金とふみこが事務所から去った後、日向は伸されたまま何とか冷静になろうとして…
『ううう…あのばばぁめぇぇぇ…ッ!!』
見事に失敗していた。
『だいたい金も冷たいじゃないか。俺のコトなんかどうでも良いってのかねっ』
いや、自分の事を棚に上げて何を言うか貴様。
自業自得とは判っているけれど、それでも自分ではなくふみこを選んだ金にショックを受けているらしい。
「日向サン」
『金?!』
ところが殆ど間を置かずに、金が(しかも一人で)事務所に戻ってきたのだから、これで驚くなと言うほうが無理だろう。
「悪いのは日向サンなんですカラ、ちゃんと自力で元に戻って下さいネ?」
『……』
しかもほけっと見上げる日向の前に膝を付き、頭を一撫でしてから自分が着ていたコートを被い被せたのだ。
「…そのままで元に戻るしたら、みっともないですカラ」
『き、金…ッ!』
少しだけ頬を赤くして困ったような拗ねたような微妙な面持ちでコートをかけられ、日向が「あのばーさんよりやっぱり俺を取るんだよな!」と縋るように金の名を呼べば。
「私すぐふみこサンの所へ行きますヨ。
…アナタは一人で(自力で)頑張るして下サイ」
と、容赦ない返事を返された。
『お前なぁ!俺が心配じゃないのかッ!』
「何を言いますか!私を疑うして、あのチョコレートを勝手に食べた日向サンが悪いのでしょうッ?!」
『ぐ…』
当然過ぎる金の反撃の言葉に、日向はいよいよぐうの音も出なかった。
「じゃ、女性を待たせるよくナイので私は行きますカラ。…頑張って下サイね」
『……!』
ふて腐れ、睨みつけることもしなくなった日向に金は一つ溜め息を吐いてから、何の前ぶれもなく皴の寄せられている眉間に軽く口付けた。
「では」
『……』
虚を突かれ、硬直して点目になってしまった日向に笑いをこらえつつ、金はさっさと事務所を後にした。
…さてはて惚れている具合が大きいのはどちらやら。
《おまけ・完 》