2019年 介護編 2


 噛み噛みワンコのポッキーと一緒に上手く生活ができるようになり、シニアになる前から、将来ポッキーに生命に関わることがあった時の事を時々papaと話し合っていた。
 ポッキーは犬。人間と違って自分から「死にたい」との思考は全く無く、何があっても本能として最後まで「生きたい」と思うはず。だからポッキーの体調に何かあった時にはあらゆる手段を使って、例え延命が1日だけだとしても、出来る限り長く生きられるようにしようと決めていた。
 ただ、自分でご飯が食べられなくなった時は、ポッキーは食べたいのに自分で食べられないのなら私たちが食べさせてあげればいいが、病気や老衰が原因で消化が出来ないとかポッキーの体そのものが受け付けないのなら却って苦痛を大きくさせてしまうので、その時は何もしないと決めていた。

 そして旅立つ時は、私が見送ることが出来るとしたら、どうしたらいいかと考えた。ポッキーは犬なので人間とは違うのかもしれないけれど、人間(私)に当てはめてみた。

 死ぬことは怖いし嫌なことだ。その事については犬であるポッキーも同じだ。人間(私)は若い頃は嫌じゃないと思うこともあったし、今まで何度死んでしまいたいと思ったことか数え切れない。でも冷静に、普通に考えれば怖いものだ。何故か。死ぬとき痛いとか苦しいとかも嫌だし、愛する人達と別れたくないとか財産が有れば自分が築き上げた物を失いたくないとかの現世に対する思いとか、理由はいろいろあるけれど、死ぬって、死んだ後って、どういう事なのか解らないから、解らないことに対する不安が最も怖いのだと私は思う。だから状況によるけれど、確実にこれから旅立つ者に「行かないで」と言うのは残る者が不安や無念を煽ってしまうのではないかと思い、私は子供の立場でおこがましいかもしれないが、父親が亡くなる時にはお礼とか後の事は任せてねといったようなことを伝えた。(ただ、事前に確実に亡くなるのが解っていたから言えたのであって、理不尽だったり突然のことであれば駄目だとか行かないでとか言っていると思う)

 ポッキーは犬一倍怖がりで不安症なので、絶対にそれを煽るようなことはしてはいけない。今までポッキーにはいろいろな思いをさせてしまったけれど、最後まで不安な思いをさせてはいけない。だからポッキーには少しでも不安な思いをさせない言葉をかけてあげたい、ずっと一緒、きっとすぐにまた会えることを伝えて逝かせてあげるんだと思っていた。

 ただ、家で私の目の前で逝かせてあげることが一番いいが、24時間私かpapaが家に居る生活をしていても、それは出来るかどうかわからない。あらゆる手段を尽くすからもしかしたら病院になってしまうかもしれないし、家で私が気付かない時や寝ている間に逝ってしまうかもしれない。夜に仕事に追われパソコン作業に集中していてふと振り返って寝ているポッキーを見た時、もしポッキーが静かにこの間に逝ってしまったら私は気付かないと思った。きっと「何で気付かなかったんだ」と自分を責めると思う。でも気付かないとしても、ポッキーが大好きな家で変わらない日常生活の中で逝くのであれば、私は辛いかもしれないがポッキーにとってはそれもいいことなのだと思おうと思った。

1月
【16歳10ヶ月】

 年が変わった。年末から、確実にポッキーの体が動けなくなった。
 後ろ足のナックリングで歩けなくなるのはもちろん、今度は前足までもナックリングすることがあった。4本の足が床に足裏を付けられないのだから、壁に寄りかかっていても歩けず倒れてしまう。それもバタン(棚や閉まったドアにぶつかる音)、ドスン(床に倒れる音)と派手に。でもポッキーには歩く(徘徊する)意欲はとてもある。歩けないのにと私は思うけれど、ポッキーはどうしても歩きたい。だから歩かせていると、目を離した時にものすごい音がしてビックリして駆け付けることもある。
 あまりに派手に倒れるのでカーペットだけでは痩せた体への打撲が心配で、ポッキーに家でも服を着せようと思い、お尻まで隠れる(痩せてお尻の骨が特に目立っている)ニットの服をネットで探し、購入した。

 ポッキーのクレートを置かなくなってからもお水のお皿の場所は子供の頃からずっとほぼ同じ場所で、お水を飲むために立ち止まったポッキーが倒れないように、寄り掛かりながら水が飲めるようにプラスチック板を使って壁を作っていたが、お水を飲んでいるうちに足が崩れてきて飲めなくなってしまったり、お皿に鼻先を入れたまま頭が沈んでいき溺れそうになることがあり、この頃からご飯が食べ終わったら抱っこでお皿の前に連れて行き、私たちがポッキーの体を支えていることでお水を飲んでもらうようになった。お水の飲み方もますます下手になって飲む量よりもバシャバシャとこぼす量の方が多いため、水分が少しでも多く摂れるように水とは別にこまめに薄め牛乳を飲ませるようにした。(お水は本当に喉が渇いた時にしか飲まないが、薄め牛乳はあげたらほぼ必ず飲むので)

 月初め、ポッキーの右目の角膜の一部が白くなっていることに気付いた。去年8月に小さな潰瘍があることに気付いた周囲だ。毎日の生活に追われて様子を見てしまっていたがこれはまずいと思い病院に連絡した。事情を説明したところ目やにの色を聞かれ、この時は薄い黄色が混じった白い目やにだったのでそれを伝えると、抗生物質の目薬とヒアルロン酸の目薬を出された。点眼を始めるとすぐに目やにの黄色味は混じらなくなったが、潰瘍がますますはっきりしてきた。私は抗生物質の目薬を続けるのは潰瘍に効果があるのか疑問に思い、ネットでいろいろ調べ、ネットで潰瘍の目薬を購入。それを毎日続けてみることにした。
 何故潰瘍が出来てしまったのか。ポッキーは右目はほとんど見えていないように思えるから、徘徊していて目の前が見えないために目を開けたままあちこちにぶつかり傷付けたのかもしれない。そしてこの1年位ポッキーは睡眠中に目が半開きのことが多いので、ドライアイが原因かもしれない。病院でもらったヒアルロン酸の目薬は継続した。

