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*a twin* マヤとミキは双子だった。 何も違わなかった。 それなのに、2人がそれぞれ働きはじめて少しして、ミキが病気にかかった。 まるで夢か何かのように蝕まれ、ミキはそのまま、何かの冗談のように 死んだ。 1人になってから、マヤはよく夢をみる。 こっちへ来てと。 2人が一緒に育った実家は、一言でいうなればまあ、田舎と言って問題ないだろう。 その山の中腹に、神社がある。 駄菓子屋でお菓子を買って、2人分の小さな足音がこの石段を駆け上がっては そんなことを考えながら、1人分の女性の足音が、ゆっくりと石段を上がる。 ミキは滑り台が好きだったのだ。 2つ並べて釣り下げられたブランコの片方に、マヤが1人で座る。 空は青い、そして水色になり、紅をまとい、紫にそまって紺を着て、やがて闇になる。 手を繋ぐのだ。 連休で会社が休みになり実家に帰ってきて、1人で神社に向かおうと思ったことに理由はない。 キィ、キィ、キィ、と音をたてるブランコ。 そして、もう片方には誰も座っていない。 風もないのに ゆっくりと 揺れ出す。 キィ、キィ、キィ、キィ。 マヤは隣を見た。 「…ミキちゃん?」 マヤは、声に出して呼び掛けた。 『…ヤちゃ…』 『マ…ちゃ …ん』 『…マヤちゃん…』 初めは風の音かと思ったのだ。 しかしそれは自分の名を呼ぶ声。 うっすらと影が浮かんだ。 『マヤちゃん…マヤちゃん…』 ミキの声を忘れるはずもなく、聞き間違えるはずもなく ブランコをゆっくり揺らして、こっちを見ている。 『マヤちゃん… あたし マヤちゃんとずっと一緒だったよね…』 ミキの声は静かで でも確かな存在感があった。 『あたし マヤちゃんと一緒じゃないと 寂しいんだ…』 マヤはミキを見ていた。 『ねえ マヤちゃんも あたしがいないと寂しいでしょ ねえマヤちゃん』 ゆっくりになって、ゆっくりになって、やがてミキのブランコは止まった。 「…ミキちゃん」 『ねえマヤちゃん… ねえ あたし… 死にたくなかったの』 つぶやくように。 でもそれは確かに悲しみと…そして…憎悪にも似たものが含まれた声。 彼岸花に似ている。 ミキの手が、マヤの肩に触れる。 『ねえ マヤちゃんばっかり、ずるいよ。 あたし達ずっと一緒だったじゃない…』 『…あたしとマヤちゃん 一緒だったじゃない…』 肩におかれた手が、ゆっくりとマヤの首に移動していく。 『マヤちゃん なんで…?』 『なんで あたしだけ 死んだの…?』 『マヤちゃん ずるいのよ… 一緒にいたじゃない…』 いつの間にか手は両手になっていて、次第にその両手に力が込められていった。 その両手を自分の手で引き剥がそうとして、マヤは、ミキの手に触れられないことに気付いた。 『マヤちゃん… 一緒にいてくれるでしょ…?』 『これからも 一緒にいてくれるでしょ…?』 『だって あたし達 ずっと一緒じゃない…』 ミキの声以外が聞こえなくなっていく。 さみしいよ さみしいよ さみしいよ さみしいよ さみしいよ さみしいよ さみしいよ マヤちゃん さみしいよ いっしょにいたでしょ マヤちゃん いっしょよ ねえ いっしょよ それは流れ込んでくる思い。 赤く 目の前に広がる彼岸花。 ずっとそばにいるミキ。 ずっとそばにいたミキの そばにいたミキが そばにいた ミキ。 自分だけが生きている。 自分だけがここにいて、そして生き残っている。 自分にはあるこの体が、ミキはもう、小さな壷に入るほどの灰となった。 自分だけ生きている。 流れ込んでくる思い、寂しさ、苦しさ、せつなさ、遣る瀬無さ。 1人だけ切り離されて、闇へと投げ出された行き場のない怒りと 自分への 優しさ。 「ミキ…ちゃ ん」 マヤが 搾るように出した声は、もはや声とも呼べないような呻きだったかもしれない。 「ミ キ ちゃ… ん」 「ごめ…ん ね ミ… キちゃ ん」 「あた…し …あた し ば…っか り」 「あ た…し ミキ ちゃ… いない と ダ… メな… の に ね」 目の前はもはや、色など無くしていた。 マヤの 本当の 気持ち。 「ミ キ ちゃ ん」 「いっ しょ に いる よ…」 「あ た し も ミ キ ちゃ んと い っしょ が いい」 ふいに、首を強く締め付けていた力が消えた。 マヤは、自分が死んだと思い、そしてそれが間違いだと次の瞬間に気付いた。 自分がブランコから地面に倒れ込んだ感覚を知ったからだ。 …自分の頬の上に水がおちる。 さっきまでマヤの首を絞めていた、ミキの瞳からこぼれおちている。 『マヤちゃん』 『マヤちゃん マヤちゃん』 『ごめんなさい マヤちゃん』 ミキの声がきこえる。 『ごめんなさい ごめんなさい』 『あたし さみしかったの』 『あたし くやしかったの』 『なんであたしばっかり死んだのかって あたし あたし たえきれなかった』 後から後から、倒れたマヤの上に降り注ぐ、雨。 『あたし マヤちゃんと一緒じゃなきゃいやだったの』 『でもあたし わかってる。 だって マヤちゃんはなんにも悪くないんだもん』 小さい頃から、マヤより、ミキの方が泣き虫だった。 いまもそこにいるのは、確かにマヤの知っているミキなのだ。 「ミ… キ… ちゃ…」 『マヤちゃん ごめんね ごめんね』 『あたし もう こんなことしないから』 『あたし もう マヤちゃんのこと 引きずり込んだりしないから』 ブランコの音が戻ってくる。 『マヤちゃん』 『マヤちゃん だから これだけは 今も変わらないから お願い』 『お願い 信じてね お願い マヤちゃん』 遠ざかる声の中で。 確かにそれは マヤの双子の片割れの ミキの声で。 確かにはっきりと 頭の中に響いた その声は 『マヤちゃん ずっと 大好きよ… 』 そうして 消えた。 最後にどんな顔をしていたのか 見えなかった。 どのくらいの間倒れていたのかわからない。 しかしマヤは、ただただ 闇に染まっていく神社の錆び付いたブランコの前で 彼岸花は 赤く赤く 静かに そこに咲いていた。
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