愛の尺度も人それぞれ。



悪趣味な夢の城で出会い、共闘するうちに妙に息が合ってしまったのはふみこ・O・Vと金美姫。
タイプが違えどどちらも美女という点においては誰もが賛同するであろうその容貌の二人は、見た目だけで判断するならとても馬が合いそうには見えなかったのだが。



「突然だが、私はお前のことを何と呼べば良い?」


暇潰しか他に目的があってかそれは定かではないものの、ふみこは美姫を気に入ったらしく日本へ連れて帰り、しかもさも当然と自分の屋敷へ招き入れていた。

「今更なに?」

しかし美姫の方も対して動じず、招かれるままソファに腰掛けてそう問いかければ、本当に今更なことに優雅に紅茶を楽しんでいたふみこの眼差しが鋭くなる。

「む…確かに今更だが、いつまでもお前とだけ呼ぶのも悪いと思ったんだ。…私はおかしいか?」

ふみこに負けず劣らず優雅な仕草で紅茶を楽しんでいたくせに、子供のように心持ち上目使いに伺うそのちぐはぐな姿に、ふみこは少しだけ面白いものを見たと目を細めて受け返す。

「いいえ。良い心がけだと思うわ」
「そうか、では何と呼べばいい?」
「あら、好きに呼んで構わないわよ」

お前などと呼ばれて良い気はしていなかったが、口も態度も悪いが美姫に悪気があったわけではないし、それにどうやらこの美姫は些か素直ではない性格をしているらしい。
謙遜や実直を絵に描いたような従兄とは異なり、尊大かつ冷徹な性格に見えて実は激昂し易いものの、時折見せる彼女の従兄に似た素直さや、徐々に自分に懐いてゆく事に寛大になるというもので。

「一つ先に言うけれど、あなたの従兄は私を『ふみこさん』と呼ぶわね」

寛大ついでにからかいたくもなり、面白いほどに反応を示す美姫の従兄を引き合いに出してみた。

「大正はそう呼ぶのか…」
「ええ」
「…判った。ならば私は『ふみこ』と呼ぶことにする。構わないな?」
「それは構わないけど、理由を聞いても良いかしら」

美姫の従兄である金大正を引き合いに出されて迷いなく呼び方を決めた美姫だったが、あまりの即断ぶりにふみこはその理由に興味をもったのだが。

「大した理由はない。大正が敬称をつけて呼ぶなら、私は呼び捨てにしてみようと思っただけだ」
「ふぅん…それだけ?」

それだけならつまらないし、呼び捨てにすることを許可するのもどうかしら、と暗に否定して見せれば、美姫は己の最愛の従兄のことを思い出したのか、綺麗な顔で殊更綺麗に笑顔を見せて語りだす。

「私の推測だが、大正はお前には弱いと思った。だからそんなお前を私が呼び捨てにしていたら、あれは絶対真っ赤になって狼狽える。
駄目とも言えず、ずるいとも言えず、羨ましいとも言えずにな」
「あらあら」

建前は大層物騒な理由で従兄を追いかけている美姫が、実はとんでもなく溺愛していることは誰でも分かっていることなのに。
どうやらその愛情は、世間で言う溺愛とは些かどころか随分とかけ離れた形をしているらしい。



「知っているか。大正はな、苛めてからかってやると一番いい顔をするんだ」
「そうね、それは否定しないわ」



これまた違う意味で『いい顔』をしてそう語る美姫を前に、持て余す暇に飽いていた齢400歳の魔女が興味を持たぬ筈がなく。
そしてとてつもなく歪んだ溺愛を向けている相手に、大事な従兄が男に取られているわよと教えたらさぞかし退屈しのぎが出来そうだと閃いてしまったのは、仕方のないハナシ。





「私の大正を傷モノにしたのは貴様かァァァァァァッ!!」





その後従兄の側にいる大神を見る度に激昂する美姫と、それを見ながら悠然とお茶を楽しむ魔女の姿があるのが普通になるのは、そう遠くない未来のハナシ。


【それも愛、これも愛・完】

2010年VD期間拍手に置いていたフリーSS再録。配布期間終了。
いつもの馬鹿ップルではなく、捏造しまくり美姫さんでお送りしました。
相手が誰であろうと金さんが愛されてるのが当館ならでは(断言)
ちなみに出てきていませんが、いつもの馬鹿ップルは水面下で
いつものように駄目ップルになっていること大前提でございます。
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