 月半ばに差し掛かると寒さが本番。散歩中にカートの中もかなり冷えるので、クッションの下にはカイロを入れてホットカーペット状態にした。そしてポッキーはフリース簡易コートを着て、フリースのひざ掛けを体に掛けて出かけた。
 気温がマイナス二桁になると、若い頃のポッキーは足裏が冷たいと足をひょこひょこ上げながら3本足で立っていたが、今はそれは出来ない。でも出来るだけ散歩はさせてあげたいので何かないかなと考えたところ、未使用のブーツがあることを思い出した。
 それは15、6年前に購入した物で、買ってすぐにポッキーが噛み噛みワンコになった(?)ため1回も使用することが無く、履かせることが不可能だから使うことは無いだろうと思いつつも、結構な値段がしたので勿体なくて捨てられなかったブーツだった。履かせてみるとポッキーは歩いてくれた(と言っても体力的に歩けるのは2、3mだが)ので、これで寒くても何とか歩けると安心した。
 しかし外初ブーツの日、午前の散歩から帰宅後になかなかお昼ご飯を食べない。散歩から帰った後には必ず待ってましたとばかりに食べているのに、こんなことは初めてだった。眠たいような疲れたような様子だったのでしばらく休ませて、起きた時に再度あげてみたらやっとゆっくりとご飯を食べたが、その後は午後の散歩にも行かず夕方まで再度爆睡。初めてブーツを履いた緊張感や、ブーツは人間にとっては軽くても今のポッキーにとっては重りみたいなものだろうから疲れたのかもしれない。でもそれだけではなく、この数日は寒さのせいか夜の徘徊も2、30分で力尽きて終了し眠りが深い傾向にあり、年齢を改めて実感した。
 その日は夜まで気を付けて見ていたが、深夜になるとほぼいつも通り徘徊。徘徊で元気を確認出来るのも何だかなと思うが、ひと安心。

 数日後からまた寒波襲来。家の周りでもホワイトアウト。散歩に行けないので生活ペースが変わったためか、ポッキーは午後から深夜まで10時間オシッコをしなかった。オシッコをしないのは怖いので心配していたが、その翌日に吹雪が治まり、散歩が出来る生活パターンになったらいつもどおりのペースでオシッコは出るようになった。

 右目の潰瘍の目薬を差し始めて1週間、潰瘍部分に向かって角膜に血管新生が見えるようになった。このまま潰瘍が治ってくれればいいのだけれど、角膜の白濁範囲も広くなってきている。大丈夫だろうか。

 お水だけでなく、ご飯を食べる時にも壁に寄りかかっていても後ろ足が崩れてしまうようになった。ポッキーがご飯を食べられるように右腕でポッキのお尻を持ち上げ、左手にスプーンを持ってお皿の中のご飯を集める介助を同時にすることは私の体勢がかなり厳しく、papaと天井からハンモックを下げてポッキーの体を持ち上げられないだろうか、などと話をしていた。
 そんな時、久しぶりに道内に住むワンコオーナーさんからメールが届いた。そのオーナーさんのワンコは変形性脊椎症を発症し闘病生活を続けていたけれど、昨年末に旅立ってしまっていたとのこと。そんな中我が家の日記を見て下さり、ご自身が使ってみて助かったので良ければポッキーに車椅子を貸して下さるとの連絡だった。
 車椅子を考えたことはあったけれど狭い我が家で使えるだろうか、ポッキーに合うだろうか、また車椅子の受け取りにはpapaが行くとしても高速道路の雪道往復に私は心配や不安があり、雪が無くなってきた3月頃に・・と私は答えたのだが、絶対に早い方がいいとオーナーさんがおっしゃったためそれは経験者の切実な言葉なのだと思い、宅配便で送ってもらうことになった。

 車椅子が届いた。想像していたよりも軽量でシンプルな作りで、車椅子の持ち主ワンコさんの体はポッキーより少し大きい位だったが、特に調整をしなくても大丈夫そうだった。車椅子に乗せるとポッキーは一瞬固まったが、何とすぐに歩き始めた。室内のテーブル等の位置を変えても部屋が狭いので自由に歩き回るような広さは無いが、車椅子に乗せた状態だとご飯の時にポッキーの体を支える必要が無いため食べさせる介助だけをすれば良く、私たち人間がとても楽であり、またポッキーも姿勢が一定になるのでとても楽そうだった。借りられて本当に良かった。

 月末には日没時間もずいぶん遅くなり、気温は低く雪は降るけれど日中の日差しが明らかに春めいてきた。今月半ばの体重、10.2㎏。もう10㎏も切ってしまうのか。

2月
【16歳11か月】

 4日(月)
 角膜潰瘍について調べていると、外傷によって出来て血管新生があるのは回復している過程だが、角膜には元々血管は無いのだから長期間存在することは良くないとあって、私の判断で始めた今の目薬の使用継続は正しいことなのか自信が無くなり、白濁もどんどん広がっているため病院に連れていくことを決めた。この日私は仕事が午後からだったので、午前にpapaと一緒にポッキーを連れて病院に行った。
 先生に右目を見せると、血管新生があるのは治っていく過程なのでこのままで良いと言われ、病院からはいつものヒアルロン酸の目薬の他に眼軟膏が出された。
 この日の体重は先月と変わらず10.2㎏。心臓の音は良好とのこと。
 毎月papaがいつものお薬をもらいに病院に行く時には体重測定のためにポッキーを連れて行くことが多く、その時はポッキーをフラットにした助手席に乗せていた。病院が嫌で行きに震えていることはあるけれど騒いだり暴れるようなことは今まで一度も無かったのだが、今回は私も一緒で後部座席で私の横に乗ったためか、片道15分位の移動中、体勢が嫌なのか何なのか判らないが行きも帰りもポッキーは落ち着かず不快そうに吠え続けだった。痩せたポッキーが本気で吠えることは体力を消耗していることが見て判るので何とか止めさせたかったが、全く止まなかった。
 雪道なので車を飛ばすことも出来ず12時近くに帰宅。直近のご飯が6時頃なのでお腹がすいているはずなのに、ポッキーは吠え続けて疲れ果てたのか全くご飯を食べようとせず、そのまま夕方まで爆睡していた。夕方になるとやっと起き、オシッコをしてからやっとご飯を食べてくれた。

