「ご無事ですか金さんッ!!」
「小夜サン…」
衝撃にうずくまる日向を避けて金が身体をずらせば、ヤタを従えた教え子(…)の小夜が血相を変えて飛び込んできた。
「あ、あの、何故小夜サンが?」
「詳しい話は後でいたします」
日向にぶつけた風呂敷包みを金に渡し、寝室の方を指差しながら小夜は玉串を取り出して…。
「こちらをふみこさんから預かってまいりましたから、すぐに着替えてください。その間に私は…」
何故か日向に狙いを定めた。
「さ、小夜サン一体何をッ?!」
「ふみこさんから頼まれました。
日向さんが、何やらタチの悪い悪鬼に取りつかれているから祓って来て欲しいと。
私勉強はまだまだ未熟ですが、あしきゆめ相手ならおまかせ下さいッ!」
「ええええ?!」
ぎょっと目を剥く金をよそに、小夜はためらいなど全くなしに言い切った。
「多少荒くなるかもしれませんが、辛抱して下さい日向さん!」
「ちょっと待っ…」
「行きます!」
そして金の制止むなしく、日向目がけて小夜はヤタをけしかけた。
「いてっ!いてっ!いてっ!」
風呂敷包みを手にしたまま唖然としている金をヨソに、小夜の繰り出したヤタはその鋭いくちばしで、日向の頭をこれでもかと言わんばかりに突っ付き出した。
「……」
とりあえず(この調子なら)日向が小夜にぼこぼこにされる事はなさそうなので、金はあえて止める事をせずに、別室で着替えようとこっそりその場を後にすることにする。
しかし念の為ふみこに連絡をいれてみれば…。
『ふふ、あのコちゃんとお使い出来たのね。上出来上出来』
「…服を届けていただくはありがたいのですが、何故日向サンを祓うなどと?」
『あながち間違ってはいないでしょう。アレも少しは反省すればいいのよ』
「しかし…」
『いいじゃない。小夜は小夜なりに自分の目の前で変化されて心配していたんだから。
それに以前火傷させたこともまだ気に掛けているいるみたいだし。
それなら溜ったドリルも含めて、服を届けがてら、あの馬鹿の邪気を祓って来なさいと言ったのよ』
「邪気って…それは違う思いますが」
金が多少なりともあっけに取られて(遠慮がちに)訂正を求めれば…。
『…それ以外なんと言えば良かったの?
あの潔癖な戦巫女に、日向が《淫気》振りまいてるから祓って来いとでも?』
「……」
しかもその場合あなた限定じゃないと逆に呆れられ、実に言い得て妙な説明に金は言葉を失った。
『小夜ちゃん止めろ!俺は正気…いていていてーッ!!』
『おだまりなさい、あしきゆめ!!』
『いってーッ!!』
…事務所では、有無を言わさず日向が小夜から攻撃(?)を受けているようだ。
『金さんに不埒なことをしようとしたあしきゆめッ!
日向さんから出ていきなさいッ!』
『だ〜か〜ら〜ッ!』
電話をしながらそっと変化したままの耳をそばだてれば、扉の向こうから小夜の玉串で日向がビシバシ叩かれている(らしい)音が聞こえてくる。
…かの少女は見かけによらず対魔物相手には破壊的な力を誇るだけに、頃合いをみて止めてやらないと、冗談抜きで日向が半殺しの憂き目に合いそうである。
「あなたのそばにいるであろうコータローさんに、後で日向さんの特大の雷を覚悟していて下サイねとお伝えして下サイ。
…さすがに今回ばかりは私、コータローさんを庇ってあげるできそうにないですから」
さてそろそろ止めに入らないと…と金が溜め息を吐いて身支度を整え、最後にそうふみこに伝えれば、少しだけ驚いたような声が返ってきた。
『あら、気付いていたの?』
「なんとなく、ですがね…」
追求する気も失せてあっさりと答えれば、魔女はころころ笑って「でもね」と続けた。
『安心なさい。私は光太郎と二人きりになっても何かしようなんて気にはならないわ。
…だって今、光太郎ったらね…』
「……」
笑いながら言われた言葉に金が硬直した。
『金さんに、光太郎さんにいかがわしい呪をかけたあしきゆめッ!
お二人に替わって私が制裁を下しますッ!』
『いでででーッ!!』
事務所では小夜のおしおき(…)がエスカレートしてきたらしい。
しかし小夜が叫んでいる言葉があながち嘘でもないせいか、金はもう少しだけ懲らしめてもらいましょうか…と出て行きかけたのに一転ベッドに腰掛けた。
『光太郎はいま光太郎ではないわ。…強いていうなら光ちゃん、かしらね』
そう。小夜の前で変化したのは金だけではないのだ。
『光太郎さんがあんな姿になったのはあなたのせいです!!』
『痛て痛てッ』
危険を感じて自分のジュースを金のお茶と取り替えたのまでは良かったのだが。
『がさつな女の子なんてつまらないわ。
あれなら小夜で着せ替えなりなんなりした方がマシよ』
その金のお茶だとて薬を混入されていたのだ。
光太郎は金ほどはっきりとしてはいないが、それでも大変な目には合っていたのである。
「コータローさんには悪いですが、私、犬に変化で助かったのかもしれませんネ…」
事務所での騒ぎを聞きながら、ほぅ…と溜め息を吐く金だった。
【大変身・完】