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*afternoon*
風が穏やかな昼下がりだった。
太陽が人々の影を、一番縮める時間帯をやっとすぎたカフェの店内は静かで
彼にとっては貴重な読書の時間を与えてくれている。
さっきまでカフェの店員の青年が、欠伸をかみ殺しながら
退屈そうにカウンターに座っていたが、いつの間にか厨房の奥に姿を消したようだ。
マスターが買い出しにでもいったのを良いことに、こっそり昼寝でもしようと企んでいるのだろう。
その理由がなんにせよ、自分の周囲が静かであることは、普段読書の時間をことごとく邪魔され続けている
その少年、ユージンにとってありがたいことだった。
いつも頼んでいるソーダ水をカウンターの上においたまま、ゆっくりまた次の1ページを開く。
白いページの上に連なる文字は自分に新しい知識をもたらしてくれ、抵抗なく入り込んでくる新しい情報に
視線を滑らせながら、また次のページに指をあてがう。
そうしてまた、ペラリと紙がめくれる音が静かなカフェに響いたときだ。
その音よりも少し大きな音を立てて、カフェの扉があいた。
入ってきた人物に、ほんの少しだけ視線をやる。
そしてその見知った姿に、ページをめくろうとしていた指が一瞬止まり、でも視線は本へと戻した。
入ってきた人物は、そんな彼の様子に気付いているのかいないのか、ニヤリと笑ってユージンのそば、
彼から1つ席をあけたカウンターの一席に腰を下ろす。
「…よう」
いつもの、どこか悪戯っぽい感じを含んだ声に、ユージンは視線をもう一度あげてその声の持ち主を見る。
…同級生のセズ。
「…ああ」
そのままそっけなく挨拶を返し、また視線をページへ落とした。
セズの方は別にそんなユージンの態度を気にするふうでもなく、いつものようにちょっと笑ってから
ユージンの向こう側の窓の外を見やる。
窓の外は晴れ…。
風が揺らした木々の間からこぼれる木漏れ日が、暖かな土の上に自然な模様を映し出していた。
少し開いた窓から、柔らかな風が入ってきて2人の髪を撫でていく。
「そんなに本ばかり読んでいて、面白いか?」
セズの言葉は、自分以外に人がいないカフェの中で、もちろん自分に向けて発せられたものなのであり。
「ああ、少なくとも、下らない大騒ぎに巻き込まれているよりはよっぽど面白いね」
ユージンは文字を追ったまま、相変わらずの減らず口で答えた。
セズがそんな返答にクスクス笑うのもいつものこと。窓枠に反射した日の光が、ちかっと光る。
「…暇だな、洋館にでも行ってくるか…」
今度は誰に言うでもない感じで、セズがつぶやく。
少し離れたところにある洋館は、生徒達の練習試合に使われているような廃虚だ。
「あんなところ、いったところで面白いものがあるとは思えないけど」
ページをまた1ページめくりながらユージンもまた独り言のようにつぶやいた。
セズはニヤリと笑う。
「わからないぜ、いってみたら案外面白いものがあるかもしれないだろ」
「そうは思えないね。せいぜい、どこかのコースの生徒同士が慣れない魔法を使ったりして
暴発させてるのを見れる程度だろう」
「キヒヒ…そうかもな」
そうユージンの言葉を肯定しながらも、セズは席を立ち上がる。
それから…チラっとユージンの方を見下ろした。
彼のページをめくる指先と、文字を追う視線を見やり…でも言葉では何も言わない。
セズの視線と、その間が、自分以外の誰かが、自分と一緒に行くかどうかを
見定めているのがわかったけれど。
ユージンがその視線に気付きながらも何も言わず、視線も本からはなさないのを見て
セズはカウンターを離れた。
本来ならば砂の上を歩くのに適したブーツの踵が、床に音をたてて扉の外側へ行こうとしたときだ。
「行ってやってもいいけど?」
視線はまだ、あくまでページの上にあずけたまま、ユージンの声が言った。
床に鳴っていた、がつがつというブーツの音が止まる。
「…どうせ、洋館なんていっても面白くもなんともないけど」
しれっと、興味の無さそうな声。
しかしその返答に、扉の前のセズは肩をふるわせてキヒヒヒといつもの笑い声を響かせた。
ユージンはそこでやっと、少し睨む感じで顔をあげてセズを見る。
可笑しそうに笑う同級生の姿は、彼の癖だとわかっていてもどこかなんとなく
イライラさせるところがあるというか。
ユージンが、やっぱり視線を本に戻そうかと思ったとき
「ほら、はやくしろ…おいてくぜ?」
…セズの声が自分を呼ぶ。
「………ちっ」
うつむいて舌打ちしながらも本を閉じて。
2人分の足音がカフェを出ていき、穏やかな昼下がりの店内に、珍しくお客の姿が1つもなかった。
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