 5日(火)
 ポッキーのフードはミルサーで1/3程度砕き、小さく切ったタンパク質豊富ジャーキーをトッピングに混ぜて1日分を2個の小さなタッパーに入れ、そこからメインの朝4時と夕16時を多めに、他に大体7時、12時、21時、少ない量で0時、2時頃に分けてあげているのだが、昨日の疲れが残っているのか日中は少しご飯を残すようになった。今日も午前の散歩後にはなかなか昼ご飯を食べようとせずすぐに寝てしまい、部屋を歩き回る時間が短くすぐに横になっていて、ほとんど寝ていた。でも何故かベッドやベッドのある暖かい部屋では眠ろうとせず、カーペットが敷いてあるとは言え床は寒いはずの台所で寝てばかりいた。
 しかし23時頃にオシッコに起きてからはまあまあしっかりとした足取りで部屋を歩き回る。でも次第に足がフラフラになってきて倒れてしまうが、それでも歩こうとする。どこにもハマっていないのに立ち止まっては不安そうにひゃんひゃんと吠えていることもあり、そんな様子が明け方まで続いた。

 6日(水)
 あんなに大好きで、時間になると催促までしていたご飯をなかなか食べようとしない。でも食べないと痩せてしまうし動けなくなってしまうから、無理矢理でもスプーンでご飯を口元に持っていくと何とか食べる状態。

 7日(木)
 昨日までは何とか1日分のご飯が食べられていたのに、4時前、10時半に食べた後は全く食べなくなってしまった。ご飯が入ったお皿を鼻先に近付けるとプイッと顔を背けてしまい食べようとしない。
 生き物はいつかご飯が食べられなくなる時が来るのは解っているが、それは口が開けられない、噛めない、飲み込めない、といった体力的な、身体的な機能低下を想定していた。でもポッキーはわざわざ顔を背けることが出来ていて、明らかに強い意思でご飯を「拒否」していた。体力的な理由ではない。食べたくないと言うのは内臓がご飯を拒否しているのだろうか。
 ご飯は顔を背けるが、薄め牛乳を鼻先に近付けると背けはしないが、1、2口僅かに舐める程度。牛乳味なら何か口にするかもしれないと思いコンビニで牛乳プリン、バニラアイス、チーズケーキを、スーパーのペット関係売り場では犬用は無いので猫用の人気のペースト状おやつでポッキーに馴染みがあるカツオ味を買ってきた。それらをお皿に入れてあげるが、普段ならガッつく位の美味しい食べ物なのに全く食べようとせず、シリンジに入れて口の中に入れようとしても歯を食いしばったままで、歯の隙間から舌の上に少し乗せても舌を一切動かさない。頑なな拒否。
 外は再びホワイトアウトで散歩には行けず、一日ほとんど寝ている。それでも相変わらず1、2時間ごとに起き、片前足を上げて(私たちはこの挙手のようなアピールをずっと「ハーイしてる」と言っている)「起きる」「歩く」と主張する。でも壁に寄り掛かりながら立たせても体に力が入っておらずぐんにゃり。そのまま前足を体の下に巻き込むようにして、ありえない体勢で転ぶ。首が折れるのではないかと思うような体勢で。それで力尽き再び眠るの繰り返し。
 怖い。
 この冬を越せるかどうかが大きな山だと思っていたけれど、信じられないけれどこれはいよいよなのか。
 ネットで調べる。老衰の場合最期は、ご飯を食べなくなり、下痢をして、ワンコ自身で体の中の食べ物を全て出し切るようにして旅立って行くことが多いと言う。体温も徐々に下がり、少しずつ準備をしていくと。
 でもポッキーは、良好ウンチで下痢の気配がない。体もとても温かい。そして何より食べないだけで「起きる」「歩く」といった行動意欲はあるのだ。私が受け入れられないだけなのかもしれないが、旅立つ準備をしているようにはどうしても見えなかった。

 8日(金)
 今日になったら少しでもご飯を食べてくれるのではないかと根拠の無い望みを持っていたが、はやり食べない。薄め牛乳を舐めることもなくなっている。3年半前に前庭疾患(疑い)になった時も何日もご飯を食べなかったが、当たり前だがその時とはポッキーの基礎体力が違う。そして前回のように食べ物に興味が無い感じではなく、明らかな拒否。猶予が無い。午前、病院に連れて行った。多少落ち着かないが、ポッキーに吠えたり暴れる元気は無い。
 先生によると、心臓の音や体温に問題は無く、歯茎の血色も良いとのこと。ただこの時、年末から歯周病の内服を休んでいたせいで黄色い粘度の強い鼻水が多くなっていたことから人間のオッサンのような痰がらみの咳を1、2回することがあり、咳の感じが少し心配とのことであった。
 先生によると普通は口の中に水が入れば舌を動かし飲むものらしいが、ポッキーは先生がシリンジで口に水を入れても全く舌を動かさなかった。
 ビタミン剤を出来るだけ入れてもらった輸液の皮下点滴をすることになった。そして脱水にならないよう今後も続けることを勧められたが、私は食べ物を拒否しているポッキーに無理矢理点滴をしたら内臓が対応出来ず体に水が溜まったりしてかえって苦痛になるのではと考えていたが、苦痛があるのなら診ればわかると先生に言われた。今日一日様子を見ることにして帰宅した。
 帰宅して午後、少しだけ元気が出たように見えたが、ご飯は食べない。夕方にはサイズは小さいが良好なウンチも出た。オシッコも出る。体は温かい。それなのに本当にいよいよなのか。信じられない。
 点滴をしたとしてもご飯を食べないのだから、このままではそう長くは生きられない。今はまだ起きて少し歩くこともあるが、それもそのうち出来なくなるのだろう。去年から17歳の誕生日を迎えて欲しいと思い続けていたが、それは私の勝手な思いなのだ。私は今まで、ポッキーがどんな姿になっても最後まで看取ると当たり前のように思っていたが、この時初めて、私たちが何もすることが出来ない中でポッキーがやせ細り、衰弱して死んでいく姿は、辛くて見ていたくないと思った。辛過ぎる。
 夜は相変わらず起きるが壁に沿って休み休み1、2mやっと歩くと力尽き倒れて動けなくなる。動けなくなるとポッキーをベッドに連れて行き、私はずっとポッキーと手を繋いで眠った。

