母の日限定拍手再録 
きっとこれもそれぞれの愛のカタチ(多分)



エエ、判る、してはいます。
悪気はない、とても十分、ソレはもう。
その気持ちも嬉しい、間違いないデスし。
デモ。デモですよ。





「金さんありがとー!」
「金さん、いつもありがとうございます」


朝、H&K事務所の扉がノックされたと同時に中に飛び込んできた子供二人に、揃いに揃ってこう言われた上にプレゼントの箱を差し出された金は、いつもの笑顔で出迎えたまま意味が判らず固まっていた。

「お前ら朝から随分と元気だな…」
「日向サン」
「所長は関係ねーから」
「はい、今日は金さんに感謝する日ですので」
「私…?」

入口の前で立ち尽くす金の背後から、半分まだ寝ぼけている日向が現れ肩を竦めて見せるのだが。
そんな日向の態度に全く意を関せず、子供達はただ金へプレゼントの箱を差し出し立っている。

「とりあえず、中にドウゾ。お茶を淹れますカラ…」
「駄目です、それは私が」
「うん、今日は金さんゆっくり休む日だから。炊事は小夜ちゃんが、掃除は俺が。あと所長は…邪魔だからどっか行っててくれよ」
「ハアっ?!」

意味が判らないが自分にだというので反射的にプレゼントの箱を受け取って、ぎこちなくも硬直を解いてキッチンを兼ねた給湯室へ向かいかけた金を止めたのが小夜なら、それに追い討ちをかけたのが光太郎で。
その上日向に出て行けとまで言い放ったことに、金は更に驚き細い目を見開いた。

「馬鹿たれ。仮にも師匠に向かって、しかも事務所から出て行けはないだろうが」
「あだっだだだだだ!」
「ア、アノ。先ほどから話が見えない、私だけデスカ」

ところが日向は(出て行けと言われてそこには怒っているが)取り立てて腹を立てることもなく、光太郎達の好きにさせるつもりらしく、弟子のこめかみをぐりぐりと拳で抉りながらのんびりと構えているだけだった。

「一体何事デスか…」
「今日は、金さんに感謝をする日なのではないのですか?」
「エ?」
「ふみこさんからそのようにお聞きしたのですが…」

しかし、金の呟きを拾ったのは人数分の日本茶を淹れて戻ってきた小夜で。
その上何やら嫌な予感のする答えが返って来た。

「今日は日頃お世話になっている方に、感謝の気持ちを述べたり贈り物をしたりする日だとお聞きしたのですが」
「…………」

小夜からそう言われてカレンダーに目を走らせれば、言わんとしていることの意味を知る。
その説明は間違ってはいない。
寧ろ正しい。正しいのだ。
だが!

「その説明は、半分正しく、半分間違う、してマス…」

それで漸く渡され手にしたままの箱の意味を知り、判っていて教えたであろうふみこと、素直に信じる小夜、そして全く訂正するつもりがないどころか便乗してやってきた光太郎に、どう対応したらいいのかと金はほとほと困り果ててしまった。


「今日は母の日といって、母親もしくは日頃お世話になるしている「女性」へ感謝する日デスっ!」


父の日ならまだしも何故母の日ですか、男の私が母の日で祝われるは可笑しいでしょう!と憤るまではいかなくともかなり切実な叫びを上げる金に対し。




「大丈夫だって、違和感ないし!」
「贈り物には『えぷろん』を選んでみました。どうぞお使い下さい」
「…じゃあ俺は父の日か…」




光太郎も小夜も、挙句の果てには日向でさえさらりと流して勝手なことを呟く始末。







その時の、金の心中はといえば。







エエ、判る、してはいます。
悪気はない、とても十分、ソレはもう。
その気持ちも嬉しい、間違いないデスし。
デモ。デモですよ。
こうも結託して母親扱いされる、それは流石に男としてどうかと思うのは間違ってますか違いますかどうですかそもそもそう言われるは日向サンが色々だらしないから私が片付けるしたり食事作るしたり洗濯したりそれにコータローさんもあまり整理整頓は得意でないからこそ私がせざるを得ないわけで…(以下延々と続くので省略)。






と、口を開いたらきっと止まらなくなるであろう(主に家主とその弟子)への日頃の鬱憤だらけだった。





…ちなみに子供達が、父の日に日向に同じ事を考えているかどうかは…多分皆さんの推測どおり。





【日頃の感謝という名の…・完】



確信犯は偉大なる魔女のみで、他は全員大真面目。
(但し思惑はそれぞれ異なります)。
とりあえずはあれだ、久々の式神SSがこんなのって
どうなのよと自分で突っ込みいれておきます。


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