* grumble *

 

『…も、ヤダ』

ベッドの上においたノート型の液晶の光が、うすぐらい室内でちかちかした。
デジタルのカレンダーはさっき日付けが変わったばかりで、ちょっと手をとめて…
それから、簡単に3文字だけ打つ。

【なんで】
『だってうまくいかないんだもん』

文字だけど。文字だけなんだけどわかる。拗ねた態度。

【誰かとけんかでもしたの】
『そんなんじゃないもん。 うまくいかないの』

羅列していくいじけた文字に、キーボードを叩くカチカチという音が答える。

【何がうまくいかないの】
『わかんない。 でもうまくいかない。 レポートもおわんないし』
【学校か、バイトでヘマでもやったの】

そうたずねると、しばらく返ってこない返信。
ちょっとだけ途切れて、また並ぶ文字。

『…ちがうもん』

違わないんじゃん。 何か失敗したんだな、とすぐにわかる。
だいたい分かりやすい性格は、ずっと変わらない。 単純で表に出やすくて。
だけどそんなところが嫌いなのかと言われると、別に嫌いなわけじゃなくて。

『…なんでこうなんだろ』
【いじけるなよ】
『いじけてない』
【うそばっか、いじけてるんじゃん】
『いじけてないって言ってるじゃん』
【意地っ張り】
『バカ』
【バカはそっち】

そんなどうでもいいやり取りが何度も何度もスクリーンにならんで、やがて疲れてうんざりして
それでも文字は並んで、やっぱり会話は続いて。

『…どうでもいいよ、もうアキなんかこの、わかってないくせに言いたい放題言って』
【マナが悪いんじゃんよ、らしくもなく凹んじゃってなにさ】
『らしくなくて悪かったわね! どうせアキと違って鈍いです!!』
【それだけいろいろ言えるなら元気なんじゃんよ】
『うるさいうるさいうるさーい!!』

それから、またしばらく、静かになって。

『……そっち、いっていい?』

デスクトップがちかちかして。

【いいよ】

最初と一緒で、簡単に3文字だけ打つ。

パソコンのチャットの窓は閉じられて、しばらくしたらインターホンが鳴った。
鍵をあけるとそこにはマナが立っていて、つかつか部屋に入ってきて、アキのベッドに寝転がる。

「…ちゃんと鍵、しめてきた?」
「しめた」
「…明日ゴミの日だよ」
「わかってる、すぐ出せるように玄関のとこおいてきた」
「ちゃんと朝おきてゴミ出しなよ」
「同じアパートなんだから大丈夫だもん」

…隣の隣の部屋の住人は、それだけ言うと、黙って…
しばらくして、規則的な寝息がきこえてきた。

直接でも、言えるくせに。
なんでわざわざパソコンで、回線つないで愚痴るのよ。

ちょっとマナを見たら、だいぶひいたみたいだけど…目元が赤くなっていた。
きっとさっきはもっと赤かったんだ。 すぐにそのことがわかるくらい。
……見られたく、なかったのか。

「…意地っ張り」

言って、アキも隣に寝転んで、目をとじた。

(SS−26 パソコン)

アキとマナは大学生で、同じ中学、高校から同じ大学へ進学した腐れ縁の友達同士。
しっかり者のアキに対し、感情が表に出やすくて子供っぽいところもあるマナだけれど
アキはやっぱりマナのことがきらいじゃないみたいです。
  

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