◆05 誓いのしるし 光太郎→金
猫探しを終えて事務所に戻ったら、所長はいなくて。
そのかわり、キンさんが居て。
いつもなら『オカエリナサイ、コータローさん。お邪魔シテマス』って優しく笑って出迎えてくれるのに、今日は違ってて。
「…寝てる」
キンさんは、二つあるうちの、短い方のソファに座って寝てた。
「……」
キンさんを起こさないように、俺は事務所の扉をそっと閉じて中に入ると。
あとは、さらに慎重に。
気配を殺して、そっとそっと、足音を忍ばせて。
滅多に見られないキンさんの寝顔を間近で見たくて、そんな感じで側へ寄ってみる。
「……」
いつもは俺の頭を軽く越えた所にある顔が、逆に見下ろさないといけない位置にあるのが凄く新鮮だ、なんて馬鹿な事を考えながら。
「……すっげー嬉しいかも」
近くで見られた寝顔に、そんなって言葉が出た。
すごく人当たりがいいくせに、本当に近付くとちょっとだけ体を固くするキンさんを知ってるから。
「俺はガキだし、なんにでも考えなしに突っ込んで行くし、それに判り合うには話すより拳で語った方が早いって思ってるけど。
でも俺は、いつだってこんな風にキンさんに近付いていたいからさ。不意打ちでもなんでも、使える手はなんだって使う」
…それでもやっぱり、強引にすることにはちょっと抵抗があるから、最初のキスは内緒で。
いっそ起きてくれたら面白いんだけど、それじゃキンさんがかわいそうだから、そっと額に誓いのそれを。
そっとそっと、起さないように。キンさんのために、そっとそっと俺らしくなく、凄く静かに。
「なあ頼むよ、キンさんが好きな俺を好きになって」
そう面と向かって言えたらいいな、なんて思いながら。
ナイショで静かな、額への誓いのキス。
小噺ブログより移動、一部加筆修正しました。
細切れ状態からラストを大幅修正…したら
寒々しいコタが出来ちゃった…(ヒィ!)