 9日(土)
 今日も点滴の効果に望みをかけたが、やはりプイッとして全く食べない。私は以前はポッキーがご飯を食べられなくなったら何もしないと考えていたが、ポッキーは食べたくないだけで行動意欲はある。吹雪で行けなかったが昨日2日ぶりに散歩に出たら、papaに手で体を支えられながら雪道を少し歩き、カートの中では自分から頭を出して周囲の景色を楽しんでいたとのこと。つまり、ポッキーはいつもどおり生きたいのだ。papaも同じ思いで、これから点滴を続けることにした。点滴はしたいが4日に病院の往復で疲れ体調を崩したことが発端だったため病院には連れて行きたくないと思っていたところ、先生の方から自宅で点滴をして構わないと言ってもらえた。午前に私が病院に行き数日分の複数のビタミン剤、輸液、点滴キットを受け取り、手順を教えてもらった。
 私は先生に、一般論でいいので、点滴だけでどのくらい生きられるものなのかと質問をした。すると、以前診ていた患者(犬)さんで、やせ細ってはしまったけれど1ヶ月以上生きた子がいたとのこと。
 病院帰りにドラッグストアに寄ると、人間の介護用のバナナミルク風味の液体栄養食品が目に入り、ポッキーが好きな風味で高カロリーで良い物を見つけたと思い購入。家に帰って点滴をして暫くした後にお皿に入れて口に近付けると全く飲まなかったが、シリンジに入れ歯の間から無理矢理少し入れると、初めて舌を動かし少しだけ飲んでくれた。これも毎回飲むことは無く、ほんの少量を2回位しか飲まなかったが、初めて舌を動かしてくれたことが本当に嬉しかった。
 そして21時、オシッコの後にマナーウェアを巻くため壁に寄り掛かりながら立たせ、その後あまり期待はせず薄め牛乳を入れたお皿を口元に持って行くと、今までに無い勢いで飲み始めた。これはいいぞと思いカツオ味のペーストおやつを投入したところ、それも舐め始めてくれた。行ける!と思い、車椅子に乗せて、この勢いが止まらないように急いで、今回のために購入した半生フードをご飯用の大きなお皿に入れてあげると、バクバクと口を開けて食べてくれた。食べてくれるのは約60時間ぶりだった。大声で叫びたいほど嬉しかった。

 10日(日)
 点滴中に動いたらいけないので、眠りが深めの7時すぎにベッドの中で皮下点滴をする。
 3時前、7時、11時と少量のドライフードを混ぜた半生フードをあげると食べてはくれたが、量は少ないのにだんだん嫌々になり食べなくなってきた。でも18時すぎになったらある程度パクパクと食べてくれた。ポッキーの体は昼間は休むことになっているのだろうか。量は少ないけれど食べてくれたことが本当に嬉しい。復活できるかもしれない。23時すぎのご飯では今までで最高の食べっぷりだった。

 11日(月・祝日)
 前夜、夜の添い寝をpapaと交代。私は初めて大寝坊し、起きたらなんと10時半だった。慌てて1階に降りていくと、未明から朝までの間、シッコも、量は少ないが良好なウンチも出て、5時半、10時前のご飯もよく食べてくれたとのこと。papaがシリンジでお水をあげるとゴクゴク飲んでいるとのことで、点滴はお休みにした。午後にはカート散歩に行き、14時、16時とご飯を食べ、その後に久しぶりに眠りながらのウンチ、「寝ウンチ」で1本の長い立派なウンチを出してくれた。
 ポッキーが寝ている姿を見る。ただただ愛おしい。横になっていると、痩せて頭や体の骨がますます標本のように浮き上がっている。骨が無い下腹部やお尻の周囲なんてぺちゃんこなのに、こんなに細い体で、ポッキーの体はご飯を消化し、立派なウンチを作って出している。本当に君はすごいよポッキー。こんなに痩せてしまったのに内臓は本当に頑張ってくれている。

 12日(火)
 ほぼ今までどおりの生活。そしてご飯だけでなく、脱水にならないようにとにかく水を飲ませるようにする。ご飯を食べ終わったらすぐに水が入った皿を目の前に置くと、ポッキーはこぼす方が多いが水を飲んでくれる。舌を動かして自分で飲むことはうがいにもなっている。一度に沢山の水は飲めないから、水分摂取のためご飯には薄め牛乳だけでなくウェットフードも混ぜることが常になり、ご飯以外では薄め牛乳をお皿でこまめにあげるようにする。食べてくれるようになったからか、足取りも少ししっかりしてきたように思う。でもそのためか、未明から今まで以上に眠らなくなった。

 13日(水)
 ポッキー、オールナイト。せっかく元気になってきているからもっと静養して体力を大事にしてほしいのに徘徊に使ってしまい、そして足に力が入らなくなり立てなくなってしまう。ポッキーはベッドで眠るのが本当に嫌みたいで、ひんやりした台所で横になりたがる。暑いのか?何故なんだろう。疲れたせいか夕方のご飯はガッつきがなく少し残してしまったが、それ以外の時間は食べてくれている。


