
にっこりと笑ってそう言い放つ左近の様子に納得したのか、幸村は急に穏やかな表情になった。
「いやあ、私は三成殿を信じておりました。」
「嘘つけー!!微塵も信じていなかったではないか!」
「さて、私はこれで。左近殿、また後ほど。」
急いで去って行く幸村に小さく手を振っていると、背後から強い視線を感じる。

 「左近、わかっているだろうな?」
「・・・はいはい。ご褒美ですね。」
「うむ!(頬に接吻!!)」
やれやれと顔を近づけてくる相手に、三成は嬉しそうに頬を出したのだが。
何を思ったのか、三成の両頬を両手で包み込むようにする左近。
「左近?」
「殿、今回はよく我慢してくれましたので、特別なご褒美です。」
「特別?」
なんだと尋ねるよりも早く、2人の影が一瞬重なる。
それは確かに瞬きをするのと同じくらいの一瞬の出来事だったが、確かに残った感触。

 「今回の様に、きちんと我慢をしてくだされば、それ相応のお礼を差し上げることも無きにしも非ずですよ?」
暗にいつもじゃないですけどと言っているのだが、最早三成には聞こえていない。
「・・・・・・・・・(じ〜〜〜ん)」
1人感動して震える三成が、左近が帰ったことに気がついたのはそれから暫く経ってからのことだった。

 それ以降、三成が以前よりも暴走しなくなった・・と皆が感じるようになるのにそう時間はかからなかった。




 おまけ

 一方、お札で飛ばされた慶次は。
「叔父御・・・まだかい?」
「まだじゃねえ!!俺が良いと言うまで腰をもめ!!」
慶次が飛ばされたのは、利家がいる陣だった。
しかも利家の真上から落ちてきたため、利家は慶次に乗っかられる形で転んだ。
その為、腰を痛めたらしい。
「腰が終わったら、次は肩!それが終わったらみっちり説教だ!!」
「え〜〜。」
勘弁してくれよとげっそりとした顔をする慶次が、利家に解放されたのはその日が終わってからだった。

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まさかのお許しをいただき、三左編を書かせていただきました!!
殿相手なら、左近は逃げ切ることは可能な気がします・・。


いつもお世話になっております、夕月夜の夕月様より頂きました第三弾。
あんなアホ丸出しの小噺からこんなに素敵SSが派生するとは予想しませんでした。
うちの殿とは比べようもないくらい、こちらの殿は良い思いをしてるのは気のせいじゃないです(笑)
…うちの殿は御生存だと碌な目にあってないからなあ…まあいっか(え)
素敵SS本当にありがとうございました〜!!
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