『聞くが。もし久しく会っていなかった自分の大切なモノが他人に奪われていたら…お前はどう報復に出る?』
それは自分に懐き始めた美姫の、ちょっとした質問。
『そうね…状況にもよるわ。
殺して大切なモノを奪い返せる相手なら迷わずそうするし、それが却って仇になるなら…』
『なるなら?』
『その相手にとことん嫌がらせかしら』
『…………そうか』
その時の美姫はあまり深く聞いてこなかったから、ただの思いつきで聞かれたのだと思っていたのだけれど。
「心の狭い犬には確かに効果があるようだけれど、だからと言って自分のお気に入りで、可愛い大きな坊やの周りを固めようとするのはどうかしらねぇ…」
そう呟くふみこの視線の先には、バトゥを従え必要以上に日向へ牙を剥く美姫の姿が映る水晶が一つ。
そして。
「あ、申し訳ないですけど少し血液をいただきます。…その、あの方の為にですので」
「ハイ、判っていますカラ。あれがやっと見つけた大切な方の為、私はいくらでも協力シマス」
皆が向かう先の日本では、異国での馬鹿げた騒動など知る由もない二人が、地味に、しかしきちんとその騒動を治める準備をしていた。
「でもあの方の事ですから、意外と抗体をあなたから直接採らせようとしたりして…」
「いくら私の体液全てが抗体を持つと言うしても、まさかそんなことはナイでしょう」
あははは、と和やかに笑う二人はそれが冗談にならない事をまだ知らない。
…新たな騒動が日本にやって来るまであとわずか。
《式神使い達の輪舞・完》