 食事が安定してきて月半ばになると、ドカ雪にはならないがコンスタントに雪が降り続き、一時的に吹雪いたりもして日々除雪と融雪に追われるようになった。私は昼間は仕事、夜はポッキーのお世話、papaは明け方に仕事から帰宅して眠るが10時前には外勤に出る私に起こされて、その後ポッキーの散歩に行ったり除雪融雪に追われ、昼寝がほとんど出来ないまま夕方からまた仕事になる生活が続いた。体力の回復に努めるポッキーも、私たち人間も、家族3人満身創痍の状態だった。
 近年は地球温暖化の影響か3月に以前あったような大雪が降ることが無くなってきたので、本格的な除雪融雪もあと半月。そして私は来月後半には今年度の仕事が一旦終わるので、4月初めに再開するまでは暫くずっとポッキーのことだけを考え毎日ポッキーと一緒に居られるので、それまでの辛抱、あと1ヶ月、と思い毎日頑張った。

 月末になり、前足後ろ足のナックリングがますますひどくなってきた。歩きたいのに歩けない。そして昼間にまたよく眠るようになり、再びご飯を途中で止めたり食事量にムラが出てきた。そして28日、足裏がしっかり地面に付けられるようにと買った新しいブーツを履いて午前の散歩から帰宅した後、ポッキーは疲れた様子で昼ご飯を食べずずっと眠り続けてしまった。夕方に起きた時にも足に全く力が入っておらず、私が体を支えていても立っていることが出来ず、夕ご飯も残すようになってしまった。
 もう、晴れた日中の日差しの強さは春。待ち焦がれていた春はそこまで来ているのに、あれから3週間、また繰り返してしまうのか。ご飯を食べなくなり復活したと喜んでいたら、その後突然・・・という話をよく聞くように思う。
 心配だ。不安だ。怖い・・・

3月
【17歳】

 1日(金)
 朝6時半にご飯を食べた後からは排泄はするが寝ていることが多く、15時半すぎに何とかご飯を食べてくれた。散歩は自宅前の道路に出る程度。体が左に傾いてしまいpapaが手でしっかりと支えていないといけないが、外に出ると反射的な習慣なのかポッキーに歩く意欲はある様子。
 右目の潰瘍に先月から眼軟膏を続けていて、相変わらず白い目やには出て、血管新生はあり、白濁は消えないが、何となく陥没部分が盛り上がってきたように思う。ポッキーの体が自分で治そうとしているのだと思う。この能力があるのだから、食欲は落ちているけれどポッキーはまだまだ大丈夫なはずだと思う。もうすぐ死んでしまうのならこんなことは無いはず、と思う。

 2日(土)
 夜にご飯をたくさん食べると昼夜逆転を促進させ夜のウンチが増えてパラダイスの危険があると思い、去年から夜にはたくさんはあげないようにしていたが、今は食べられる時に出来るだけ食べてもらいたいと思って昨日から夜間も2、3時間おきにご飯をあげていたが、9時過ぎから全く食べなくなってしまった。9時過ぎにご飯を食べられたから、その後に私ひとりで病院に行き、いつものお薬と、粘度の高い黄色い鼻水と人間のような(?)口の臭さがひどくなっていたので歯周病の薬をもらいに行ったのに。
 昼過ぎまで爆睡、16時に水分(目の前にお水のお皿を置いても飲まなくなったので、シリンジで口の中に水を入れる)を少しだけ摂り、その後数回に分けて少しだけご飯を食べた。3週間前と全く同じ状況になっている。ウンチに下痢の気配は無く、体はとても温かい。歯茎だって綺麗なピンク色をしている。なのに何故・・・

 3日(日)
 3時を最後にご飯を食べなくなったため、先月受け取り自宅に残ってあったビタミン剤と輸液を7時に皮下点滴する。昼近くに起きてカート散歩に出てからは、1回シッコをしただけで今日も16時まで爆睡。16時にやっと少しだけの水分、19時過ぎに少しだけのご飯を食べてくれ、その後も日付けが変わる頃に少量ながらバナナやご飯を食べてくれた。
 ポッキーの今までに無いような口臭が気になり、歯周病が悪化したのかと思い、思い切って口の中(歯と頬の間)に指を入れてみたところ、歯茎に食べかすが付着していることが判った。臭うのはこれだった。今や「絶対に噛まない犬」になっているポッキーだが、長年「絶対に噛む犬」だったため、口の中に指を入れるという発想が今日まで無かった。今までは自分でお皿からお水を飲むことでうがいが出来ていたが、今はほとんど出来無くなったので口の中に食べ物が残ってしまうのだ。そこで急いで歯磨きシートを買ってきた。シートを巻いた指を恐る恐る口に入れるとポッキーは前足をバタバタさせるが、噛むような様子は一切なく、すぐにされるがままに大人しくなってくれた。毎日シートで歯磨きが出来るようになった。あのポッキーが・・・と、再び感動。

 4日(月)
 日付けが変わり、今日はオールナイト。ご飯量は少なく体力は無いはずなのに、根性のように歩こうとして、角にハマってもいないのにひゃんひゃんと吠える。この体力は一体どこから・・・と思ってしまう。
 でも未明から、何故か最後のひと口分は残すが、ほぼコンスタントにご飯を食べてくれるようになりとても嬉しい。

 5日(火)
 午前から昼過ぎまではポッキーにとって夜中なのかご飯を食べないけれど、それ以外の時間なら食べてくれる。

 6日(水)
 14時半から23時までシッコせず。今月になってから一日の水分摂取量750mlを目標に、水はシリンジで量を確認しながら飲んでいて、昨日も今日もある程度の水分は摂っているはずなのに。
 行動はいつもどおり。家で横になっている時はどこを見ているのか判らないような目をしているポッキーだが、散歩に行くとカートから自分で頭を出して周囲を見ている。目線がかなりはっきりしている。papaが写す画像はカメラ目線のことも。やはりポッキーは散歩が好きなのだな、散歩って体に良いことなのだな、と思う。

