ふと思いついたネタ…






出合った瞬間から、すでに永遠の別れがそばにあることが判っていた。
それでも、判っていても、どうしても。
彼等と刃を交え、倒さねば先に進めないこの理不尽な出会いに、金は悲嘆の涙を零していた。




「許して、下さい」

つい今しがたまで敵であった二人の男に留目を刺し切れず、大切な武器を放りだして、そうして金は地に倒れている彼等の頭を持ち上げ、そして抱き締める。

「気にするな…」
「ああ、気にするな…」

兄弟が触れ合う事のないように、それぞれ互いにほんの少しだけ離して胸に抱き、金は消え行く二人の為に涙を零す。

「我等はこうなる定めだった。ただ、それだけのことよ…」
「別れに涙を零すより、俺たちが出会えた事を喜んでくれ…」
「だから、泣くな」
「我等兄弟の為には、泣かなくていい」

顔に零れ落ちてくる金の涙に、二人はそれぞれ反対側の手を力なく伸ばし、指にそれを伝わせながら静かに微笑んだ。

「嫌…嫌です…消えないで下さいッ」
「我等が消えねば、先には進めん」
「我等が消えてこそ、次の扉は開かれる」

自分の目的の為に剣を舞い踊らせ、その為に失いつつある魂に金は悲痛な叫びを上げる。

「泣くな、哀しき者。泣けばお前の目的は果たされんぞ」
「そうだ、哀しき者。我等は消えてこそ救われるのだぞ」
「嫌です…ッ!」

今、金の心の全てを捕らえているのは、自分腕の中で消え行く二つの魂。
この瞬間だけとは言え、金はこの二つの魂に心の全てを捕らわれている。

「哀しき者よ。悲しみに心を閉ざすな」
「哀しき者よ。何の目的で我等を倒したのか思い出せ」

しかし兄弟は、そんな金に見送られる事は望まない。

「我等はここで消えてこそ、お前の中に在る事が出来る」
「我等はここで消えて尚、お前が望めばその心に在る事が出来る」


だから。
自分達にその為の引導を渡してくれ。 


そう二つの声が重なって、それが意味する物に気付き、金はまた新たに涙を零す。
その涙が同情でも哀れみでもなく、自分たちが消え行く事への純粋な悲しみであると言うことに、二人は一層満足そうに微笑みを深くする。

「哀しき者よ。お前に我等の記憶をやろう」

だがそれだけでは、金が吹っ切る事は出来ないだろうから、と。
そう呟いてから、兄は頬に伸ばしていた手で涙に濡れる金の顔を己に引き寄せて。
そうして悲嘆に薄く開かれていた金の唇を、己のそれで塞ぎ舌を搦めて意識を逸らす。

「!」

突然の事に流石に真っ赤になって、細い瞳を目一杯見開いてそれを享受する金の姿に、兄は満足そうに、そして弟はそんな兄の意図を汲み取ってそれを見ていた。

「これなら、忘れられまい?」
「……」

兄は暫く金の口内を思うように貪ってから解放し、結果金の涙が止まった事に苦笑して。

「弟からも、もらうだろう?」

優しい口調なのに、何故か逆らいがたい眼差しで金に問う。

「あ…」

ほんの一瞬だけ息を飲むものの、金は兄の言葉に素直に従い、自分を見上げる弟に視線を合わせる。
そうすれば、今度は弟が金の顔を引き寄せる為に腕を伸ばし唇を重ね、そうして兄よりはほんの少しだけ荒く金の舌を絡め取った。

「……」
「我等は、お前の中に在る」
「……」
「お前が望む間、我等はお前と共に在る」

熱を与える為でなく想いを残す為に、兄弟はそれぞれ金の唇を奪い舌を絡める。
しかしそれは同時に、兄弟が互いの想いを金を通じて伝え合う事にも繋がって。

「私は、あなた方の中にも、私が在る事を望みます…」

それに気付いた金は、今度は自分から兄弟それぞれに口付けた。
それは剣を交えていた時よりなど比べる間も無く、瞬きをするように本当に
短い時間だったけれど。

「許して、下さい」
「謝らずとも良い」
「さあ、前を向け」

兄弟が身体を起こすのを手伝い、金の支えを借りて兄弟は各々の剣を握り。

「さあ行け、哀しき者よ!」
「我等はお前と共に在る!」

そう叫んでから互いの身体に剣を突き刺し、目を反らすことなくそれを見つめる金に、二人は声を揃えて言葉を残す。



『お前の行く道に、幸あれ!』



叫ぶと同時に光となって消え失せた二人を、金は瞬きすらせずに見送った。





「…私は行きます。あなた方が、私に示してくれた道を進みます。
あなた方が、私の中に居てくれるなら!」




悲しみを振り切るように二人が消え開き始めた扉に足を向け、同時に仁王剣を呼び戻し、ギターケースを手に掴んでから、金は後ろを振り返らずにそう叫ぶ。





そして最後にもう一度だけ、一筋の涙を頬に伝わせて。






「負けませんよ!」






それを最後に金は迷いを完全に断ち切って、己の目的の為に、新たに現れた
無数の敵の中に大きく飛翔して行った。
                                                                 




【月さえも眠る夜・完】


                                 

無料配布本第7弾 《月》 より再録。
誰もやらないであろう「エイジャ兄弟×金」でございます。
実はこっそり推奨カプその2(その1はロジャー×金)。
大好きです、エイジャ兄弟!同士求む(笑)。
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