* rain *

その日も、やっぱり偶然だったんだ。

いや、よく考えてみれば俺があの人に会えるときっていうのは…全てが偶然のような気もする。

でも…最近俺はその偶然を待っている。
自分でその偶然を作りたいとさえ思って…あちこちでその姿を、無意識に探してたりも、する。
だからそのときも、それは神が与えてくれた偶然というやつなのか、それとも
無意識に俺が探した偶然なのかは、ちょっとどっちかわからなかった。

雨の降り出した図書館前で。

本を返した俺が、閉館間際のそこから出ていこうとしたとき、入り口にその姿を見つけたんだ。
雨の降る空を見上げながら、立っているその姿を。

「あ、透太くん」
振り返って俺に気付いて、にこって笑いかけてくれる。

「雨宿り、ですか」
「うん。はは…つい遅くまでいたら、降り出しちゃった」
そう答えて肩をすくめる彼女。
並んで立つと、俺よりも少し背が低い。

「透太くんは? 勉強?」
「あ、いえ…ちょっと借りてた本を返しに来て」
「そっかあ。お互い傘なしだねえ」

クスクス笑って俺の顔を見てる。

こんなふうに2人でいるときなんて滅多にない。
偶然がいくつも重ならなきゃ、こんな状況ありえない。

こういうときじゃなきゃきけないこととか、こういうときじゃなきゃ言えないこととか
いっぱいあるはずなのにな、出てこないもの、口には。
うまく言葉にならなくて。

「先輩は写真部ですよね、こないだのコンクールでの入賞おめでとうございます」

「姉からときどき、先輩の話きくんですよ。猫が好きだって姉からききました。うちにも
 猫飼ってて、俺も猫って好きで」

こういう世間話なら出てくるのに。
違うだろ 言いたいことは。 違うだろ ききたいことは。

先輩

伊勢先輩

卒業したら、留学するって、本当、なんですか。

きけるわけない。
2人きり、目を見てなんて。

降り出した雨の中。
うん、と言われるのがこわくて。
会えなくなるのが 遠くなるのがこわくて。

「ん、どうかした?」

降り続けている雨を眺めていた横顔が、俺の視線に気付いて振り返る。
俺の考えてることなんて当たり前だけどわからなくて
きょとんとして、笑って俺の顔をのぞきこむ彼女。
優しくて、綺麗で、指先熱くなる。

だから そんなの言えるわけない。

会えなくなるなんていやです なんて。

だから だから 言えるわけない。

あなたのこと …、  

……言えるわけ無い。

(SS−95 雨宿り)

男の子は浅岡透汰、2年A組、陸上部所属。
女の子は伊勢梓、3年D組、写真部所属。

この2人も、元々長いお話の登場人物です。
1つ年下ですが、ちょっともどかしい感じの透汰なわけで。

戻る