 7日(木)
 最近では寒い日。日中計3回papaと外に出たが、papaに体を支えられながら歩いたのはトータルで10m位。家では壁に寄りかかりながら立っているのがやっとで、すぐに後ろ足が崩れお尻が落ちてしまう。相変わらず日中はご飯を食べず、朝と夜は食べるが何故かひと口分残す。日中は横になっているか、寝ているかのどちらか。このまま寝たきりになっていくのだろうか。横になっている時間が長いのは皮膚にも内蔵にも良くないと考え、時々車椅子に乗せて立つ時間を作るようにする。

 8日(金)
 午後になり気温が上がり、アスファルトの雪解けが進む。papaとカートで外に出る時間が少し長くなり、家に入ると疲れるのかすぐに眠るが、夜は眠ってはいられないポッキー。
 深夜は「わしゃ、まだまだ動けるんじゃー」と言わんばかりに根性のように歩きたがるが、実際にはほとんど歩けずふらふらしている姿を見ると、今は体力を無駄に使わないでと思い辛くなってきて、興奮しているポッキーを抱きしめて横になる。ひゃんひゃん言いながら足をバタつかせて嫌がるポッキー。でも私は離さない。そのままじっと横になっていると、息遣いは荒いが暴れることを諦めたのか静かになってきて、その後抱っこされたまま寝入ってしまった。起こさないようにそーっと腕を抜き、ポッキーを私の布団に移動させてポッキーの寝顔を見つめる。愛しさしか無い。

 9日(土)
 昨夜からまたご飯量が減っていたが、4時に少し食べた後からまた食べない。なので9時過ぎに自宅で点滴実施。
 昼前にカートで外に出ただけで、その後からは夕方までほぼ爆睡。夕方に起きてから口元にご飯やアイスを持っていくと口をパクパクと動かすが、数口で拒否し終了。ほぼ食べない。また立っていることが出来なくなっているため、カートに乗ったままの散歩(外気浴)は続け、家では車椅子に乗せて立つ時間を作るようにする。

 10日(日)
 今日も朝に点滴実施。未明から日中に水分はシリンジで摂り、食べ物はウェットフードやロールケーキをほんの少ししか食べなかったが、18時になりやっと一定量を食べてくれた。寿命の覚悟をしなくてはいけないかと思っていたが、食べてくれてただただ嬉しい。少し安心してpapaと夜の添い寝を交代したが、23時過ぎには何と、壁に寄りかかってはいるが自力で台所を休み休み1周半も歩いたとのこと。こんなに歩いたのは今月になってから初めてで、しかも足取りは結構しっかりしていたとのこと。papaが撮影した画像を見てもそれがよく判った。こんなにしっかりと立っている(寄りかかってはいるが)姿は久しぶりに見た。

 11日(月)
 未明からはさらによくご飯を食べてくれたとpapaから報告を受けたが、念のため今日も点滴を実施。その後日中もよく食べてくれる。嬉しい、不調を脱出してくれるかもしれない。

 12日(火)
 今日もご飯を順調に食べてくれる。先週末は壁に寄りかかっていても立っていることも出来なかったが、今日は3、4m歩くことが出来た。油断は出来ないけれど、やはり本当に嬉しい。

 13日(水)
 今日も安定。美味しい物を、玉ねぎとチョコレート以外なら何でも食べて欲しいと思い、先月ご飯を食べられなくなった時に買ってきて、その時は拒否して食べなかったコンビニのチーズスフレを買ってきた。バクバクと口を開けて食べてくれる。いい食べっぷり。絶対にポッキーはこれは好きだと思っていたよ。食べてもらえて良かった。3日後の誕生日はショートケーキだからね。

 14日(木)
 順調に食べてくれる。気温も暖かくなってきた。これからは今回のようなことを繰り返していくから、当然寝たきりになるのだろう。暑いのか、暖かくなると今以上にポッキーはベッドで寝るのを嫌がるだろうから、褥瘡予防のジェルマットの購入を考えよう。今はまだ赤くもなってはいないが、お尻の骨だけでなく肩の骨の部分も褥瘡が心配になってきた。来週に今年度の仕事が終わったら時間が出来るので、ネットで探してみようと思う。

 15日(金)
 今日私は午後の外勤がキャンセルになり、夕方には仕事が終わった。こんな余裕のある金曜日はなかなか無い。身体的にも精神的にも余裕を持って明日のポッキーの誕生日が迎えられるのは本当に嬉しいし、良かったと思う。今日が忙しかったら明日も疲れが残って、やることがたくさんあるのに体が動けない、そしてイライラする、で大切な日がバタバタとなってしまう。
 ポッキーは晩ご飯後からベッドでよく眠っている。私は急に時間が出来たので、ポッキーの寝姿をチラチラと見ながら去年からハードディスクに撮り溜めてあるテレビドラマをディスクにダビングする等して夜を過ごし、21時半に起きたポッキーを外に抱っこして出しシッコをさせて、薄め牛乳を飲ませた後に肛門をつまんで小さなウンチを2個出した。

