今年もやって来た、一月三十日。
弟子を筆頭に、仲間内から毎年毎年扱いどころか保管にすら困る物ばかり贈られ続けていた大神様は、今年こそは絶対に何もいらないからと、きっぱりすっぱりはっきり言い切っていたのですが。
『ああ、やっぱりこれが一番落ち着くな…』
それなのにたった一人に対してのみ、他からすれば呆れるしかないようなモノをねだった上にしっかりと手に入れ、本来の姿のまま上機嫌でまどろんでおりました。
「アノ、日向サン?」
『んー?』
「本当にこれがプレゼント、なりますカ」
『なる』
「……」
唯一大神様からプレゼントをねだられた相手とは、つい先日までよその国どころかここではない違う世界に送り込まれ、満身創痍になりながらも約束通り帰ってきた金大正。
約半年前、世界を渡る際日向の誕生日までには帰ってくると言ったその言葉に偽りはなかったものの、流石に人の身で世界移動は大変だったらしく。
『大体お前さん、今ろくに動けやしないだろうが』
「そ…それはそうデスが」
偉大なる美しき長い髪の魔女により、精密な魔法陣にて丁寧に送り込まれた時とは違い、帰りはまるで空間から吐き出されるように事務所の天井から落ちてきて。
金は様々な痛みに朦朧とした意識の中で、血相を変えて自分を抱き起こす大神様…つまりは日向の姿を確かめるなり気を失っていたのです。
『全く、落ちてきたのがこっちで良かったな。前の事務所じゃ誰も居なかったぞ』
「…エエ。それはお守り、効くしたようデス」
帰還の仕方については山程説教したい日向でしたが、とりあえずふみこと言う名の魔女ではなく、きちんと自分の元へと落ちてきた事については満足しているよう。
『祝ってもらえるのはありがたいが、素直に喜べる歳でもないんだから気にしなくていい』
毎年祝いの手料理を振る舞うことを楽しみにしていたため、何とか台所に立とうとしていた金をこの言葉でおとなしくさせた上、代わりに欲しいものがあるからと言って…最初に戻るわけです。
『ここにお前さんが居て、それを枕にして俺がまどろむ、と。これで十分なんだよ』
二人が居るのは、新しい事務所にある日向の生活空間といえる寝室。
そこに以前と同じ(ドアの大きさからどうやっても入らないはずの)馬鹿デカいベッドの上に、金はいたるところを包帯に被われつつも怪我に負担をかけないように身を起こし。
日向はわざわざ大神の姿になってその傍らに寄り添い、さらに金の膝枕を奪ってうとうととまどろんでいたのです。
『あいつらにはせめて今日一日はお前さんを静かに休ませろと言ってあるし、俺としてもお前さんには動いて欲しくはないからな』
「デモ」
「それに…長いこと一人で寂しかったんだ、これで十分お釣りがくる』
どうにもまだ納得がいかず何かを言おうとする金に、日向は鼻先をぐいぐいと押し付けて頭を撫でることをねだり、条件反射で素直に応じると満足そうに目を閉じて鼻を鳴らします。
「プレゼントが私の膝枕なんて…これでは私の方が満足シテマス」
『それで結構。それにお前さんの膝枕は間違いなく俺が貰ったんだからな、勝手に動き回られたら困る』
「……」
毎年毎年過剰なまでの馬鹿騒ぎで祝われていたのと違い、今年は随分とまったりした日になってしまいましたが。
…当の本人が幸せだというのなら、こんな一日もありなのかも知れません。
【約束の結末・完】