「俺は、お前さんが好きなんだ」
気の置けない友人としてではなく、他の誰にも渡したくない特別な存在だと自覚して。
「ただの仲良しなんて関係を望んでいるんじゃない。
…男のアンタを抱きたいと…そう言う意味で俺はアンタが好きなんだよ」
拒まれる事を承知で、しかし冗談と取られるのは御免だと、そう素面で口説いて。
嫌悪はなくとも困惑しているその身体を抱き締めて、肩口に顔を埋めては逃げないようにと腕に力を込める。
「アンタが拒むなら、もう二度とこんなことはしない。振るつもりならはっきりと言ってくれ。
もしそうだとしても、俺はこの気持ちを押しつけるつもりはないし、そのせいでアンタを避けるような事は絶対にしないから」
だから逃げる事だけは許さないと、そう告げるのは、俺の精一杯の虚勢。
「…………」
戸惑いを隠し切れずに硬直したままの身体を宥めるように、俺は抱いたままのその背中をそっと撫でるように軽く叩けば。
何度も何度もそれを繰り返すと、抱いた身体が何かを伝えようとみじろいだ。
「……ア、ノ……」
腕を下げた形で俺の腕の中に収まっていた身体は、沈黙を破るか細い声とともにその腕をゆっくりと上げて。
「私、は」
「……っ……」
その動きに俺は思わず息を飲み、次に聞かされるであろう拒絶の言葉に身構えた。
その、瞬間。
「………」
「……金……?」
俺を突き放すものだとばかり思っていたその腕が、驚愕に目を見開く俺から視線を逸らし俯きながら、それでもしっかりと俺の背中に回されて。
「…私に貴方を拒む、その理由はアリマセンから…。
むしろ私が拒まれる、ずっとそう、思って…」
戸惑いがちながらもしっかりとシャツを掴み、震える声で望みながら諦めていた言葉を、綴る。
「…本当、に?」
「ハイ」
赤くなりながらも、そう、しっかりと返事を返してくる金を俺は思わず力一杯抱き締めて。
柄にもなく泣きそうになるほど嬉しくて、ただただ、金を抱き締めることしか出来ない。
…叶う事はないだろうと思いつつ、本当はこの瞬間をの訪れを、俺はずっと待っていたんだ。
【この瞬間を待っていた・完】