 16日(土)誕生日

 私が布団で寝ていると、ベッドで右上で寝ていたポッキーが、ハーイと右前足を上げて起きるとアピールしたことに気付き目が覚めたため、ポッキーを抱っこして外へ。途中、時計を見ると0時だった。オシッコをするポッキーの体を両手で支えていた私は、半分寝ぼけていたが16日になったことに気付いた。オシッコが終わったポッキーを抱っこしようと前に屈みポッキーの顔に自分の顔を近付けた時に、いつものように「ヨーシヨシ」と言いオシッコをしたことを褒めた後に、ポッキーに「17歳おめでとう」と伝えた。
 家に入り車椅子に乗せご飯を少しあげ、その後肛門を確認したところウンチが下りて来ている気配は無し。この時間からはなかなか寝ないことが多いが、抱っこして私の布団に連れていくと大人しく、ポッキーを腕枕したまま私もポッキーもそのまま寝入ってしまった。
 横で寝ているポッキーが2時前に目を覚ましモゾモゾ始めたので私も目が覚め、再び外に出てシッコ。薄め牛乳を飲んだ後に肛門を確認したところウンチの塊がすぐそこまで下りて来ていたので、指でつまんで小さなウンチを2個出した。その後は眠る気配がなく暫く起きて様子を見ていたらpapaが帰宅。papaはお風呂に入ったりしていたが、papaが帰宅した安心感から私は気付いたらそのまま眠ってしまっていた。
 3時半すぎ、ポッキーが動く気配がして目を覚ますと、横になったり歩き回るポッキーのために私の布団の横に敷いているシーツサイズのパットの上でpapaとポッキーが横になっていて、起きて再びポッキーをシッコへ。その後ご飯と水分、薬の内服。暫く起きていると言うpapaに任せて私は再び布団で寝た。
 音がしたのでポッキーが起きたと思い、起きて隣の台所を見ると、台所でポッキーとpapaが寝ていた。ポッキーをシッコに出して再びご飯、水分を摂らせた後、時間は6時過ぎだったので、papaに暫くちゃんと眠るよう言い2階のベッドに行ってもらった。それから肛門を確認するとウンチが下りていたため、指でつまんで小さな1個を出した。ポッキーはウンチが出るとスッキリするようでその後眠ってしまうことが多く、ポッキーが好きな台所でそのまま寝かせ、私は布団へ。9時前にまたポッキーがシッコに起きると、良い天気で家の中に強い日差しが入り、すっかり明るくなっていた。私は起きて新聞を見ながらコーヒーとコンビニのホイップクリーム入りのパンを食べ、週末の大掃除を始めた。日差しが強く室内は結構暖かくなってきたのでファンヒーターを消したが、消しても十分に暖かかった。春だ。ポッキーはそのまま台所に敷いたマットの上でよく眠っていた。

 11時、私が掃除をしていると眠っていたポッキーが右前足をハーイと上げた。私が抱っこして外に出すとシッコ。ポッキーと家の中に入り、階段の下から散歩に行ってと言いpapaを起こした。papaが起きてくる間に、車椅子に乗せてご飯と水分をあげた。今日も普通に食べてくれる。そして車椅子から下ろし、床に座って抱っこしたポッキーの口を拭き、papaを待ちながらポッキーに、お誕生日だね、ありがとうね、と伝えた。そして、17歳だね、ポッキーのお母さんはさすがにもう生きてはいないだろうけれど、男の子はお母さんに似ると言うからきっと長生きだったのだろうね、と話しかけた。私が顔を近付けて一方的に話をしているから、ポッキーはちょっと迷惑そう。
 11時半前、ポッキーはpapaと散歩へ。今日も自宅前の乾いた道路で少し歩き、カートに乗って移動。カートの中でポッキーは首だけ出して景色を見たり、下りたいアピールなのか時々ひゃんひゃんと鳴いていた。
 私は掃除をしながら今日の自分の行動を考えていた。ポッキーが散歩から帰ってきたら掃除は途中だけどそのままにして、papaに留守番をしてもらって去年のクリスマスにも買ってポッキーも少しだけ食べたケーキを買いに行こう、それから掃除をすれば夕方までにはゆっくりできるだろう、と。

 ポッキーが散歩から帰って来たようで外からカートの車輪の音が聞えた。するとpapaが玄関から、ポッキーがカートの中でオシッコをした、と言った。カートの中でオシッコをしてしまうことは今までにも何度かあったが、えー、11時にある程度の量をしているのにまた?んあー、洗濯の回数が増える。・・・でもまあ、今日は土曜日だから時間があるからまだいいか、平日では無かったのが良かったと思わなくては、と私は考えていた。
 papaがポッキーを抱っこして家の中に入ってきたが、ポッキーのお腹がよく見え、まだチョロチョロとオシッコが出続けていた。私は「まだ出てる、出てる」と言いpapaに急いでそのまま外に出てもらい、体拭き用の大きなウェットシートを持って私も外に出た。オシッコはもう止まったが、私がお腹の周りを拭き、papaにもう少しポッキーを抱っこしていられるかと聞くと大丈夫だと言うので、私は急いで家に入って体拭きシートをケースのまま持って来て、丁寧にポッキーのお腹や内股を拭いた。この間の時間、多分1分程度だったと思う。
 先に家に入ったpapaが床にポッキーを寝かせたが、後から家に入った私は一瞬ポッキーの頭が見えず少し焦った。ポッキーは今年になってから首が座っていないようなぐんにゃり状態になることがあるため、また首があらぬ方向に曲がってしまったのか、首が折れたら死んでしまうと思い、すぐにポッキーの姿を確認した。近寄ってみると首が変な方向に曲がっているようなことは無く目の錯覚だったかと思ったが、ポッキーの頭の位置を少し直し、辛くないかな、大丈夫かなと思いポッキーの顔を覗き込んだ。
 しばらく、と言っても十数秒も経っていないと思うが、ポッキーの顔を見ていると、大丈夫と確信が持てず何かが違うと思えてきた。何かが、何かが・・・。ポッキーの顔をじっと見る。…息をしていない。
 え?え?と思い、ポーちゃん!と声を掛ける。反応が無い。papaに、息をしていない!と言いながら、ポーちゃん、ポーちゃん、と声を掛ける。胸に耳を当てると早い鼓動が聞こえる。まだ動いている。私はあたふたとするだけだったが、ポッキーが息を吹き返さないかと口元を下から覗き込んだ時、上からは見えなかったがポッキーの小さくなったような舌が口から少し出ていて、舌の裏の色が見えた時、ポッキーは既に呼吸を止めていると解った。心臓の音も聞こえなくなった。
 この時ポッキーは左上で横になっていたが、右目と違い潰瘍が無い左目はいつも綺麗に澄んでいて白くなることは無かったのに、左目が少し白くなっていると後で思った。私が何かが違うと思ったのはこの目かもしれない。
 私は我に返り、ポッキーが逝く時には不安にはさせないと決めていたことを思い出した。ポッキーを上から抱えながら私の口から出てきた言葉は、ポッキーでかした!よくやった、よくやった!頑張った!だった。
 去年から体が思うように動けなくなってから、本当に毎日頑張っていたから。与えられた命を、最後まで目一杯頑張って生き抜いたから。ポッキーは褒められることが本当に嬉しくて、噛み噛み全盛期に鎮静剤トリムをした時に、鎮静剤がまだ効いていて意識がはっきりしない中に「ポッキー偉かったね」と褒めたら、シッポだけが軽快にポンポンと左右に動いていて、ちゃんと私の声を正しく聞いていて喜んでいたから。

