狸 はんだぬき 専称寺昔物語

 むかし、むかし、近江坂本の八木村の専称寺に、お酒のすきな和尚さんがおったそうな。坂本の辺りでは狸がよく出て、人を化かしては、食べ物をもって行った。今日もそのことで、村人が『秋なのに食べものが無い。今年は不作だ。狸をどうしたらいいのか。』と相談するようになりました。      
 そんな時に比叡山には大きいが力が弱いおとなしい狸がいた。狸は、『わしも山からおりて、人を騙して食べ物を貰ってくることにしよう。』といって八木村へ向った。日が沈む頃、村のほうに向って歩いているとと、山道を歩く人の姿が遠くにみえた。狸は化けようと変身の術で、怖そうな侍になった。前から来た人は、八木村の専称寺の和尚だった。和尚さんの前に急に飛び出した。胸をドキドキとさせて、強そうな格好で、『おい、何か食べ物!を持っておらぬか、持っておらぬ場合は、この刀で殺すぞ!』と大声で言った。和尚さんは驚いて、腰を抜かしてこけてしまった。やっと立ち上がると、『寺の方まで来て下さるなら、おもてなしを出来ますが、今は何も持っていません。来て下さるかな。』といった。狸は腹が減っていたので、『では、所望にあずかろうかな.』と言って、和尚さんの前を大威張りで、歩きだした。和尚さんも侍の後について歩きだした。ところが侍の後姿を見ていると、侍の足の間からしっぽが、見えていた。よく見て見ると、強そうな侍の姿をしているのは、上半身だけだった。下半身は狸のままであった。和尚さんは、狸の正体を知ったが、ちょうど芋酒があったので、晩酌の相手にしようと、狸と楽むことにした。

      問:あなたのたぬきはどこ?   答えは「あな」

 やがて、八木村の一向山専称寺についた。和尚さんは狸を部屋に案内すると、すぐに和尚は、狸の好きな芋酒でもてなした。そしてお供えの柿をだして、侍の手柄話しを聞いた。『わしは、藤原道長の末裔で、源氏の方に味方し、壇ノ補の合戦では、源義経の手足となって働いた。その時は、この刀で何十人もの平家の侍をやっけたぞ!』としっぽを振りながら、話しだした。….
 『そして、足利尊氏を助けて、幕府を開かせたのもこのわしだ...』などと、得意そうに話しが続いた。すっかり気分の良くなった狸は、『わしは、これで屋敷に帰らねばならないから失礼したい。また来るから、その時はよろしくな』と言って立ち上った。和尚さんは、しっぽを振りながら帰る狸侍を見ながら、『次は、もう少し居て下され』といって、門まで見送った。狸侍は楽しそうに、『月が出た、ポン。星が出た、ボン…』と歌いながらたち去っていった。
 一方、八木村の中では、『権兵衛さんとこの畑はどうじゃな、わしの所はせっかく少し出来た芋は狸にやられてしもうた。どうすればいいのかな。』彦兵衛は、『権さん、うちも近所の畑も全部やられてしもうた。』『今年は、日照り続きで、どこの村も不作で、食べ物が口に入らない。なんとかしないと、皆な死んでしまうぞ。』『 村のみんなと相談じや !』といって、翌日村人を専称寺に呼び集めた。狸がかわいそうと言う意見もあったが、村人は狸狩りをすることに決定した。
 そこで村人たちは、狸の化ける術を見破る方法を和尚さんに聞きに来た。和尚きんは古い狸に関する巻物を取りだすと、その中に狸と人の見分け方をが記してあった。翌日村人たちは、『おい、人の後に回って、影を踏め、狸なら痛がるぞ』と言いながら、今日も化かしに来る狸を見破っては殺しました。悪ふざけ好きの狸たちは、次々と殺されて行きました。
 夕方和尚さんは、村の出来事を聞いて狸が可愛いそうと思っていると、前の方から昨日の半狸が、侍の格好で偉そうに歩いて来た。『和尚、今日もやっかいになるぞ。』と言うと本堂にあがった。和尚さんは、侍を先日と同様にもてなした。侍は先日と同じ味話をした。『わしは、藤原道長の末裔で、源氏の方に味方し、壇ノ浦の合戦では、…』話しが終り頃に、村人が訪ねて来た。和尚さんは、すぐ半狸を奥の部屋隠し、玄関へ出た。
 彦平衛さんたちは、『和尚さんわしらは今日狸狩りをした。狸をずいぶん殺したので供養をして下さい。』、と言った。和尚さんは『これから、本堂でお参りをしましょう。』と言い、本堂で狸の供養をした。和尚さんはその後、『みんなで狸を埋めた所にお地蔵様を安置して下され。』と言った。『.可愛そうだから、みんなでそうしよう。』と言って、それぞれ家に帰って行った。
 今日あった出来事を知った半狸は、村人の帰ったのを確かめて、『和尚、わしはこれで失礼する。』と和尚さんに言った。和尚はちょっと待たし、半狸の好きな芋酒を花瓶に入れ、御供物を風呂敷に包んで、『これを持ってお帰りなされ。これからは、人の前に出る事の無いようにな。』と言って、.涙ぐみながら半狸を送り出した。半狸は、何度も振返りながら、手を振って比叡山の方へ帰って行きました。
 それから数日後、八木村のあちらこちらにお地蔵様が安置されました。今でも地蔵盆には、坂本地方では色の変わった前掛けをして、お地蔵様を大切にする習しが続いるそうな。
 日が経つにつれ、いつの間にか比叡山が雪で白くなった。夕方、和尚さんが法要から『今日は寒いなあ。半狸は元気かな。』と思い出しながら帰って来た。すると本堂の前に花瓶と山の木の実や山芋が風呂敷に包まれて置いてあった。和尚さんは半狸が元気でいることを喜び、安心した。和尚きんはいつも芋酒を飲む時には、『月が出た、ポン。狸が出た、ポン。・・・・・・。と歌ったと伝えられている。                          おわり

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