|
* the throne *
眩い光の中で、きらびやかな王座
多くの大臣や召し使いを従えて、優雅な生活を送っている。
美しい絵画、高価な宝石、素晴しい料理。
誰もが憧れて止まぬ世界のその中心。
その場所で、彼女は知っていた。
自分は ただの人形なのだと。
自分は ただの飾りなのだと。
それはまるで つくりものの花。
何時におきて、何時に食事をし
何時に誰と謁見し、何時に何処を訪問する。
正確に定められたそれらの中で、何人ものお付きに従われて
言われた通りのドレスを着て、言われた通りの笑顔を作り。
いったい何の意味があるのだろうか。
いったい何の価値があるのだろうか。
それでも私は従うのよ と彼女はつぶやく。
それでも私は従うの
なぜ死んでしまったの お父様 お母様
あの若さで王位につくとは なんて立派だなんて誉められても
全然うれしくなんかない。
途絶えぬ求婚の手紙はみんな
彼女の地位と財力、名声を狙ったもの。
もちろん彼女に興味など微塵もなく、焼き払われる手紙。
何百人といる召し使いの いったい誰が彼女のことをわかっていようか。
家庭教師? 料理人? 庭師?
誰もみんな 彼女に近付こうとすらしていないというのに。
眩しい王宮の中、夜中に自分の部屋でやっと1人になれれば
ただ明かりを消して、静かにその空気を感じるのである。
王宮の明かりは、私には眩しすぎるのよと彼女は言った。
何もかもがきらきら光って
それはたとえ本物であってもまるで玩具のよう。
よく見てよ、私には似合わないわ。
それよりも地下なんかどうかなと 彼女はまた言った。
階段を降りていけばそこは王宮のきらびやかさとは程遠い
埃っぽくうすぐらい空間。
湿っぽく陰気で、ところどころに蜘蛛の巣がはっている。
そうね、そうよ そういうところがきっと似合うんじゃないかしら。
彼女の言うことは、正しいのかもしれなかった。
生きている花は そんな太陽の光があたらないところでは生きていけない。
でもそうだ。
つくりものの花なら生きていける。
そうよ 私にぴったりじゃない。
こんなドレスいらないわ。
お世辞なんかもまっぴらよ。
求婚だなんてちゃんちゃらおかしい。
そう それは私にとっても似合っているの。
ふわりとするシルクスカートのフレアは蜘蛛の巣。
きらきら輝く宝石の指輪は灰色の石ころ。
髪飾りには さあ針を。
靴のかわりに さあ水を。
その指先からゆっくり注ぎ
とくと召し上がれ紅きワイン。
冷たき階段 手をとり招き
白く硬い 口をきかぬ骸骨は
彼女を娶って暮すだろう。
まわる まわる 彼女はまわる
おどれ おどれ 彼女よおどれ
高らかに 高らかに 静かな暗いその部屋に、響く彼女の笑い声。
誰の声も きくことはない もう従わなくてもいい。
眩しい場所とはもうさよなら。
ねえ それでどう?
眩い光の中で、きらびやかな王座
多くの大臣や召し使いを従えて、優雅な生活を送っている。
美しい絵画、高価な宝石、素晴しい料理。
誰もが憧れて止まぬ世界のその中心。
次の朝、彼女は王座にいない。
|