 私たちが気付いた時には、正午が過ぎていた。
 何で誰もすぐに気付けなかったのだろうと思い、後でpapaに聞いたら、体拭きが終わり玄関から室内に入る時に、後で考えるとなんだか急に抱っこしているポッキーの体が重たくなったように感じたとのことだった。


 時間の経過とともに、絶えず頭の中に後悔が押し寄せる。papaの話では家に着いた時までは本当にいつも通りで、カートの中から抱き上げる時にはポッキーは頭を動かしてpapaを見上げていたらしい。
 抱っこなんてしなかったら良かったかもしれない。オシッコでカーペットや体が濡れるなんて大したことないのに、あの時私は何故外に出させてしまったのだろう。そして気付いた時に人工呼吸をしていたら、心臓が動いていたのだから息を吹き返したかもしれない。何故出来る事をしなかったのだろう。
 でも、papaが抱っこしながら腕でポッキーの頭を支えていたから気管が塞がるようなことは無く、苦痛な体勢では無かったように思う、思いたい。そして私が人工呼吸をしたとしても息を吹き返すかどうかは判らず、人工呼吸をして吹き返さなかったらそれはそれで静かに自然に逝かせられなかったと思って後悔するだろう。
 一日一日が必死だったので忘れてしまうが、よく考えたら先週は点滴をするような体調だった。でも1週間前までは体調は良くなかったけれど、それでも今日は体調はいつもどおりだった。ご飯も食べ、排泄もしていた。ただ、オシッコがダラダラと出続けたのは変調だったのかもしれないし、よく考えたら散歩の出発前に私はご飯を食べ水を飲んだポッキーの口元を何度も拭いていて、papaも言っていたが歩行中は下を向いているからということもあるが、今日は歩きながら道路に水のような涎がポタポタと垂れていたとのことで、いつもより涎が多かったかもしれない。でもそれは変調なのかは全く判らない。今まで呼吸が苦しそうになることは無かった。去年から、今年になっても横になっている安静時に何度か一瞬口が小さくパクパクパク・・となることがあったので癲癇だったのかもしれないが、それ以上のことは無かったので判らない。

 私が望んでいた17歳の誕生日を迎えてくれたポッキー。でもクリスマスにも少し食べたショートケーキを、誕生日にはもっと多く食べてもらいたかった。それを楽しみにしていた。せめて誕生日1日をちゃんとお祝いして過ごしたかった。それに来週には今年度の仕事を終えたら暫く休みになるので、その期間は仕事や時間を気にせずにポッキーの事だけを考えて毎日ずーっとポッキーと一緒に過ごせられると楽しみにしていた。年が明けてからはそれを励みに仕事を、毎日を頑張ってきたのに。ゴールデンウイークだってそう。今回は期間が長いからまた一緒にいられるし、ポッキーの体調が落ち着いているようだったら1泊で私が帰省も出来るかもしれないとさえ思っていた。そしてもう車内で大騒ぎすることはないと思うから、初夏になったら数年前から行きたいと思っていたハマナスが咲く公園に行きカートで散歩したいと思っていた。この冬が越えられるかどうかと考えてはいたけれど、それでもポッキーは寝たきりにはなるが18歳も迎えられるのではないかとさえ思っていた。


 北海道に移住した17年前の5月4日、車でS市に行った。小熊のようにモコモコで真ん丸で顔が真っ黒で、この子は本当にボーダーコリーなのかと一瞬思ったポッキーは、プルプルと震えながら私に抱っこされてから、震えが止まったら私の顔を舐め、私の肩や頭によじ登ろうとしてもがいていた。気に入ったら迎える、ということで会ったポッキーだったが、抱っこした私はもう連れて帰らないという考えは無かった。ポッキーは小さな箱に入り、私がそれを抱えて街中を歩き、車で家に連れてきた。16年前の12月から突然のように噛み噛みが止まらないワンコとなり安楽死を考えたこともあって、正に血と涙の紆余曲折があったけれど、16歳になる前には14年間の噛ませない生活が功を奏し、私たちの事を全面的に信頼してくれ、介護をさせてくれた。噛み噛みが止まらない時間の方が圧倒的に長く、噛まれる恐怖で息が詰まることが数え切れない程あったが、そんな中でもあちこちにたくさんお出かけをして、家での生活の中でも、楽しい事、嬉しい事、幸せな事だらけだった。そして今や私にとっては、介護が必要になり私たちを信頼してくれてされるがままの1年2ヶ月間のポッキーが、ポッキー。

 ポッキーには感謝しか無い。私に、生き物には個性がありそれぞれが尊重されるということを、生き物が生きるということを、目の前で全身で教えてもらった。わたしにとって、何にも代えられない唯一の大切な存在。
 いつか、私もポッキーと同じように与えられた命を全うすることで、思っているよりも案外すぐに、再びポッキーと会えることを心待ちにしている。ポッキー大好き。何度言っても言い足りない、ポッキー大好き!


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