ちょうどその頃、ヴァンシュタイン邸では。
「ミュンヒハウゼン」
「はっ」
優雅に紅茶を嗜んでいたふみこがちらりと置時計に視線を移すと、頃合いかしらとばかりに万能執事を呼びつけた。
「小夜と金を迎えに行くわ。車を出して」
「かしこまりました」
間も無く惨劇(…)後の事務所に現れると、そこには見るも無残に荒れ果てた室内に、消し炭と化した何かの塊と。
「あ、朝顔が…」
「茶器があああ」
その脇で泣き崩れる二人。
「あらあら。凄いことになってるわね」
「ふみこさん!」(×2)
デカいのとちっさいのと、その両方に泣きながら詰め寄られ、予想通りの展開に内心ではにんまりと、しかし表面は優しく微笑んでみせるふみこ。
「こんな馬鹿は捨て置いて、二人とも一緒にいらっしゃい」
そしてぴくりとも動かない塊(達)を一瞥すると、ニ人を事務所から連れ出し車に押し込んだ。
「朝顔なら植え替えれば大丈夫よ。ミュンヒハウゼン、手伝ってあげなさい」
「小夜様、こちらへどうぞ」
屋敷に着くとまずふみこは(いつの間にか持ってきていた)朝顔を調べ、大した事はないと言い切って小夜を安心させる。
万能執事に促され、小夜はぐすぐすと鼻をすすりながら温室の方へと向かって行った。
「これは…諦めるしかないわ。後で新しい代わりの物をあげるから」
しかし茶器に関してはどうにもならない。
「こんな事になるなんて…本当に申し訳アリマセン…」
「死蔵させる為にあげたわけじゃないの。だからそんなに謝らなくてもいいわ」
「……」
金としては《茶器が割れた》ではなく、《ふみこからもらったものを壊した》事に嘆いているので、すぐに気持ちが晴れる事がない。
「ふ、ふみこサン?」
だがふみこはそれすらも見越していたのか、金が座るソファの隣に腰を下ろし、少々強引に引き寄せて横たえさせた。
「申し訳ないと思っているのなら逃げないこと」
「………」
結果膝枕をする状態になり、真っ赤になって硬直する金の柔らかい耳を、ふみこは満足そうに優しく撫でる。
特別何かを口にするでなく、ただ優しく耳を撫でるだけのふみこと、ガチガチに硬直したまま身動きできない金。
せっかくの機会なのだから楽しめば良いものの、それが出来ずにいるされるがままの金に気付かれないように、目を細めて笑いながらふみこは手を休めることはない。
(ふふ…これはやっぱり撫でるに値するわね…)
ふみこが小夜に入れ知恵したのも、光太郎とロジャーを一緒に送り出したのも、全てがふみこの計画だった事を知るものはいない。
「…これも一人占めというものかしらね」
ふみこにしてみたら、 ただ誰にも邪魔されずに金の耳を愛でてみたかった
だけなのだ。
「皆まだまだ甘いわ…」
結局全員魔女の手の上で踊らされていたらしい。
…齢400歳は伊達じゃない。
【大変身(続)・完】