*sugar*

甘いものは頼まない。
いつものことで、だからやっぱり今日も頼まない。

たまに一緒にくる友達は、平気で甘いカスタードパイを頼んだりするけど、私はそれを見てるだけで
十分口の中が甘くなるような、安い視覚と味覚をもっている。
でもそんな彼女は、今日は部活があるから一緒じゃ無くて、自分は1人でコーヒー1つ。

小さなカフェの一角に陣取りながら、それに砂糖を1つ入れる。
無言の宣戦布告は、すぐにその苦さの中にくずれて溶けてく。
小さくて四角いだけの角砂糖は、この闇色のコーヒーの前にはあまりにも無力だった。
銀色スプーンに加勢されたら、もう形も残らない。

私の気持ちもそんなもの。
きっとそう。

ドライとまではいかないと思うけど、そんなに甘いほうじゃないと思う。
いろんなことにこだわらない、けっこうあっさり、気持ちは消えて。
スプーンでまぜたら、見えなくなるし。
今までずっと、そうだったのに
それでもなぜか、ここへ、通っている私。

「で、また甘いものは無し?」

どうしてこう、タイミングがいいの? というか悪いというか。
声に顔をあげたら、通ううちに顔を覚えて、名前も覚えたここの店員がいる。

仕事中でしょ、と時計を見たら、休み時間で
私の前に仕事の姿のままでさらりと座って、屈託ない顔で笑ってる。

こんな私みたいな無愛想な女子高生、相手にしなくて別にいいから。
そんなふうに思いながら、コーヒーの中の砂糖をかき回す。
もう砂糖は溶けて消えてるってわかってるのに、でも
ここには、かき回しても、かき回しても、消えていかないものがあって。

「たまには食べてみない?」

そんな私の思いもなんにも知らずに、さらりと言ってのける。
出会ったときからそうだけど、誰にでもそうなの?
でも不器用そうな人。 そうそう女のコを引っ掛けてるタイプじゃなさそうだよね。
前髪、寝癖がついたままだし。

「うちのお店のケーキ。自慢の逸品なんだけどな」

甘いものは好きじゃ無いって、前にも言ったはずなのに。
彼は私の顔を見る。

「…どう?」

屈託のない笑顔。
寝癖のついた前髪。
ケーキみたいな表情。

甘いものは好きじゃない。
だからいつも頼まない。
それでもなぜか、角砂糖みたいな気持ち。

そういうふうに思うから、たぶん… たぶん、…そういう気持ち。

この気持ちも、砂糖のように まぜたらいつかは消えてしまうものなのか…
いまの私にはまだ…
まだ…わからないけど…

「…チーズケーキ 1つ」

頼んでみるのも、悪くはないかも。

でも、甘さはひかえめで。

(SS−08 スイート)

カフェに通う女子高生。
最初は友達に連れられてきたこのお店ですが
そこにいた、大学生のバイトのお兄さんと顔見知りになりました。
以来、友達がこない日も、なんとなく、来ちゃうんです。
甘いものは…まだ苦手。

戻る